女性名前変換オリジナル

□【キスするタイミング】番外編・ぱんつのごむ
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【ぱんつのごむ】

「お帰り、奥さん♪」

仕事から家に帰ると桃季さんが玄関にスライディングしてきた。

いつ見ても意味がない動きをする。
手足が長く、玲瓏とした面差し
しかも知的で体力が有り余っている…
2歳年下の夫…脳外科医、如月桃季、28歳。

「おかえりなさーい」

黒地に白の靴下を履いているような、にゃんこ・“タンゴ”と走り込んでくるのは私の息子、軽度自閉症のカイ・5歳だ。

カイと桃季さんに血縁関係はない。
私は未婚の母だ。

しかし桃季さんはカイに一目惚れした。

「俺の胞子が飛んで優衣が妊娠したんだ」とアホなことを言い出した。

実際、カイと桃季さんはびっくりするほどそっくり。

2人とも軽度の自閉症だ。

ただし、異様に頭が良い。
特徴として手足も長い。
筋力が手足に集中しているため、ふらふらしがちな特性がある。
だから2人とも意識的に体幹を鍛えている。

脳内は完全に俯瞰図でフローチャートを作るために、常に客観的で、たまに人間くささを失う。

手先は器用で絵を描かせても巧いのに、何故かほんのり並外れたイラストになる。

精神的コントロールが抜群にうまく、激昂はない。

軽度自閉症だが「障がい者」と位置付けるにはあまりにも恵まれている…。

生まれながらに天才で
努力が大好きで
いつもニコニコしていて悪意がまったくない…

自閉症の中でも、超ド級の楽ちんな奴ら、それが桃季さんとカイだ。

しかしいつも皆さんに合わせて、思考をゆっくりにしたり(本当は思考がスキップしがち)
感情の波があるふりをしないといけないので
家では妙にはじけている。

「優衣!汗びっしょり!」

「わああ」

髪の中に桃季さんの両手が入る。
わしわしと頭を掻かれた。

「風呂入れ。俺がいれてあげる♪」

「僕も入る!お母様をいれてあげる!」

「にゃあ!」

猫のタンゴは猫なのにシャンプーが大好きだから風呂場に飛び込んでくる。

「ぎゃあ、恥ずかしいからいいよ!」

「…新婚さん・交際1ヶ月の新婚さん…」

桃季さんは小さな声で念仏みたいに呟く。

「…まだ早い・もう大丈夫・まだ早い・もう大丈夫…」

「お父様、僕は、もう大丈夫だと思います!」

「ありがとう、カイ!みんなでお風呂に入ろー!」

「…」

私はぐったりした…





お風呂場は、ジャングルだ…
如月一家は風呂場好きで、桃季さんの実家も凄いがマンションのくせに、ここんちも凄い。
緑に溢れ、水槽の中には熱帯魚が泳いでいる。

「脱げばいいのに…」

タオルを巻きつけた私を見て桃季さんは溜め息をつく。

「夫の希望を打ち砕くなんて…」

「いいから桃季さんも巻いてください!」

「ウブだよね、奥さん…本当は処女?」

「カイを産みました!」

「皮膚から妊娠したんじゃないか?俺の胞子は空気中を漂い…」

小声で囁きながらもカイの世話はコマメにやいてくれる。

(私たちはこないだキスをした…)

子持ちで桃季さんのマンションに転がり込んだのは1ヶ月前…

5歳児とネコが見ている前でいちゃいちゃできない。

それに私は苦手なのだ、そういうの。

(だから、処女とかからかわれるんだわ…)

2歳年上だけど私は経験が殆どない。
前の彼氏とは強引にされ、妊娠がわかった頃には捨てられた…

(だから、怖い)

カイの頭をシャンプーで洗ってる桃季さんは、ちゃんと腰巻きタオルをしてくれた。

本人の努力で均整の取れている体は細身に見えて筋肉が綺麗に乗っている。

本人の努力でやわらかい動きができる指が優しく、カイの頭を洗ってる。

何気ないことのひとつひとつが桃季さんの努力で
そして努力が大好きなのが、このタイプの自閉症の特徴だそうだ。
つまり我慢強さは脳にプログラムされている。

(が、我慢させてごめんなさい…)

でも、無理!

ああ、無理!
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