IS 〜Poke-Master〜
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30×2、60もの目線が俺の体を貫く。
オレが死んでこの世界に来てからもう15年も経った。オレが死んだのも15歳の時。つまり、オレは一般の高校生の倍の人生経験を積んできているのだ。しかし、だからといって、
女子高に入学する経験などオレは持ち合わせていない。
(ヤベェ、マジヤベェ。何がヤベェかと聞かれれば、あれだ。とにかくヤベェ)
どうやらオレはテンパっているらしい。
ちなみにオレは今、机に座っているのだが。今日は入学初日。誰もが嫌がるあのイベントが待ち構えている。
『――――です。好きなものは――』
そう、自己紹介。
学校行事めんどくさい四天王が一人。『マラソン大会』『授業参観』『読書週間』に並ぶ強敵。自己紹介。
ちなみにチャンピオンは『毎日の授業(しかし体育を除く)』。
これの何がいけないかというと、立ち上がらないといけないのだ。必然、注目を浴びることで視線は更に強烈になる。精神力が弱い人間なら怯んで失神するレベルだ。
(しかたない。……使うか!)
オレは頭の中で、あるキャラクターを想像した。
(能力発動!! 《character trace》!!)
「次〜。赤島くん」
「はい」
担任に呼ばれて立ち上がる。当然視線が突き刺さるが、気にせず壇上に上がった。
「赤島 聡です。人見知りなのでみんなから話しかけてくれれば幸いです。宜しくお願いします」
当たり障りのない挨拶をして、自分の席に戻る。
ふぅ……。なんとかなった。
さて、ここで俺があの巨乳さんから授かった素敵能力について説明しよう。
《character trace》、略して《CT》という能力は、簡単に言えばポケモンになりきれる能力だ。
頭の中で一匹のポケモンを想像して能力を発動すると、姿は変わらないが、そのポケモンの特徴やわざをトレースして使うことができるのだ。
ちなみに、今オレがトレースしたのは、“ゴルバット”というコウモリを模したポケモン。そいつの持つ“せいしんりょく”というとくせいのおかげで怯まないようになる。俺がよく使うポケモンだ。
そして、二つ目の能力。
ISを使うことができる。
―――――――――――――――
『ISについての説明は省略するよ! 要は女にしか使えない最強兵器を、男の赤島くんが使えるっていうことだよ!』
『そのせいで、赤島くんはIS学園っていう女子高に通わされることになったんだ! かわいそうだね!』
『私? 私はプロローグにでてきたお姉さんだよ! 名前は特にないけど、神様なんだよ!』
―――――――――――――――
「お、織斑一夏です。よろしくお願いします」
壇上にはオレと同じ境遇の男子、織斑一夏が立っていた。
『………………』
空気が重い。クラスメイトが彼の次の言葉を待っている。
何やってんだよ、無視して席戻っちゃえばいいだろ。そうやって固まるから、みんな何かあると思って期待しちゃうんだよ。
「以上です」
以上かよ。
ろくに自己紹介が出来なかった織斑一夏は、担任かつ実姉の織斑千冬にしばかれた。
〜一時間後〜
「「ぐはぁ〜っ……」」
オレと織斑から同時にため息が漏れた。
理由は当然、ISの授業。もはや難しいとかいう次元じゃない。
今までISに慣れ親しんで来なかった男が、ISについて学ぶ。いうならば、日本人が高校生になってアラビア語を学ぶようなものだ。死ねる。
(いっそフーディンになって頭脳レベルを上げるか……いや、ゴルバットの能力を捨てたらオレは視線に潰されて泣いてしまう……)
頭脳をとるかプライドをとるか。非常に馬鹿馬鹿しい葛藤は、一人の少女によって中断させられた。
「ちょっと、よろしくて?」
「は?」
顔を上げると、金髪碧眼、白人特有の顔つきをした女子がオレを見下げていた。
見下げていた、というのは、オレが座っていて彼女が立っている、という状況のせいでもあるのだが、彼女自身、オレのことを下に見ているような態度を醸し出しているのだ。
つまり、今時の女の子だ。ISの登場により世間に広まった“女尊男卑”の風潮。それにどっぷり浸かった女の子だ。
しかし困った。相手は外国人。英語なんて話せないぞ、オレ。こんなことなら前世で真剣に勉強しておけばよかった。
助けて、フーディンの頭脳! いや、ゴルバットの能力を捨てたらオレはプレッシャーに潰されて不登校になる……!
「訊いてます? お返事は?」
「あ、あいきゃんのっとすぴーく、いんぐりっし!!」
『『『………………』』』
空気が凍った。
おかしい。オレはれいとうビームなんて使っていない。
「……少し、落ち着いて下さいな」
「あ、はい……え、日本語?」
「最初からわたくしは日本語しか使っていませんが……!」
「え、えっと……日本語、上手ですね」
「ふざけてますの!?」
マズイ。怒らせてしまった。いったいどこがいけなかったんだ。
「全く、このイギリス代表候補生であるセシリア・オルコットに対してのこの無礼。極東の島国はこれだから……」
へぇ。この人代表候補生だったんだ。つまりはエリートってわけだ。
「ところで、セシリア・オルコット候補生」
「なんですの?」
「そろそろ授業始まるから席座ったほうがいいぞ」
「へ?」
言うと同時に二時間目開始のチャイムが鳴り響いた。
「お、覚えてなさい!」
捨て台詞を吐いて席へ戻っていくオルコット。結局何しにきたんだ、あの人。
その一時間後。そのオルコットと織斑が一悶着あったらしいが、オレは寝てたから知らない。
追記、フーディンの頭脳がすごい。
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