プリムラ

□18.武曲、殲滅
1ページ/1ページ




一同はイオに鍵となる悪魔、ルーグを降ろすために宮下公園へとやってきた。
既に無の浸食は始まっていて、景色が虫食いのようになっている。
そして、なんだかんだで仲間内で揉めるのは好きじゃないのか、それともイオを守りたいからか、一同は一致団結していた。

紆余曲折を経て、イオにルーグが降りる。
あとはイオとルーグをシンクロさせて、龍脈を開くだけだ。



都庁



「では私は方陣へ行く。なんとしてでも新田を守れ。…武運を祈る」

ヤマトはそう告げて立ち去る。
ツカサはここはイオを守るべきだろうと残ることにした。

「…今、武運って言った?」
「言ったな」

ダイチがぽつりと漏らす。
ウサミミも嫌な予感がするらしい。
ツカサは自分の持っている知識を伝えることにした。

「この術式は危険なものです。おそらくイオ様にかかる負担は尋常ではないはず。…イオ様の回復は私にお任せください。皆様は敵の殲滅を」
「やはりか」

マコトも感づいていたらしい。

「うう〜…でも新田さんのためだし…俺頑張る!」

ダイチがそう言って、全員頷いた。
そして各自イオ防衛のため戦闘に入る。
悪魔を殲滅した後、ヤマトから総員退避の命令が下った。

「どうか、帰ってきて」

離れる前に、ツカサはそっと呟いた。



イオが宙に浮き、光の槍を方陣へと穿つ。
地響きの後に、龍の咆哮が響いた。

「来る…!」

具象化した龍脈の龍はミザールめがけて突撃し、その口にミザールを咥えて都庁のビルに激突した。
しかしミザールはしぶとく、龍にしがみついている。
このままでは飲み込めない。

そんな状況を心配するより先に、彼らはイオが心配だった。
彼女はゆっくりと降りてきて…目を覚まさない。

「新田、しっかりしろ!」
「新田さん!」
「イオちゃん!」

「…起きてください」

ツカサも思わず声に出す。
彼女に死なれるのは嫌だ。この仲間に死なれるのは嫌だ。
たとえ明日、敵同士になるとしても。


「イオ!」


ウサミミがイオに呼びかける。


「ん…んん…」


皆が見守る中、イオはゆっくりと目を開けた。

「あれ…私…」

全員が、喜びに沸いた。

「おかえり」
「あ…。…た、ただいま」

イオは、死なずに済んだ。
それを皆で喜び…次はミザールを完全に龍へ食わせに行くことになる。

「ツカサ、行って来い」
「いってきます」

ツカサは笑い、皆と屋上へ向かう。




都庁屋上


「往生際の悪い奴やな」


ケイタがぼそりと呟く。
現在の状況は傍から見ると怪獣戦争だ。
喰われまいとミザールは触手を使ってしがみついており、逆に龍脈の龍は食ってやると口を動かしていた。
龍脈の龍自体、使役できる時間は限られている。
このまま放っておくと、龍が消滅しミザールが世界を覆い尽くす可能性があるのだ。

「触手を切り離せばいいのね?」

オトメの問いかけにツカサはうなずく。

「恐らく切り離した瞬間ミザールが分裂すると思います、油断しないでください」
「ちっちゃいミザールも残さず倒せってことだね?よし、頑張りますか」

全員、悪魔を召喚した。



触手を切り離しても切り離しても、ミザールは粘る。
おまけに分裂したミザールは小型のうちに倒さないと数を増やす。

「ああもうしつこい!」

アイリが叫んだがまさにその通りだ。

「小型の殲滅は引き受けます、アイリ様は触手に専念してください」
「わかった!」

ツカサは小型ミザールの群れに向き合う。

「さあ、私が相手になりましょう。アリラト、ラクサーシャ」
『我の出番か?』
『分かりました』

使役する悪魔を引き連れて、彼女は笑う。

「ミザールの触手が短くなっている、もう少しだ!」

ウサミミの声に背中を押され、彼女は群れの殲滅に励んだ。
火炎で焼き、攻撃し、成長させる暇を与えない。
そして群れの殲滅が終わった頃、ミザールの触手は完全に切り離された。

「やった!」

後は龍脈の龍が怒涛の勢いでミザールを飲み込み、首だけになって落ちた。
そして横になるとそのまま石化した。
ヤマトからもミザール排除確認の連絡が入る。

勝利宣言で周りは喜んでいるがツカサは表情を変えない。
結論は早まった。自らの選択を決めなければならない。
答えは彼女自身すら分からないが、決めなければならない。


…ヤマトにつくのか、それとも。




―2013.6.14
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