プリムラ

□20.決別の夜
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「ダイチ様」
「え、ツカサ?」

ダイチはぽかんとしている。

「少し、聞きたいのですが」
「え、な、何?ヤマトには絶対つかない…かんな!」

彼は怯えているがツカサは苦笑して首を振る。

「個人的に聞きたいのです。…どうして第三の道を探そうとするのですか?」
「さっきも言ったけど、両方極端だし…それに俺、この数日で色々あって気付いたんだ。自分から動かなきゃダメだって」

彼女の目の前のダイチは、最初に出会った時のお調子者の少年ではなく、まっすぐな目をしていた。

「…そ、そりゃさ、正直怖いけど…でも後悔はしたくない。せっかくここまでみんなで乗り越えてきたのに…人間同士で喧嘩してる場合じゃないじゃん!?だから…だから他に道は無いか探したいんだよ。時間は無いけど、俺は諦めたくない」

ツカサはダイチの目を見た。
そしてふっと微笑むと一礼する。

「…ありがとうございます、ダイチ様」
「え?」
「おかげで覚悟が決まりました」
「え、あ、そう…?」
「それではまた、後ほど」
「ああ、ま、負けない…って、え?後ほど?」

戸惑うダイチを背に、ツカサは大阪本局へ向かう。




大阪本局、局長自室


ヤマトはどうやら彼女を待っていたようだ。

「ツカサか、戦力の把握は済んだ。今から…」
「ヤマト様、よろしいですか?」
「…どうした」

ツカサは息を吸い込む。そして、言葉を吐き出した。



「お暇をください」



「…どういう意味だ?」
「私は、ダイチ様の唱える第三の道を支持したいと思います」

ヤマトの顔が歪む。

「馬鹿め、あんな妄言を真に受けるなど…お前らしくないな?」
「そうかもしれません。…でも私は、この数日を経て迷っていました。このままヤマト様に付き従ってよいものかを」

ぎゅ、と自らを奮い立たせるように拳を握る。

「それは、戦う仲間が増えていたから。…そして、私の中で彼らはかけがえのないものになっていたから。…だから私は探したいんです、主義主張を通さずに済む方法を。妄言と言われても構いません、私は自分の意志で決めました」

言い切ると同時に、ツカサの体が壁に押さえつけられた。
そしてヤマトの手が壁に触れ、ツカサの前に彼が立ちはだかった。

「…本気か」
「ええ」

ヤマトの冷たい目がツカサを見下ろす。
そこには苛立ちも含まれていた。

「私と敵対するぞ?」
「覚悟の上です。それでも、貫き通したい意地があるから」



「…何故」



小さく呟いた声はツカサに届かない。

「……好きにしろ」

そう言ってヤマトは彼女に背を向ける。
ツカサは一礼すると部屋から出て行こうとした。その瞬間、ヤマトが言う。

「次に貴様と出会った時は全力で叩き潰す。そして私の正しさを証明する」
「それはこちらもです。…あなたを倒して、私たちは道を貫く。…では、いずれ」
「…ああ」




ツカサの気配が完全になくなると、ヤマトは壁を殴りつけた。

「…何故だ」

震える声で呟く。

「何故分からない」

それは誰も見ていない、聞いていない。
誰もそれは見てはならない、聞いてはならない。
彼が見せる弱さの部分など、あってはならないから。

「…駒に執着しては大局を見失う。何故駒を一つ失っただけで動揺するのだ、私は何としてでも実力主義を叶えるというのに」

まるで無理矢理言い聞かせるように、ヤマトは言う。

「…ツカサ」

その呟きに、苛立ちと寂しさが混ざり合っていた。




再び、ジプス東京支局。
ツカサが中に入ると、

「ツカサちゃん!」
「おぶっ!?」

突然ヒナコに抱きしめられた。

「ひ、ヒナコ様?」
「ツカサちゃんおおきに!」
「え?」

見るとジュンゴ、イオ、ダイチ、…そしてウサミミが温かく見守っていた。

「いや、まさか本当に味方になってくれるとは」

ダイチはびっくりしている。

「ええと、よろしいのですか?」
「うん、ツカサが味方になってくれて、ジュンゴ嬉しい」
「私も、ツカサさんが味方になってくれて嬉しいです」
「俺はてっきりツカサはヤマトに付くと思ってたけど」

温かい歓迎を受けてツカサは再び一礼した。

「ほ、本当にいいのか?」
「ええ。ヤマト様とは決別してきました」
「度胸あんな…」

呆けているダイチにツカサは笑う。


「それではこれからよろしくお願いいたします」



それぞれの戦いが幕を開ける。




―2013.6.14
 

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