溺愛男子

□ねこのぽんすけ
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ぽんすけが抱っこされていた。

雨の日。

改札口が一つしかない
場末の古いアパート脇に捨てられていた
野良猫、ぽんすけ。

命名、私。

誰もがテキトーに呼んでいたと思う。

ぽんすけは
尻尾がしましまで
たぬきっぽい顔の猫。

だから私はぽんすけと呼んでいた。

朝、「ぽんすけ、おはよ」

帰りには「ぽんすけ、ただいま」

朝は私のトーストとクリームチーズを

帰りには私の食パンとヨーグルトを

ぽんすけにあげるのが
私の決まりだった。

私と一緒にご飯たべるひと、ぽんすけ。

ぽんすけは
たぬきっぽい猫
ぽんすけは
私の家族だった。


でも、ぽんすけは男の人に抱っこされていた。

背が高い…というよりバランスが良かった。

頭がちっちゃい
というか
ともかく骨から綺麗。

髪はサラサラで
何事!?というくらい艶々。


そのひとは傘をさして、ぽんすけを抱っこしていた。

手には、猫缶。

「家に帰ろう、ぽんすけ」

ぽんすけは、にゃーと返事した。

そして連れて行かれた。


私はヤマザキ食パンの入ったマイバッグを
すごすご下げて
家に帰った。


翌朝、駅近くの、ぽんすけエリアに、ぽんすけの姿はなく
ぽんすけが、野良猫ではなくなったこと
私のご飯は二度と食べることはないことを思い知った。



仕事をして帰る。

金曜日。

足取り重く。


思わずつぶやく。

「ぽんすけ…」

「にゃあ」


はい?


私は振り向いた。


ぽんすけが目線にいた。

「にゃあ」

「……」

なぜ、目線!?

と思ったら
ぽんすけは男性に抱っこされている。

「ぼく、ぽんすけ」

「はい?」

(ぽんすけがしゃべった!?)

「ぼく、ぽんすけ。
いつもお世話になっております」

「……」

(これ、このオトコのひとが言ってんのよね?)

でも人間語喋ったら
間違いなくこの声という
見事な、ぽんすけヴォイス!


「ぼく、ぽんすけは、こないだあまりに寒かったので
小石川さんの家にお邪魔したの、にゃ!」

「…はい…」

「でも、明日から小石川さんは、一泊二日で仕事にゃあ!
お姉さん!」

「はい!」

「僕を泊めてにゃあ」

「…うちのアパート…ペット禁止…」

「……なら小石川さんの家で
お泊まりはいかがですか」

「いや、知らない人の家に泊まれません」

「……知らないか」

突然、低い男性の声にかわり
私は、小石川さんとやらを見上げた。

「小石川拓海さん!?」

「……ぼく、ぽんすけ」

「……」

いや、サングラスしてるけど
間違いなく
若手俳優の小石川拓海さんだ。

「ぼく、ぽんすけ」

「……どーみても、小石川さんですよね!?」

「……俺……」

「はい」

「俺は……」

「……」

「セリフとキャラクター設定がないと、しゃべりにくいから
ぽんすけでいたい」

「……」

「ぽんすけとして主張する。
あなたの名前はなんですか?」

「…新川……です」

「うん。新川。
僕は捨て猫に戻ると
保健所に連れて行かれそうにゃあ。
ペットホテルも苦手にゃ。
やっと小石川の家になれたにゃ!
だから新川の家に泊めてくれないなら
小石川の家に泊まってにゃ」

「……ぽんすけは、どうして小石川さんも、ぽんすけって呼んでるんですか」

「……いつも新川が呼んでたから。
ともかく
俺は小石川拓海。
素性もしれたし
いーじゃないか…」

「……」

「ぽんすけからもお願いだにゃ。
泊まってにゃあ」

「……」

こんな場末の
駅前に
綺羅星のような小石川拓海。

ありえないし!

小石川さんのそっくりさんか!?

「……あ、ヤマザキ食パン」

小石川さんが私のカバンを見ている。

「ヤマザキだったのかあ。
いつも、ぽんすけが食べてる奴」

「……」

「俺にも焼いて」

「……」

……そんな馬鹿なああああ!
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