歴代の拍手たち。
□十三代目
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生徒たちで騒がしい廊下を黙々と進む。
私の隣を歩く、恋人の伊之助は、機嫌が悪いのを隠しもせず、不機嫌オーラを撒き散らしていた。
「なぁ、やっぱサボろうぜ。」
漸く口を開いたと思えば、伊之助が発した言葉は、授業を放棄するお誘いだった。
予想通りの言葉に、私は内心で苦笑を零す。
「ダメ。」
「何でだよ!」
「伊之助、単位大丈夫なの?」
「うっ…」
「進級かかってるんだから、ちゃんと授業に出ないとダメよ。」
「けどよ、」
「このままだと、一緒に卒業出来なくなっちゃう。」
授業に出ても、先生の話を聞かず、碌にノートも取らない伊之助の成績はボロボロで。このままでは、卒業はおろか、進級すら危うい状態だった。
事態を重く見た私は、まずは伊之助を授業に出席させる事から始めたのだが、早くも試練が訪れた。
選択教科では、私と伊之助は違う教科を選択している。つまり、授業を受ける教室が違うのだ。
何処へ行くにも、何をするにも、常に一緒に行動したがる伊之助は、選択教科で私と離れるのが不満らしい。
彼に愛されている事を実感出来て嬉しい限りだが、ここで絆される訳にはいかない。
「…お前は平気なのかよ。」
「え?」
「俺はお前と離れたくねぇ。お前は違ぇのかよ。」
足を止めた伊之助が、真っ直ぐに私を見つめて問いかける。言句を零しつつも、伊之助は私と繋いだ手を離さず、ギュッと力を込めた。
表情こそ不貞腐れているものの、伊之助の瞳の奥に、少しだけ不安が揺らめいているのを、私は見逃さなかった。
伊之助の手を握り返しながら、私も気持ちを打ち明ける。
「私だって伊之助と一緒にいたいよ。でも、このままだと私が先に卒業して、伊之助は留年しちゃう。そんな事になったら、長い間離れ離れになっちゃうんだよ?」
「……っ、」
「そうならないように、まずは授業に出て、ノートを取るところから始めよう?次の授業が終わったらお昼だし、一緒にご飯食べよう。今日は伊之助の分も作って来たの。」
「マジか!?」
「うん。だから授業頑張ろうね。」
「よっしゃー!任せろ!!」
俄然やる気を出した伊之助に笑みを零していると、廊下の先で、此方の様子を窺っていた、炭治郎と善逸の姿を捉えた。
彼らも伊之助の進級を懸念しているのを知っていた為、二人に向けてVサインをしてやれば、炭治郎はパッと顔を輝かせ、善逸は安堵の息を吐いた。
友達思いの二人に笑みを零していると、伊之助に名前を呼ばれた―――瞬間。
ふにゅ、と唇に押し当てられた柔らかい感触と、周囲から上がる、黄色い声。
悲鳴と怒声が入り混じった声を上げながら、伊之助の元へ駆け寄って行く善逸を視界の隅に捉えながら、私はその場から動くことが出来なかった。
「昼飯楽しみにしてっからな!!」
先程までの不機嫌さは何処へやら。
善逸の怒涛の攻撃を軽く躱しながら、伊之助は機嫌良く炭治郎たちと廊下の先に消えた。
残された私は、周囲からの質問の嵐を回避すべく、急いで教室へと逃げ込んだのだった。
キメツ学園!シャツのボタン全開なのが伊之助らしくていいと思いました。(小並感)