眠らぬ街のシンデレラ

□北大路皐月#1
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【皐月のキスは唐突に】


久仁彦は、最近新たな悩みを抱えていた。

取引仲間の皐月さんは
姪の優衣が気に入っているらしい。

具体的に、嫁に欲しいらしい。

しかしあいにく、優衣は、鈍い子なんです、皐月さん。

聡い子で、気だてがよくて

大変に理想の嫁タイプですが

セレブに憧れるんじゃなくて、

普通の男の、普通さに

幸せを感じながら

その男を幸せにしていくような

優しい良い子なんです。

だから、有名女優と大富豪の息子とは釣り合いません。

物語のシンデレラだって、貴族の娘ですよ?

(そう言ったのに)


皐月さんは、今度、このロングアイランドに引っ越すらしい。
優衣と暮らすらしい。

ああ、優衣…おじさんは優衣の幸せを祈ってるよ……。






*:..。o○☆゜・:,。*:..

「皐月さーん、カレーはハウスですかあ?」

「いや、欧風で」

「あ、エスビー食品?
ん〜。
あたしはグリコも捨てがたいな」

「なぜ、芋を剥いているのですか。
マッシュポテトを添えるのですか」

「カレーにいれますよ。
玉ねぎ・人参・ジャガイモって、幼稚園で歌いましたよ」

「……牛肉は?」

「鶏肉を小麦粉でムニエルにして、
香ばしさを出し、安さを隠します!」

鶏肉ひゃくぐらむ69円


「…これは本当に肉ですか」←おそるおそる

「肉です。」←きっぱり

優衣は玉ねぎをいためはじめた。


「にんにくだけは青森産の無臭ニンニクです。
安心してお仕事行けますよ♪」

飴色玉ねぎに人参やジャガイモがまざる。

隣の鍋はゆで卵

ゆで卵が終わるとフライパンで、じっくりと鶏肉が焼かれた。
まぶされた塩が焦げてはぜる音、
鶏肉の皮から出た油を裏面に回しかけながら
寸胴鍋にカレールーが割り入れられ。
添えのサラダにはさらし玉ねぎとレタスにハム
同時進行でデザートが作られる。

「……」

「できあがりましたよー」

タイマーでご飯がジャスト、焚けた。

「…」

セレブには関係ない特技なのに。
皐月は胸が熱くなった。


カレーは見事に光っている。

実は片栗粉で光っている。

悪いが小麦粉にこの照りは出ない。

カレー粉はしょっぱいから、
とろみを出すために大量投下したら大変だ。

小麦粉を炒めるのが王道だが

優衣は、片栗粉にしている。

片栗粉は、生でも臭みが少なく
後から入れやすいのだ。


まあ、この辺も、所詮、庶民の考えだ。


「いただきます」

ぱっちん☆と、手を合わせる。

「おいしくできたかな〜」

それは、庶民の中でも本当に微笑ましい光景だった。

が、優衣がカレーを作り
スプーンを出してきて
ほんの少しふれた指先の温もりは
皐月にとって、何故か泣けるほど暖かかった。








「和式の布団一組なんです」

優衣は、崇生から寝袋を借りてきていた。

みのむしみたいにくるまっている。

「私はこれで寝ます」

「いや、私が」

「じゃ、じゃあジャンケンを!」

「え」

カジノでしかギャンブルしたことない皐月が

「「最初はぐー!ジャンケンぽーん!」」
「かった!」

優衣は、いそいそと寝袋を脱ぎ
皐月に渡す。

寝袋は、優衣の温もりがする。

皐月は、寝袋で眠った。

優衣は、布団ですやすやと寝ている。

足の指が、ちょんぼり出ている。

(何故だろう
かわいい)

今まで、綺麗な女はたくさん見てきた。

でも優衣は、不意にかわいくて
目を離したらいけないような
一生懸命、手をつないで歩きたくなる可憐さで…

(手元に置いておきたい)

そう思わせる愛くるしさなのだ。

皐月は優衣のもとで仕事に行き
明け方戻る。

胃に負担にならない軽食が用意されてあって
妙な手書きのメッセージが文通みたいで…




「「最初はぐー!ジャンケンぽーん!」」
「「あいこで、しょ!」」
「「あいこで、しょ!」」

なかなか決まらないジャンケンで
ふと手がふれた瞬間、皐月は優衣を腕に引き込んでいた。

「…優衣」

「…!?」

「……もういい加減気づいていると思うが」

「???」

「私はあなたが好きです」

「?」

きょとん、と優衣は皐月を見上げる。

皐月は、久仁彦が連呼していた「うちの姪は鈍い」を、ようやく理解した。

(聡いのに鈍い)

