二次小説voltage

□冬の桜【鳳湊平】
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【(湊平)冬の桜】


秋が深まると
赤く色づいた葉を散らす桜が
寒そうなのに何故だろう、枝が美しいせいか愛おしい。

冬も幹の模様が愛らしく、桜は何をしても好きにならずにいられない。

桜の樹木は不思議なもので
春が近づくにつれ
表皮の裏まで桜色に染まる。
染料として、桜の皮を煮出すと、綺麗な桜色があらわれる。
桜は、どんなに辛い冬も小さな花芽をつけている。

桜は、懸命な木だ。
何をしても美しい。

俺は優衣を思い出していた。

カフェの駐車場につく。

吐く息が白い。

今日は優衣と待ち合わせをしている。

寒いだろうから、迎えに行くと言ったのに。
優衣は頑固だ。




カフェにたどり着いた俺を
カウベルの音と共に優衣の笑顔が迎えてくれた。
パイン材のドアを開けたら、優衣が椅子から立ち上がり、来てくれたのだ。
窓から俺の車が見えたのだという。

そんな、優衣のさりげない優しさが嬉しい。

「待ったか」

「いいえ」

はにかむような笑顔。
もっと甘えてほしいのに。

「何にしますか?」

「ああ、キミは何を飲んでいる?」

「湊平さんと一緒にオーダーしようと思って…」

「…悪かったな。ずいぶん待ったのか」

「ううん」

優衣はかぶりをふる。

いっしょにメニューを見る。
頭を近づけて。
甘い薫りがする。
今すぐ抱きたい。

「このケーキおいしそう」

いや、俺がキミを食べたいんだから、飲み物だけにしてくれ。

今すぐにでも家に連れ帰りたい。

ああ、なのに、まだケーキを見ている。

「優衣」

俺は優衣の手を握った。

「え////」

「テイクアウトだ」

「え?」

俺は優衣の手を握ったまま立ち上がり
お会計に行く。

「ケーキ全種類、テイクアウトで」

「??」

優衣が怪訝な顔をする。

俺は片手で
大量のケーキ詰め合わせを受け取る。
優衣の手は離さない。

「すまない。優衣。喉は渇いてないか?」

「??…はい。」

「俺は渇えている」

車に乗った優衣に素早くキスをする。

「ん…」

許せ、優衣。俺は長い冬を過ごしている。
お前を夢見て桜色に染まるような男をどうか包んでほしい。
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