短編小説

□永遠を誓いましょう
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「…さっさとオレと誓えよ。なぁ」
「・・・」



「ぶほっ」
「ちょっセンパイ!?」
「わ、悪いぶふ、」
「悪いと思うなら笑わないで欲しいっス!!」

ぷりぷりと効果音がしそうな、さほど怒っていない顔と声で目の前の男、黄瀬涼太は俺に呆れたという視線を寄越す。
俺はそんな視線から逃げるように顔を横に逸らすとさっきまで使っていた台本を視界に入れてしまい思わずまた笑いが込み上げてきてしまう。

「いや、本当に悪いって思ってる・・・」
「語尾も体も震えてますけど。もぉ、センパイが言えって言ったから言ったのに・・・」
「拗ねんなって。」
「拗ねてません。」
「拗ねてんだろうが。」
「拗ねてないって言ってるっしょ!」
「あーもう悪かったって・・・でも、やっぱスゲェなお前は。」
「まぁそりゃあ一応現役俳優なもんで。」
「でも俺はいつものお前のが好きだわ。」
「ちょっいきなりデレるの禁止‼︎」
「はぁ?」
「あっその顔可愛い‼︎」
「やっぱ訂正。もうちょっと落ち着き欲しいわ。」
「えーオレ超落ち着いてるっスよ。」
「何平気で嘘ついてんだ。シバクぞ!」
「痛っ、もー言いながらシバク癖やめてっていつも言ってるじゃないっスかぁ。」

俺にシバかれたことが不満だったらしく黄瀬はこれだからセンパイは野蛮なんスよ、だとか俺のこと学習能力無いみたいに言うっスけどセンパイだって大概っスよだとかぐちぐち言ってきやがる。
そんな奴を横目に


「お前が演劇ねぇ・・・」


と、小さく呟いた。


黄瀬は高校卒業後芸能界一本に絞って仕事をやり始めた。何でも役者という仕事に興味を持ったらしい。
自分の体一つで様々な人格を演じること、自分の演技で人を魅了することがとても楽しいのだと以前彼は目を輝かせながら言っていた。その目はバスケをしている時と同じような輝きを放っていて眩しかったのと、こいつが決めた道にわざわざ俺が口を出すのもお門違いな気がしたので俺はただこいつの「バスケを辞めようと思うんス。」と言う言葉に頷いただけだった。


確かに高校時代の俺と黄瀬の繋がりはバスケだけだった、と言うかバスケが全てだった。
けれど、黄瀬が高校3年生の冬バスケ部員とOBという関係の他に恋人と言う関係性が加わった。

ウインターカップが終わった次の日、俺は体育館に呼び出された。
そこであいつは綺麗に笑っていた。いつものワンコみたいなくしゃくしゃの笑顔じゃなくてモデルみたいな、と言うかこいつはモデルなんだけど、とにかく写真集に載っているキセリョの顔でそこにいた。

体育館に入った俺に黄瀬は静かに頭を下げた。

「ごめんなさい。」
「…」
「優勝できなくてごめんなさい。」
「・・・」
「エースなのに勝たせられなくてごめんなさい。」
「・・・」
「約束守れなくてごめんなさ・・・」

最後の方はもう言葉になっていなかった。小さく絞り出すように言った謝罪に俺はただ何も言うことができずにただそこに立ち尽くしてしまった。

小さな嗚咽が体育館に響く。
徐々に頭が冴えてきた俺は黄瀬に何でそんな風に謝るんだよ。それでも一生懸命海常の為に戦ってくれたんだろと、言葉をかけた。すると黄瀬は頭を上げて苦しそうに笑った。


「ほはは、センパイは優しいっスね。本当は言うつもり無かったのにそれなのにさ、そんな事言われたらオレ…」
「黄瀬?」
「センパイ、どうしよう。オレ、オレ本当は優勝してかっこよくセンパイに好きですってこくはくするつもりだったのに、それなのにオレ負けちゃって、負けたオレに告白する権利なんか無いのにでもやっぱり諦められなくて、好きがぐちゃぐちゃになってもう胸が痛くて、こんなの初めてでどうしたらいいかわかんない、ねぇ助けて助けてよ。」
「…の、」
「へ?」
「この、馬鹿野郎‼︎何が告白する権利だよ、告白すんのなんかに権利なんか必要なわけあるかっお前頑張ったんだろ、精一杯やった結果だろ、だったら胸張れよ好きだって気持ちがぐちゃぐちゃなら吐き出しちまえ助けを求めるくらいならきちんと気持ちぶつけてこい!そしたら俺が全部受け止めてやっから‼︎」
「へ。」
「んだよ。まだ何か問題があるってんのか?」
「え、いやあの。センパイもオレの事好きなの? 」
「好きだよっ悪いか!」