そう。

聡いのに鈍いのだ。

「好きだ。…男として」

「?」

「女のあなたが好きだ」

「……」

優衣は、静かに首を振った。

「皐月さんは、私なんかを相手にしちゃいけません」

「優衣」

「牛丼は、すき家
チキンといえばケンタッキー
コーヒーはマクドナルドで無料券
たまのご馳走はファミレス!
それが庶民です。
庶民の幸福は庶民にしかわからない」

「優衣!違うっ!」

皐月は、優衣を鯖折りした。

「……ならば、あなたを奪い去るまでです!」

皐月は、優衣に殴られた。

「いい加減にしなちゃい!」

「しない!」

「私は!あなたと遊びで付き合うのはイヤです!」

「俺は本気だ!何故、遊びと決めつける!」

「庶民はね、トイレのスリッパを買い換えるだけでも嬉しいんです…
茎ばっかりの安い茶柱に喜び
たまには、寄り道して肉まんを買う。
ふと空をみたらお月様が雲みたいに淡く浮かんでいて
そゆのを眺めながら
おうちに帰るのが幸せなんです」

「……俺に庶民の幸せはわからない」

「……私にセレブの幸せはわからない」

「でも、優衣とジャンケンをして
優衣とご飯を食べ
たまには手をつないで
商店街で、福引きをする…

庶民の幸せはわからないが
あなたと居る幸せは、この世の中に、ここにしかない」

「…」

「天地にかけて誓う。
あなたを愛して
あなたと死にたい」

「……」

「好きで金持ちで生まれた訳じゃありません。
でもあなたを好きになって生きていることは私が選んだ、
私だけの道。
たとえあなたでも、文句は言わせない」

皐月は優衣の額にくちづけた。

「このくらいなら、許してくれますか?」

そっと、こめかみにくちづける。

「これも許していただけますか」

おとがいを持ち、くちづけた。

「あなたを俺のものにする」





゜・*:.。..。.:*・゜゜・*:.。..。



皐月/
あくだまさん

悪玉菌/
にゃに?

皐月/
カレーに片栗粉は…

悪玉菌/
水っぽくなるから今日中に食えよ?

皐月/
ルーをケチるのは…

悪玉菌/
肉に小麦粉をまぶしたあとに焼いて
この小麦粉ごと、カレーにいれたら、片栗粉じゃなくても良い。

皐月/
いや…庶民というより貧民です…。

みなさん、真似しないでくださいね。

カレーは、小麦粉を炒めてカレー粉とブレンドして作りましょう。

悪玉菌/
バーモントの業務用が好きだよ!
でも今は甘口だよん。
今日の晩御飯はエビチリ豆腐でした!
最近、エビ好きだな!

