えんぶれ
□33.放す
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【33.放す】
「え、やだ!」
「ダメ」
「元いた場所に置いてきなさい!」
ジオにそう言われて、腕の中の子猫をギュッと抱き締めるジュン。
このマンションは、ペット可じゃないからいくら連れてきてもダメなものはダメなのだ。
泣きながらコートを着て出ていくジュンを追って、オレもジャケットを羽織った。あ、マフラー持ってってやろう。
「ぐすっ、…」
「なぁ、もう泣くなよ」
いつの間に買ってきていたのか、缶詰めと牛乳パックを小皿に持っている。…泣きながら。
「にゃぁ」
「ううぅっ、…うぅ」
「はぁ…」
一生懸命食べる子猫をボロボロ泣きながら見てるジュンと、それを立って見てるオレ。
「ほら、もう帰ろう?」
「ううううぅ〜…」
帰りたくないってぐずるジュンをズルズル引きずって、宿舎に帰ったのは出てから3時間も立っていた。
*
「はぁ、」
ため息ばっかりついてるジュンを連れてコンビニに買い物。
「はぁ、」
ため息ばっかりしてると幸せ逃げるぞ!というジオの言葉は、「オレの幸せはこの前置いてきたもん…」という言葉に打ち砕かれてた。
「あ、ジュン」
「はぁ、…なに?」
あれ、と指させば暗かった顔がパァァ!と輝いた。
「え、あれ!スンホ!あれ!あの子じゃん!」
「そうみたいだな」
「わ、わ、!!」
「お、もう友だちいるみたいじゃん」
「ほんとだぁ…」
グスリ、と聞こえた鼻をすする音は聞こえないフリしてジュンの手を握って宿舎に帰る帰り道では、ため息は聞こえなかった。
「…ジュン?それ持ってどこ行くの?」
「ジ、ジオ…!これは、その…」
「はぁ…カニカマは、猫にはダメだよ」
「!!そ、そうなの?!」
「(ジオもジュンには甘々だよな)」
「(あの子猫探し出したスンホに言われたくないけど)」
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