俺はこの時の黄瀬の間抜け面を一生忘れることはないだろう。
ってくらいにこいつの顔は酷かった。ポカーンって言葉が頭上に浮かんでてお前本当にモデルかよって思わずツッコミかけた。

まぁ、そんなこんなで俺は黄瀬と付き合う事になった。


いつからお互い好きだったかわからない。考えようとしたこともない。気がついたら好きになっていたって表現が一番的確だと俺は思う。一回黄瀬にセンパイは俺のどこが好き何スか?って聞かれた時があったけども何も思いつかずうんうん唸っていると、センパイのバカっと泣きながら部屋に引きこもられたことがある。
その姿や行動に不覚にもきゅんときてしまい、お前のそういうバカっぽいところと答えてやれば今度は至極納得いかないという顔をされた。勿論その場で「折角答えてやったのにその顔はなんだ。」とシバいてやった。
そんな行動にも黄瀬は横暴っスと言っていたが俺は知らんぷりだ。だってあれだ、犬の躾は大事だって本にも書いてあったしな。
逆に黄瀬に聞き返してみればまぁ喋ること、喋ること、お前どんだけ話すんだよって思うくらいペラペラペラペラ奴曰く俺の好きなところを話し出す。お前そんなんに頭使うくらいなら別のところで頭使えよと言ってやれば「オレ、好きなことにはいつも全力投球スから」と、無駄にいい笑顔で言ってきたのでシバいた。決してきゅんときたことを隠すためにシバいたんではない。あくまであいつの無駄にいい顔、森山曰く、『シャララスマイル』にイラついただけだ。


そりゃ、男同士だとか、相手はモデルだとか、いろいろ考えた時期もあったけどもこいつの傍にいて、こいつが幸せそうに笑いながら俺の名前を呼ぶのを聞いていたらもう何だか全部どうでも良くなってきてしまった。本人に言うつもりはねぇけど。

そんなわけで俺たちは俺が大学を卒業して、社会人になった今でもこうして頻繁に会うくらいにはまぁ、順調だ。

「センパイそれまだ言ってんスか・・・オレが役者ってそんなに似合いません?」
「いいや。十分よくやってると思うよ。」
「へっ、ちょ、もうっだからいきなりデレるの禁止!今日のセンパイおかしいっスよ‼︎」
「はぁ?」
「あーもう本当センパイってば無自覚天然タラシだから困るっスわ。」
「んだよ。」

珍しく褒めてやればこれだ。

「にしても、本当どうしたんスか?いきなり家に来たと思えば、台本見つけてここのセリフ言えだなんて・・・」

そう言って黄瀬は目線を先ほど持っていた台本にうつす。

いけね。本来の目的忘れるとこだった。

さっきも言ったが、俺と黄瀬の付き合いは長い。異性の恋人同士なら結婚を視野に入れるくらいには長い。そう、長いんだ。

どうやら俺は年を取るたび欲張りになっているみたいで黄瀬のこれから先の人生も独占したいと思うようになってきたわけで、まぁ平たく言えば俺はこいつと一生一緒にいたいと思ったんだ。
思ったら直ぐに行動に移さなきゃだろ?

俺は口の端を小さく上げ、ポケットに突っ込んだ四角い箱を確認する。

「なぁ、黄瀬。」

さて、お前はどんな表情するかな?いつもみたいに泣いて喜ぶだろうか?拒否、されることはまずねぇ。うん、ねえだろ。それとも、オレが渡したかったのにって悔しがるだろうか・・・ありえそうだな。これがしっくりくるわ。
いいじゃねえか、ベットでは主導権譲ってやってんだ。これくらい俺に決めさせろ。

とりあえず、


永遠を誓いましょう

子供は産めないし、世間には認められない
素直にはなかなかなれねぇし、すぐ手が出る

そんな俺だけど、世界で一番お前が好きだと胸を張って言えるから、隣にいてくれ・・・なんてな。

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