プリムラ
□26.主従対決
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残るヤマトを探しに、一行は大阪へ向かう。
ただ、ツカサにはヤマトのいる場所がなんとなく分かっていた。
龍脈の力が流れる場所、通天閣。
「や、ヤマトが通天閣で待ってるって!」
だからダイチがそう言ってきた時も何も驚かなかった。
やはり、と呟いた。
「行こう、決着をつけないと」
ウサミミの言葉に全員が頷いた。
通天閣
「来たか、ウサミミ。逃げ出したと思ったぞ」
「アホか、クソヤマトっ!ウサミミはそんな奴ちゃうわ!」
「黙れ愚民め、お前がウサミミの何を語るか」
ここでヤマトは表情を歪ませる。
「…貴様らがウサミミのガンだ、貴様らがウサミミを腐らせた!そのうえ駒であるツカサも腐らせるなど…!」
「ツカサは駒じゃないよ…!」
ジュンゴが言う。ツカサは口を開いた。
「…私はあなたを裏切った駒かもしれません。それでも後悔していない。だから、説得したいなら私たちを潰せばいい」
そして携帯を構える。
「…この場を限りに貴様らの首を掻き切って、ツカサとウサミミの目を覚ましてやるぞ!」
「落ち着けヤマト、実力主義じゃなくて別の方法を考えればいいだろ!」
「そう、みんなで考えればきっと…!」
彼らの言葉にヤマトは舌打ちをした。
「黙れ愚民、お前らはいつもそうだ…。価値ある人間に縋り付きその才能ごと地に引きずり下ろす…!」
「違うよヤマト、ジュンゴたちは仲間…」
「黙れ。貴様らは殺す。話はその後だ」
ヤマトが大量の悪魔を召喚した。
「…やっぱり戦わなきゃだめか」
「覚悟は決めていたでしょう」
全員止むを得ず悪魔を召喚する。
「ふふ、愚かな」
通天閣が光り、ヤマトが浮く。
「ちょ!?」
「…通天閣は龍脈を活性化させる機能があるんです。その龍脈を体内に宿すと…」
「まさにラスボスってこと?」
ツカサは半笑いで頷いた。
「身体に馴染めば馴染むほど、ヤマト様の力は脅威になる。…早期決着した方がいいです」
「分かった。でも、悪魔が邪魔だな」
「ジュンゴ、悪魔どうにかする」
「わ、私も…!」
「ラクサーシャ!アリラト!」
ツカサは悪魔と共に邪魔な悪魔を屠る。
ヤマトまでの道筋が見えた時、彼と目が合った。
彼はふ、と微笑む。
「…やはり来るのはお前か、ツカサ」
「行きます」
「ウチらも加勢するで!!」
悪魔がヤマトに襲いかかる。
しかしそれはヤマトの傍にいる悪魔が阻み、はじかれる。
「メギド」
そしてヤマトの魔法が悪魔を蹴散らした。
「ラクサーシャ!?」
ツカサのラクサーシャは深手を負い帰還する。
「…本気で勝つつもりか?脆弱だな」
「ええ。…来て、カルティケーヤ」
彼女は別の悪魔を召喚する。
孔雀に乗った女性が、ヤマトの周りの悪魔を蹴散らした。
彼らは互いに笑う。
「来い、一対一で相手をしてやろう」
「望むところです」
ウサミミたちはその光景を黙って見守っていた。
魔法が飛び交い、互いの悪魔も飛び交う。
その実力は五分五分、しかしヤマトには龍脈の力がある。
次第に、ツカサの息が上がってきた。
「…愚かな、龍脈の力を宿した私と戦うなど」
「貫き通したい、意地があるから」
「…そうか、ではここでお前の道は閉ざされる」
「ツカサ、逃げろ!」
ウサミミの叫びが耳に届く前に、ヤマトは腕を振り上げた。
「…メギド」
万能属性の炎が、ツカサに直撃する。
「ツカサっ!」
「ツカサちゃん!」
「ツカサさん!」
「……終わったか」
煙が立ち込めるのを見てヤマトは吐き捨てる。
…そして晴れたそこに、ツカサがいない。
「何!?」
「あ!」
ダイチが空を指さす。
黒い羽根が舞い落ちる。
ツカサは、空にいた。
「…はあっ、はあっ…ありがとう、バイブ・カハ」
『お安い御用さ。ほら、行ってきな』
ツカサを掴んで飛んでいるカラスは一声鳴いた。
そして即座にツカサを離す。
ヤマトめがけて落ちてくる彼女をヤマトは避けようと思わなかった。
むしろ、受け止めようと思った。彼女の一撃を。
「…やはりお前は、」
「はあああああっ!」
彼女の一撃がヤマトに直撃する。
そしてヤマトの体が地面に伏すと、逆にツカサはしっかりと立ち上がっていた。
「…え、マジ…?」
ツカサは回復していた。
「火事場吸血…というスキルを発動させていただきました」
全員が呆然とする中、ツカサはにっこりと笑う。
火事場吸血は、使用者が窮地に追い込まれていれば追い込まれているほどに相手にダメージを与え、そして回復する。
「私は追いつめられていましたので、効果は絶大のはずですよ」
「…見事だ。…負けるとは、な」
ヤマトはそう微笑んだ。
そしてすぐに喪失したような顔になる。
「…私が、私の野望が、ここで…」
そしてゆるゆると立ち上がり、立ち去ってしまった。
「ヤマト!」
「あの、ウサミミさん。私に任せて」
ツカサがヤマトを追う。
「ヤマト様」
「なんだ、笑いに来たのか?」
嘲笑する彼に、ツカサは首を振る。
「……力を貸してください」
「何故」
「あなたの叫びや、絶望や苦悩は、ずっと知っていました」
峰津院に生まれたものは、この国に命を捧げる。
ヤマトはそれに関しての異論はなかった。
ただこの国に絶望していた。無能どもに搾取される自分や血筋を嘆いた。
だからこそ、実力主義を叶えて改革を成功させようとした。
「でも、…やっぱりやり方を違えていると思います」
「だから離反したと?」
「そうです。…だから一緒に来てください。一緒に考えましょう、どうすべきか。…独りで、抱えないで」
ツカサはずっと歯がゆかった。
ヤマトが抱えているものに触れようとしても触れられず、ただ付き従うことしかできなかった。
ツカサは手を伸ばす。
「一緒に、来てくれませんか?」
「………。」
ヤマトは手袋を外し、彼女の手を握った。
「勘違いするなよ。あいつらに任せたら途方もない方向に行くかもしれないから協力するだけだ」
「はい、ありがとうございます…!」
「…まず雑務を処理してくる。合流はその後だ。来てくれるか、ツカサ。」
「はい!」
―2013.6.16