プリムラ

□5.大阪にて
1ページ/1ページ




新幹線に揺られて大阪に着いた。
ヤマトとツカサは会議があるためすぐに本局へ向かい、ウサミミたちは自らの目で大阪の状況を見て行くようだ。
案内に同じような立場の民間人である和久井啓太を付けたのでおそらく大丈夫だろう…とツカサは思ったが、彼らの間にある雰囲気を見て大丈夫かなと不安になった。
どう見てもケイタは一匹狼タイプである。

だがそれを気にするより先に本局での会議である。
迎えの者と共にツカサたちは本局へ急いだ。




ジプス大阪本局、会議室


「さて、会議を始めよう」
ヤマトの一声で会議が始まった。
まずは各支局の状況、そして召喚アプリ悪用者の対処、民間人協力者の対処。
各支局がある都市はやはり壊滅状態であり、召喚アプリ悪用者の影響もあってかかなり混沌とした状況のようだ。
気になるのは名古屋の報告で、こちらは悪用者というより暴徒という感じということだ。
医療品や食料品をジプスが持っていることが気に食わないらしい。
とある男が暴徒をまとめているという情報が入ったそうだ。
そして菅野史は依然として見つからない。
光明の見えない、その時だった。



けたたましくサイレンが鳴る。



「どうした」
「何者からか、サイバー攻撃を受けています!」
「…急いでサーバーのある地点を確認しそこへ急げ」
「ジプスに攻撃するなんて…」

局員の戸惑いが広がる。

「サーバー特定、フェスティバルゲート!直ちに現場に向かいます!」

そして何人かの局員が現場に向かい、しばらくして事態は収まった。
局員の報告によると現場にはウサミミたちが居合わせていたらしく、彼らの証言によると悪魔に操られた様子の女がハッキング作業をしていたらしい。

「悪魔が人を操る…?」
「ヤマト様、悪魔ではないかもしれません」
「だとしたら…悪魔でない者の仕業と言いたいのか?」
「それができそうな者を、私たちは知っているではありませんか」

ツカサの言葉にヤマトが考え始めた。
彼らはその人物を知っている。

「確かに、奴なら可能かもしれんな。だが手がかりが少なすぎる」
「可能性の一つとして留めておいてくださいますか?」
「構わん。あながち間違いではないだろうしな」




しばらくして、ウサミミたちがケイタに連れられて本局へやってきた。
ダンサーのような女性が仲間に加わっている。
ジプスに協力したいということで彼女は別室に案内し説明を受けることになった。

さて、ヤマトはウサミミたちに東京、大阪、名古屋、札幌、福岡、別府の被害状況の映像を見せて現在、この大災害についての説明をしている。
先に述べた6つの都市は被害があったのもの連絡を取れた都市だ。
それ以外は連絡すらままならず、海外も似た状況である…とヤマトは語っている。

人類は未曽有の危機に瀕している。
それが管理者ポラリスによる裁定…とまでヤマトは明かすつもりはないようだ。
恐らくもう少し時が経ってから言うのだろう、彼が望む世界を作るために。

ツカサは彼らの様子を見ながら立っていた。
全て聞かされていたこととはいえやはり重い。
そして終わった後のことを考えても重かった。

そしてそれは一般人である彼らには余計重かったようだ。
全員考えるために一旦外に出て行く。


「フン、やはり一般人には荷が重いか」
「…私はずっとヤマト様からお話を聞かせていただいてたので、貴方に仕える身として覚悟はできていました。ただ、彼らも昨日、始まるまでは一般人として普通の生活を送っています。受け止め、答えを出すには時間が必要でしょう」
「分かっている」

ツカサは待つ間にヤマトに緑茶を淹れることにした。




緑茶をお盆に乗せて、ヤマトのところへ戻ろうとした時だった。

「あ、アンタもジプスの人?」

不意に声をかけられてツカサは振り返る。
先ほどジプスに入りたいと言っていた女性がこちらにやってきた。

「ジプスの人…と言われたら正確には違うかもしれませんが」
「ウチは九条緋那子。ヒナコでええで」
「明星司です。ヤマト様にお仕えしております」
「ツカサちゃんか。あの局長さんに仕えとんか、お疲れちゃんやで」

ヒナコはにこにことツカサに話しかける。
一方ツカサは九条という苗字に心当たりがあった。

「間違いでしたらすみません、もしかして日本舞踊の方ですか?」
「なんや知っとるん?知ってる人って少ない思ってたわ」
「一般常識だ、ということでヤマト様に教えられましたから」
「…一般常識…なんかな」

ヒナコは苦笑した。
日本舞踊の九条流。
ツカサはヤマトに映像を見せられた程度だったが流麗な舞であったことはよく覚えていた。

「ジプスへのご協力、感謝します」
「何言うとるん、こんな時やからこそ自分ができることを最大限にやらないかんやろ」

ヒナコはそう言い切る。

「この非常事態にそう言い切れることは尊敬に値します」
「ほんま?いやー、褒められると嬉しいなあ!」

バシバシとヒナコがツカサの背を叩く。
思わず緑茶がこぼれないか心配になったが無事のようだ。

「せやかてツカサちゃんも頑張っとるやん。局長さんはウチらよりずっと大変やろ?それを支えるって大事なことやで」

そこでヒナコはお茶を運んでることに気が付いたようだ。

「ごめんな、お茶運んどる途中やったな。はよ行ってあげて」
「いいえ、話せて嬉しかったです。ではヒナコ様、また後ほど」
「ほなな」

ツカサは先ほどより軽い足取りでヤマトの元へ戻った。
ヒナコから元気をもらったような気がした。




―2013.6.4
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