次はノエルを「今夜あなたと眠りたい」に紛れ込ませよう。

皐月/
かわいそうなノエル…。


【無防備な一秒(悪玉菌・皐月)たぶん、怒られるなあ、これ。】





愛情や優しさや

おそらく美しくはない裏側…。

垣間見る野獣は
本当にあなたの素顔なのか。

「お盆過ぎたら、大きな花火をあげないんです。
それが送り火への礼儀なのですが」

ですが
線香花火なら
なおさら
初夏にしても許されるでしょう、
山紫陽花に似た
小さな炎…。

照らす横顔

線香花火が落ちた瞬間の悲しみと
残虐性を醸す愁い。

透明なフィルムを
重ねていった

透き通る複雑さ。

大人の男の余裕…。


強い色香と、眩しいほどの清潔感に
なぜか拭えない闇…。

北大路皐月


゜・*:.。..。.:*・゜゜・*:.。..。

「ふふ。優衣さんはかわいいですねえ。
とめどがなくて困ります」

硝煙の匂いがついた躰。

火遊びを終えて。

背中をなぞる、あなたの美しい指

大きな手。

「優衣さん」

「…」

膝の上に跨がされた。

「耳、お好きでしょう?」

耳朶を甘く噛み、舐める皐月さんの
吐息や眼差し。

質感のすべて。

「…ん…」

「ん…?…なあに?」

「…やだ…だめです」

「なにが?」

「恥ずかしい…////」

「…これが?」

「あ////」

跨がされたまま、皐月さんの膝が開いた。

「ぃや!」

羞恥心で顔を伏せ
肉厚な胸板に頭をおしつけ
下を向いたのが悪かった。

「……////」

皐月さんのスラックス…
前が…

「…もう、俺は
…男になりつつあるのに」

低い声に見え隠れする
戯れと恐喝。

大型肉食獣…
白い虎みたいな

穏やかでじゃれつくような

怠慢に見えて…そのくせ

「あ」

「貴女は私をすぐに焚き付けて
泳がして
“躊躇い”の素振りで
止めて
いけない女ですね。
聖女の本能が小憎たらしいですよ」

「んぅ…」

「ふふ」

あごをもたれ
のど笛を舌でなぞられた。

私は思わずのけぞり
乳房を差し出す形となる。

「いいこ」

「あ」

浴衣の襟に肉厚の手が入り

まるで
袖で縛られたように
私は動けない。

逃げようにも
髪の中に
ぐっ、と差し込まれた皐月さんの指が
頭を支えて
手のひらはうなじを掴む。



「すぐに求めさせてあげます。
俺を」

「あ」

「かわいい優衣。
満足させてやる」

背中を両手でつかむ。
親指は乳房に食い込む。

つまみ出された形になった先端を
ラズベリーみたいだと
皐月さんは
音をたて
舌で舐め這い擦る。


「あ…」

浴衣は下着をつけないものなので
足を開かされたら
空気が入る。

熱く濡れた端から
冷たく冷え
私は下腹部をふるわせた。

「優衣…おいしそう」

ちゅ…

「…あ////」

「恥ずかしがることなんかない。
この程度で」

皐月さんの指先が蠢くと
うでの筋が浮かび上がって
たまらなく艶っぽい。


「…あっ…あっ…」

私は必死になるが
求めずにはいられなくなったところを
いいこだと懐柔する皐月さんは。
やや意地悪だ。

腕に支えてほしい。
皐月さんの腕じゃなきゃイヤ。
皐月さんの腕に支えられれなきゃ
体の芯がもう溶けていて…
自分ではもう止められない。
どうか、この溶け出している奥底に
強く深く…!

「んんんぅ!」

「声、優衣、声…出していい」

「あ…さつ…さ…」

死んじゃう…!
熱くて躰が燃えちゃうよう。


皐月さんといると…
自分の奥にいる別な自分がたくさん出て恥ずかしい。
でも、満ち足りてしまう。

「包まれる充足感は
男も同じなんですよ」

くすりと笑い

「こんな風に」と

自らの指を舐めた。

目の前に

美しく淫靡な北大路皐月。

その長い指が
濡れて光る。

睫毛を震わせ
軽く笑み
私を見つめながら
舌を
指の付け根から這わせ
爪先で尖らせ、揺らすと


たった今
水音を奏でられていた
湯気が立つほど熱い指を

私の中に…


「あ……んっんぅ…」

そこ…弱いです。
許してください…

ああ
なのに
蠢く私の腰骨を片手で制し

もう片方は
指の太さや強さ、巧さを
思う存分知らしめてから

「あ…」

「ふ…待ちなさい」

ベッドに横たえられた。

覆い被さる。

強い眼差しと共に

「優衣」

「あ…」

皐月さんは優しく上下にこすってくれた。

「きもちい…」

熱くて
ちゅるちゅるして

ちゅるって後ろから煽られて…

「あ…あ……」

「優衣…吸い込まれそう」

「あ…早くきて…」

「優衣…」

ちゅるって
そして

「んぅぅ」

キュッと締め付け
私は必死になる。

だめ…奥は…

ん…

あ…

くちゅ

そして

くちゅ

いや。

「あ…」

「優衣…いいこだね。
もう少し進むよ」

「あ…」

あああ

シーツをつかみ
私は揺れまくる。

ベッドごと激しく。

「あ…ああっああっん!」













「や…やだ…壊れちゃう!」

ギシ

ギシギシ…!

「あ…あちゅいよう」


ずんっ!

「あんっ!んうう」




゜・*:.。..。.:*・゜゜・*:.。..。

髪を撫でる後朝。

「ん…だめぇ、普通に視線だけで天国にいきそう…」

「優衣さん…この程度で?」

「…」


気づいてないんだ…
あの強い眼差しを自分自身では


肌を溶かすような熱い双眸。

あれこそがこのひとの無防備で無意識なものなら

「…」

私は激しい情欲に
体を内側にめくられ
すべてをさらした気がする。

まだ
奥が痛い……

「ああ寝癖が。優衣さんは
本当にひよこ頭ですね」

「はひ!?」

「ふふ…」

皐月さんは
いつもの
お兄ちゃんキャラに戻っている。

私はまだ
硝煙の立ち上るような体をくすぶらせている。
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