IS 〜Poke-Master〜

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 三時間目。

 授業に入る前に、担任の織斑千冬先生がこんなことを言ってきた。


「再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな」


 これが争いの火種になるとは、まだ誰も知らなかった。


「まぁ、いわゆるクラス長だな。対抗戦だけでなく、生徒会の開く会議や委員会にも出席してもらう。一度決まると一年間変更はないからそのつもりで」

 クラス長。面倒な仕事を全て押し付けられる上に、ネームバリューだけで具体的な報酬が全く望めない役割。本当に、こんな役割を作ったヤツは誰なんだ。マジで殴ってやりたい。
 さて、オレがいつも以上に怒りぎみなのはある理由がある。
 オレ達はまだ入学して一日。クラスメイトと顔を合わせてまだ二時間だ。お互いの素性など知っているわけもない。
 そんな状況下で、ひとり生け贄を差し出すとしたら、どんな人物が選ばれるか。


『はいっ。織斑くんを推薦します!』
『わたしは赤島くんを推薦します』


 集団で最も目立つ存在。つまり男(オレたち)だ。

「では候補者は織斑一夏、赤島聡……。他にはいないか? 自薦他薦は問わないぞ」
「待ってください! この選挙は平等性を著しく欠いています! やりなおして下さい!」
「そ、そうだそうだ!」

 オレの反論に織斑もノってくれた。
 しかし、先生は涼しい表情で冷静に返した。

「自薦他薦は問わないと言った。選ばれた者に拒否権はない」
「拒否権は無くても、抗議する権利ならあります!」
「そうだそうだ!」
「だいたい、他薦もアリなら目立つオレ達が選ばれるに決まってるじゃないですか。それにオレ、こう見えてスゲェ雑な人間だから、そういう面倒事は織斑に任せればいいと思います!」
「そうだそう――じゃない! お前なにナチュラルに俺に押し付けようとしてんだ! 俺はそんなのやらないぞいったぁ!?」
「静かにしろ、ガキ共」

 何故か織斑だけしばかれた。これが姉弟愛というやつか。うらやましいなー(棒)。

「さて、他はいないか? いないなら二人で決選投票を――」

「待ってください! 納得がいきませんわ!」


 先生の声を甲高い声が遮った。
 見てみると、さっきのイギリス代表候補生が鋭い目をして立ち上がっていた。

「そのような選出は認められません! 大体、男がクラス代表だなんていい恥さらしですわ! このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?」

 屈辱うんぬんはともかく、選出方法が間違っているのは確かだな。うん。

「実力からいけばわたくしがクラス代表になるのは必然。それを物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります!」

 猿うんぬんはともかく、実力が高い人が代表になるのは当然だな。うん。

「そもそも、文化としても後進的な国で暮らさなければいけないこと自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛で――」

「イギリスだって大してお国自慢ないだろ。世界一まずい料理で何年覇者だよ」


 まぁ、確かにイギリスの飯がマズイとはよく聞くな…………うん?


「あっ、あっ、あなたねえ! わたくしの祖国を侮辱しますの!?」

 あ〜あ。怒らせた。

「織斑く〜ん。それ言っちゃダメっしょ」
「い、いや。つい口が滑ったというか……」
「そんなんだから、極東の猿呼ばわりされるんだぞ、織猿くん」
「今なんて言った!? 『織斑』と『極東の猿』を組み合わせてなんて言った!?」
「うるさいなぁ。静かにしろよ極猿」
「もはや原型なくなってんじゃねえか!」

 織斑の新たな一面を発見してしまった。こいつ、いじると楽しい。

「わたくしを無視しないでいただけます!?」

 オルコットが机を叩きながら声を上げた。

「おお、すまん。すっかり忘れかけてたぜ」
「織斑……お前ってヤツは……」

 どうしてそう的確に相手を挑発する言葉を繰り出せるんだろうか。
 案の定、セシリアは怒りが頂点に達したのか、わなわなと震えている。

「決闘ですわ!」

 再び机を叩くセシリア。
 しかし、決闘と聞くと青い眼で白い竜が有名なあっちの決闘(デュエル)を思い浮かべてしまう。

「いいじゃないか。受けてやりなよ、織斑くん。オレは観客席で陰ながら応援してあげるから」
「何を言っておられるのかしら? あなたも当然受けてもらいますわよ、赤島聡!」
「はぁ!?」

 ちょっ、何で!? まさか、一時間目後の休み時間のアレ、まだ根に持ってたのか!? どんだけ面倒くさい女の子なんだ、コイツ!

「言っておきますけど、わざと負けたりしたらわたくしの小間使い――いえ、奴隷にしますわよ」
「侮るなよ。真剣勝負に手を抜くほど、腐っちゃいない」
「すんません。オレ、勝負するメリットないんでサボっていいですか?」
「こいつ腐ってやがる!」

 いやいや、オレとばっちり食らっただけっすよ? そうゆうバトルマンガ的展開に無関係の人間を巻き込まないでくれよ。

「あら、逃げるんですか?」

 オルコットが見下した目でオレを見る。挑発か? やってみろよ、できるもんならな。

「逃げるんじゃない。避難だ。無関係な争いに首を突っ込む理由はないだろ」
「戦う理由が貴方になくても、わたくしにはありますわ」
「目があったら即ポケモンバトル、ってか? 戦闘狂は液晶の中だけにしとけよ」
「淑女相手に尻尾を巻くなんて、誇り高きサムライ・スピリッツは何処に忘れてきたのかしら?」
「オレこう見えてモンゴル育ちだからさ、モンゴル相撲・スピリッツしか教えてくれなかったよ」
「そんな魂、聞いたことありませんわ!」

 ことごとく言いくるめられてオルコットが苦い顔をする。
 あ、モンゴル育ちは超ウソだけど。生まれも育ちも日本の関東だし。

 まぁ、これで挑発も失敗ってことで、オレは決闘なんか参加しな――


「――貴方っていう人は、見た目通り子どもみたいにひねくれていますのね」





 ――――プチン。





「まるで小学生が上背だけ高校生になったかのような……」
「――オイコラ、そこの金髪」
「は、はぁ!? それはわたくしのことを……ひぃっ!」
「あ、赤島……?」


 アレは二度と使わないと決めていたんだが……。
 やっぱこればっかりは、許せねぇわ……!


「テメェ、今言ってはいけないことを言ったなぁ……」
「あっ……あっ……」


 オルコットだけではない。織斑も、その他の生徒も、恐怖で顔を青くしている。
 だが、もう止められない。アイツは、オレの逆鱗に触れたんだからなぁ……!



 《character trace》――発動。
 コード――No.130

 選択――ギャラドス





「オレのコンプレックスをバカにしたなあああああああああ!!」





 一年一組を恐怖のドン底に突き落としたこの出来事は、後に『日英戦争』と名付けられ、IS学園で語られることとなる。

 この事件の直後。一年一組内で一つのルールが制定された。


『赤島聡の童顔をイジってはいけない。』





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