プリムラ
□7.蚊帳の外
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災厄の3日目、火曜日。
昨夜東京支局に戻ったが、問題が発生した。
今朝、名古屋支局との連絡が途絶えたのだ。
東京からダイチが物資運搬のために名古屋へと行っていたのだが彼とも連絡が取れない。
ヤマトはウサミミたちを名古屋へ向かわせることにしたようだ。
「ヤマト様、私も」
「判断を誤るな、ツカサ。お前まで行ったら東京の戦力が落ちる」
東京も全く問題が無いわけではない。
現に悪魔によって民間人の被害が増大しているし、召喚アプリ悪用者の数も減らない。
「………。」
「それに奴らはメラクすら倒した奴らだ。そう簡単にくたばりはしまい?」
「そう、ですね」
心配だがツカサはグッとこらえる。
まだ見つかっていない菅野史も心配だが、彼女は与えられた業務をこなすことにした。
忙しさに没頭して、ウサミミたちのことを考えないようにした。
しばらくして、局員のアナウンスが響く。
『敵、出現!場所は名古屋です!』
「なっ…」
マコトがうろたえる。名古屋にはウサミミたちがいる。彼らに行ってもらわないと手遅れになるかもしれない。
「局長、私が名古屋へ行きます!」
「任せた」
マコトが飛び出した。
しばらくしてマコトから連絡が入る。
名古屋に現れた敵のフェクダはウサミミたちが倒したそうだ。
名古屋支局との連絡が途絶えた原因は暴徒がジプスを襲撃したからだった。
暴徒を率いていたのは栗木ロナウド。ヤマトはその名前に心当たりはないようだし、ツカサも覚えがないがマコトにはあったらしい。
ロナウドは逃がしてしまったようだ。
「…そうか、行くぞ名古屋に」
「はい」
ヤマトとツカサは名古屋へと向かった。
名古屋に着く。
「や、久しぶり」
「フミ様!」
行方不明だったはずの菅野史がそこにいた。
「あー、ツカサ。元気だった?」
「大丈夫です、それよりフミ様は?」
「んー、別になんともないかな。精密検査しなきゃいけないかもしれないけど」
「ご無事で何よりです」
ツカサが笑っているところにヤマトが入ってきた。
「菅野か、説明してもらうぞ」
「なんか悪魔に操られてたってさ。それで基地局ハッキングしてたみたい」
「記憶はないのか?」
「月曜の朝からさっぱり」
フミは相変わらずのマイペースっぷりだった。
「…まあいい、遅れを取り戻せ。そうだな、システムの復旧を急いでもらおう」
「はいはい。じゃあね」
フミはひらひらと手を振って去って行った。
名古屋支局の復旧の目処はまだ立たないらしい。
末端のシステムまでやられており、かなりの時間を要するようだ。
その遅さにヤマトは苛立っていた。
「やはりクズはクズか」
「でも、名古屋支局が奪還できてよかったです」
「楽天的だな、お前は」
「手伝ってきますね」
「…好きにしろ」
そしてツカサが復旧作業を手伝って一段落ついた時だった。
「これ」
唐突に目の前に器が差し出される。
目の前には帽子を目深にかぶった青年がいた。
「ええと、あなたは?」
「鳥居純吾。ジュンゴでいい」
「私は明星司です。名古屋ジプスの協力者の方ですか?今回は災難でしたね」
「うん。でもウサミミたちが助けてくれた」
ジュンゴが笑う。
「これ、食べて。茶わん蒸し」
「ジュンゴ様が作られたのですか?」
「うん。食べたら元気出る」
そう言われてツカサは一口食べた。
「…おいしい」
「よかった」
ジュンゴがとても嬉しそうにしていると後ろから小柄な少女がやってきた。
「あ、ジュンゴ!…と、誰?」
「ツカサ」
「明星司です。ヤマト様にお仕えしております」
「ふーん。ヤマトって局長のことだよね?あの偉そうな」
「実際偉い方ですけどね」
ツカサは思わず苦笑する。
「私は伴亜衣梨。ツカサさん、手が空いてるならこっち手伝ってほしいの。ジュンゴもほら」
「分かりました」
「わかった」
しばらくして、なんとか業務ができるほどには復旧が終わった。
ヤマトも後始末に忙しかったらしく、心なしか疲れているように見えた。
「…帰るぞ、東京に。大阪の柳谷に連絡を入れろ。明日健康診断を行う」
「そう、ですね。色々ありましたから」
「対象は今までの協力者だ。念のためお前も受けろ」
「はい」
帰りの新幹線で、ツカサが気付くとヤマトが眠っていた。
彼の寝顔を見ることは珍しいと思い、よほど疲れたのかと思った。
「たまにはハーブティーでも喜んでくれるでしょうか」
呟きに答える者はいない。
ヤマトが寝ている意味に答える者もいない。
―2013.6.5