□現状
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まずは二日間寝ずに魔方陣の作成と徹夜明けでベッドに倒れこんだ桜が回復するのを待つのに、冴美は館に居候している小さなひとと話をして暇を潰していた。


彼の名はビルボ・バギンズ。

彼の名と誕生日を聞いて、冴美は思わず彼を“読んで”しまった。

「…」

何か得体の知れないモノに生かされているこの老人は、きっと、老いていくばかりなのだろう。


けれども、彼と話をするのは面白かった。

冴美が知らないこの世界や、今まで居た世界で使われていた文字と何処か通じる言葉。

彼の冒険の話や、冴美の使える魔法について。

「君と話すのは面白い」

とある日暮れ、彼はパイプを吸いながらそう言った。

「こんな面白い話をする君が居た世界はさぞかし面白いんだろうね?」

「…」

今まで快活に喋っていた冴美の口が止まる。

「どうかしたかな?」

「…いや」

首を振り、冴美は言った。

「…そうだな」

考えて、考えて。

冴美は、ゆっくりと言葉を紡いだ。

「いいところだよ」

ビルボはそりゃそうだ、と笑って頷いた。



「お、あれは君のお連れさんじゃ無いのかい?」

不意にビルボが向こうを指した。

桜は同じ顔をしたエルフに両側を挟まれ、会話を繰り広げているようだった。

「やぁ、エルロヒアとエルラダンだ。二人が彼女に話しかけるとはね」

どうやら彼等はエルロヒア、エルラダンと云うらしい。

一方が少し離れて刀を抜き放った。

桜がげんなりと言った表情をする。

「あの二人に挟まれてああ云う表情をするのも珍しい」

ビルボは可笑しそうに笑う。

「例えそれが休み明けの剣術指南でもか?」

「さぁ、わしには解らんが。だがお前、お連れが起きたならエルロンド卿の所に言った方がいいんじゃないのかい?」

「あ、そか」

立ち上がった冴美は、めんどくさそうに二人の剣を避けている桜から視線を外して立ち上がった。

「うち、行ってくるわ。じゃぁな、ビルボ」

「またお前の話を聞かせておくれよ」

「もうネタねぇよー」

そう言いながら走り去る冴美を見て、ビルボは再びパイプを吸った。

「若いのう…」


じじくさい事を呟きながら。
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