プリムラ

□17.入念な下準備
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さて、都庁の方陣を扱うためには準備がいる。
まず一つ目は、龍脈の力をタワーに送っているクサビをそれぞれ抜くこと。
もう一つ、鍵となる悪魔を使用すること。
しかし問題がある。
後者は昨日、東京タワーの電源を落とした影響で、あの土地は少なからず無の浸食を受けている。封印した悪魔も無事ではあるまい。
欠けた概念は誰かが依り代になるしかないが、こちらは健康診断のデータを参考に選ぶそうだ。

この2つさえ整えば、龍脈は龍として具現化し、峰津院の敵全てに襲いかかるだろう。
そしてクサビを抜くと同時に、ツカサたちは無の浸食のタイムリミットを早めることになる。

ヤマトは作戦を練るために下がった。
ツカサもそれに付き従い、下がる。



ヤマトの部屋にて、ツカサはいつも通り緑茶を淹れた。

「…何を考えている」

ヤマトはツカサの感情の揺らぎに気付いていたらしい。

「自らの行く末についてです」
「珍しいな、お前が悩むのは。大体即決だったと記憶しているが」
「いけませんか?」
「構わん」

そう言ってヤマトは健康診断結果に目を通している。

「…私は負けるつもりはない」
「はい」
「………。」

ここでヤマトは何故か黙る。
何か言い淀んでいるようで、ツカサは思わず首を傾げたが、彼は気にするな、と言った後そのまま診断結果に目を通し続ける。

「…よし、ルーグへの依り代が決まった。作戦を練るぞ」

その表情に、何故か迷いがあることにツカサは気付いた。気付いて、気付かないふりをした。
きっと聞いても教えてくれないだろうから。



まずはクサビを抜くこと。これ自体はうまくいった。
クサビ管理施設のある富士山が噴火するというハプニングがあったが別に支障は無かったので置いておく。

そして次に誰かに悪魔の依り代になってもらい、龍脈の鍵を開けてもらう。
1つ、問題がある。依り代になるということは決して安全ではない。
ましてや概念の欠けた悪魔を降ろすのでなおさら命の保証はできない。
…もしかすると、死ぬかもしれない。



「それでは、新田維緒を連れて宮下公園まで来い」



ヤマトはさらりと依り代になる者の名前を告げた。
聞かされた時、動揺したのかイオは走り去る。
無理もない、もしかすれば死ぬのかもしれないのだから。
ツカサはイオのことを追おうとしたが、そこで携帯がメールを受信する。

「!」

このタイミングで来るメールはもう分かりきっている。
ツカサは携帯を取り出すと、表示される『Nicaea』の文字を睨んだ。

再生されるのはイオの死に顔動画。
依り代としての役目を終えたイオがそのまま目覚めない。
誰にも死んでほしくない、ツカサはそう思いイオを探すことにした。



東京・武芸館前



ツカサはイオの姿を見つけたがすでにウサミミがイオと話していた。
なんとなく邪魔をしてはいけないと思ったので、そのまま話が終わるのを待つ。
しばらくしてウサミミが立ち去った。

「あの、イオ様」
「ツカサさん?」

イオはツカサを見て目を丸くしている。

「…その、ウサミミ様の後ですから、私の言葉は薄いかもしれませんけれど」

一つ一つ、言葉を選び、ツカサはやっと口に出した。

「帰ってきてください。もしかしたら明日あなたと敵対するかもしれない。それでも私はあなたに死なれたら悲しい。…誰も死んでほしくないんです。甘い考えかもしれませんが」
「ううん、ツカサさんは優しいです」

イオは首を振る。

「そう思い続けることって、きっと簡単じゃないって思うから」
「イオ様…」
「大丈夫、私ちゃんと帰ってきます。みんなのこと悲しませたくないもの」

そう笑うイオを見てツカサも笑う。

「イオ様、変わりましたね」
「そう、ですか?」
「どちらかというと引っ込み思案で、自分の意思を示すのが苦手な方だと思っていました」
「…だとしたら、変わったのかもしれません」
「それでは、準備が出来次第宮下公園へお越しください。…倒しますよ、ミザール」
「…はい!」

ツカサもイオを置いて宮下公園を後にした。




―2013.6.11
 

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