女性名前変換オリジナル

□超男子1年目の2人#3
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平日。

JRの小さな駅前でコウは優衣を待つ。
五月は日差しが暖かい。

しかし寺がある山の風は寒いもの。

まして……花の吐息を感じるのか、
花の傍はひっそりと冷える。

だから、
今日もコウはキャメル色のハーフコートを着てきた。
白いシャツに、白いパーカー、アイボリーのネクタイを軽く緩め、
細身のジーンズに、ベルトと靴をキャメルでまとめた。
鞄にはいつものように、ノートやらペンやら、
コウには必要なものがコンパクトに入っている。

(今日は空が透き通っている……)

 ここの処、雨が続いていたせいか、
久しぶりの快晴で空気が洗われている。
線路の近くには小さな太陽みたいにたんぽぽが広がり、
その隙間にネモフィラが蒼い小花を散らしている。
花ニラの白いお星様みたいな形、
紫花菜のすらりとした姿。
線路沿いの家の庭先には、ムスカリ・ヒヤシンス・チューリップ、クロッカスにスイートピー。

それに、まだまだ元気な桜草が、
淡い赤紫でブーケみたいに膨らんでいる。

(春だなあ)

 コウは目を細める。
風が清清しい。
ちょっと早く家を出てきたけど、コウの心は退屈しない。
春は彼にとって最高の季節だった。

「……」

 そこへ。

 優衣がやってくる。
できるだけ目立たないように、裏の小道から、溜息をついたり躊躇ったり。

 待ち合わせして会いにきているのに、どうして隠れてしまいたいのか自分でもわからない。

 しかし、視力は人並みはずれて良いコウは、
視界も人並みはずれて広く。
コソコソしていても、すぐに見つかってしまう。

(ああ……)

 コウは一瞬、息を止め、それから吐息を漏らした。

(このひと、きっと化けるとは思ってたけど、
本当に魔法がかかっちゃってる)

 こないだコウが選んだ、白いファーのついたキャメルのコートに合わせて、
華奢な足に同じようなハーフブーツ、
小花がグラデーションになっているワンピース。

銀色に光るハートのペンダント、
長いさらさらした髪は、横だけを後ろに向けてとめている。
髪飾りは、透き通る濃いピンクに青の混じった紫の花。

「……えっと……」

 見つめられて、優衣は視線をさまよわせる。
この場合、何といえばいいのだろう?
『おまたせー♪』みたいなことをみんなは言うのかな。

(……ヤダ。そんなの絶対に恥ずかしいし)
 
もじもじして下を向いたりしてたら涙が出てきちゃった。
目や鼻を慌ててこする。
(な……泣いてなんかないもんっ)

 怪訝な顔をしているコウがなんとなく見える。

勇気を振り絞って、コウの前まで震える足で歩くと、立ち止まってうつむいた。

「……」
 
 コウが覗き込んでくる。

 優衣は泣きそうになる。

(そうだ……コウくんにとって言葉は、目や指や唇なのに……
見えないようにしたらいけないのに……)

無意識のうちに優衣は逃げていた。
顔にはコンプレックスがある。

ましてや綺麗な顔の男子に見せられるような美形では決してない。

(でも、顔はあげなきゃいけないんだ)

優衣は唇を震わせながら視線をあげる。

コウが少し下がって立っていた。

 目がどうにか合うと、彼は微笑む。

それに救われて、優衣は、また一歩踏み出し、近づいていった。
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