プリムラ

□2.非日常の始まり
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それは定められた日曜日。
ツカサは起きるとすぐに身支度をし、主が起きてくるのを待つ。
世間は休日で賑わっているのだろう。
ヤマトに仕える身の彼女に休日は関係ないのだが、何も知らない人々のことを思うと少しだけ哀れに思えた。
これから起こる災厄に、どれだけの者が立ち向かえるのだろうと。
その後待つ世界に、どれだけの者が生き残れるのだろうと。
そしてヤマトの部屋の扉が開いた。

「おはようございます、ヤマト様」
「ああ。…覚悟はいいか」
「ヤマト様から聞かされた日からずっと覚悟してました。心配には及びません」
「当然だ。そうでなければお前はここにいないのだから」

進むヤマトに付き従うようにツカサは歩く。
目指すはジプス東京支局。
もうこの屋敷に帰ることは無い。もうじき全てが壊れるのだから。




ジプス東京支局


「局長」

出迎えたのは局員の中でも古株である迫真琴だった。

「出迎えご苦労、迫」
「局長、明星、お待ちしておりました」
「ツカサで構いません、迫様」
「こちらもマコトで構わんよ。…本局及び全支局、約束の時刻に備えております」

ツカサが横目で様子を見ると、局員は既に準備万端のようだ。
…ただ、問題があるとすれば局員の数が少ないこと。

平安時代から日本の霊的守護を担っていたジプスだが、時代の流れに逆らえず、時の権力者に疎まれた結果規模が縮小されてしまった。
そのため局員は各支局20人程度で、正直心もとないのではないのかとツカサは懸念する。

「不安か、ツカサ」

彼女の心を読んだようにヤマトが話しかける。

「…人数が足りないのではないかと思います」
「その点は重々承知している。だが仮にもここの局員だ、多少のことではくたばらんだろう。…優秀ならな」

その言葉の重みはツカサとマコト、両方に伝わった。

「約束の時刻に何があるか分からん。全員どんなことがあっても対処しろ」

ヤマトの言葉で局員の間に緊張が走った。
約束された七日間が今日から始まる。
そしてその始まりの鐘も、もうすぐ鳴る。
3人が司令室に移動した時だった。


ゴゴゴゴゴゴゴ



「!」

突如地震が起こる。

(来た…!)

ツカサはヤマトを真っ先に机の下に避難させ、自らも潜り込み収まるのを待つ。
しばらくして、揺れは収まった。

「なるほど、これが始まりか」

ヤマトは不敵に笑う。
周囲は状況確認に追われていた。
どうやらここの損害は少ないらしい。

「市街地に、悪魔反応!」

局員がざわめいた。

「事前に通達した通り、外に出て自衛隊を押さえる。全員悪魔召喚の準備はいいか」

マコトが声を上げ、局員を引き連れて出て行った。

「…さて」

ヤマトは司令室の椅子に座る。

「まずは最初の敵か。どう出るか」
「ヤマト様、私も出撃可能なら出撃すべきかと」
「その必要はない、まだな」



『報告、民間人が悪魔を召喚』


局内がざわめく。
ジプス局員は召喚式を使って召喚する。ジプスの存在を知らない一般人に召喚ができるとは思えない。
「どういうことだ」
『詳しくはわかりませんが前々から民間人の噂の的になっていた死に顔動画サイト・ニカイアの影響かと思われます』
「詳しく調べろ。できれば接触者を連れてこい」

さすがのヤマトも少し驚いているようだった。

「ツカサ、そのサイトについて知っているか?」
「いいえ」

少しして先ほどのジプス局員から報告が上がった。
この災厄の前から『死に顔動画配信サイト・ニカイア』なるものが人々の噂の的となっていたらしい。
登録すると自分の近しい者の死の際の様子が配信される。
実際彼らは災厄の直前に互いの死に顔動画が届いたという。
それと悪魔召喚アプリの関連性は分からないがおそらく関連性は高いとみて間違いないだろう。

「なるほどな。あとは使用者からの情報次第だ」
「場合によっては協力してもらいましょうか?」
「まだ結論は出ない、が視野に入れるべきかもしれんな」



それからしばらくした後だった。

「悪魔とは別の反応、出ました!」
「敵出現!周辺にいる者は直ちに現場へ向かえ!」

「出たか」

ヤマトが見据えるモニターには人類の敵であるセプテントリオン、その第一の剣であるドゥべが映っている。
ヤマトとツカサは全てを知っている。
アカシックレコードの管理者、ポラリス。
そのポラリスが人間を殲滅するために送り込む刺客、セプテントリオン。
全てを知っているとはいえ、モニター越しに映るそれは、ツカサの目に終末という言葉を焼き付けた。
アイスクリームのコーンのような下部に、半円の頭部が載っていて、ゆらゆら揺れている。

ドゥべはその頭部を肥大化させ、爆発させる。
先程はそれで民間人の犠牲が多く出たようだ。
局員の人数が集まり、一斉攻撃を仕掛けようとしたらドゥべは上空に逃げてしまった。


 
 
―2013.6.2
 

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