novel

□嘘つきは溺愛の始まり
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「…本日の講義はここまで」

オレには退屈すぎる大学の講義が終わる。

部屋の中は、浮き足立つ学生達の声であふれた。

「ーーを誘って、あとは……お!
幸村(ゆきむら)!オレらこのあとボーリング行くんだけど、お前も行こーぜ!」

普段なら全く耳に入らない周りの学生の声を、その会話だけしっかりと拾った。

「ああ、うん。いいぜ」

他の学生と話をしていた幸村真広(まひろ)は気さくに答える。

「んで、あとは……。
あ、えっとお前…矢崎捺(やざきなつ)だっけ?」

そこでなぜか、オレの名前が上がる。
一人帰宅しようとしていた足をとめ、振り返る。

「…なに」

「俺らこれから遊び行くんだけど、お前もいかね?」

「行かない」

我ながらそっけない声が出たなと思いながら、鞄を片手に教室を出た。

「…んだよアイツ、すかしやがって」

「矢崎っていっつもああじゃん?
愛想ないっつーか、冷たい感じ?」

「顔は好みなのにぃ〜。残念」

(…聞こえてるっつの。
お前らと下らないバカ騒ぎするのなんか御免なんだよ)

廊下まで聞こえてくる馬鹿でかい声にため息をつく。
パタパタと後ろから足音が近づいてきた。

「待てよ。ナツっ」

聞き慣れた声に振り返る。
この大学でオレを下の名前で呼ぶのはコイツしかいない。

「…真広」

「一緒かえろーぜ」

人なつっこい笑顔で肩を組んでくる。
前はよく振り払っていたが、もう慣れた。

「一緒にって…いいのか、さっきの連中と遊びの約束」

「用事あるって断っちゃった」

真広はおどけて言う。

「それとも〜。
オレと帰るの嫌かー?」

「…嫌じゃ、ない」

「きーまり〜」

真広独特の間延びした語尾にぎこちない笑みを返した。

2人並んで帰路に着く。

「ってかさ〜。もうちょっと愛想良くできないわけ?ナツちゃん」

「ナツちゃん言うな。
……さっきの教室でのやり取りのこと言ってんの?」

「そうだよ。
お前の大親友のオレとしては、心配なわけだよ」

真広の言いたいことは分かる。
オレには真広以外この大学に友達がいないし、作ろうとも思ってないからだ。

「…オレの勝手」

「まぁ、そりゃそうだけどさー」

(…別に、真広だけいれば十分だ)
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