IS 〜Poke-Master〜

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「――――死にたい」

 赤島くん猛反省。

 放課後。授業が全て終了し、織斑はしぼんだ風船のように机につっぷしていた。
 オレもつっぷしたいのは山々なのだが、そんな状態でもなかった。


 アレは小学校二年生のころだっただろうか。
 掃除の時間中に、クラスの男子がふざけてオレの顔面に濡れ雑巾をぶち当ててきたことがあった。そのときこそ、オレがはじめてギャラドスにトレースした日であった。

 発動した途端、訪れる静寂。
 そして、阿鼻叫喚の嵐。

 オレ以外の児童全員が大泣きするという事件に、学校側は驚愕。オレはその場にいた先生に職員室に連れてこられ、ありがたいお説教を食らったのだが、その先生の足が小刻みに震えていたことをオレは知っている。
 ちなみに、その男子児童は一週間ほど、学校を休んだ後、次の学年には学校を去っていた。


 それに加えて、中学校一年生のときにも発動したことがあったのだが、その話は割愛する。


 そんな悲しい事件を経て、オレはこの強すぎる力を封印し、二度と使うまいと心に決めていた。決めていた、のに……。

「しかも、結局挑発に乗せられたし……」

 そう。オレは結局、オルコットと戦うはめになったのだ。


〜約五時間前の会話〜


『その決闘、受けてやるよオルコットぉ! その高ぇ鼻をぐちゃぐちゃに踏み潰してやるよ!』
『の、望むところですわ! 男の貴方がわたくしに勝つなど、ひ、ひひ百年早いですわ!』←涙目
『では、勝負の日程は一週間後の放課後、第三アリーナで行う。それでは、授業を始めるぞ』
(((織斑先生、全く動じてない!?)))


 〜回想終了〜


 覆水盆に返らず。後悔先に立たず。こうなってしまったからには、全力でやるしかないだろう。そう、全力で――

(全力で負けてやる……!)

 ベストなのは最初に苦戦しておきながら、最後に巻き返すも一歩足りずに負けるパターン。これなら爽やかな試合に見せかけられる上に、実力が上の相手に善戦したという好印象を与えられるかもしれない。

 そう固く決心し、当日の作戦を慎重に練り上げていたところ、副担任の山田先生が教室に入ってきた。

「ああ、織斑君も赤島君も、まだ教室にいたんですね。よかったです」

 大きなメガネに巨乳が特徴的な先生だ。同じ童顔として妙な仲間意識があったりする。

「二人の寮の部屋が決まりました」

 そう言って山田先生は部屋番号の書かれた紙と鍵をそれぞれに渡した。
 IS学園には様々な国から将来有望なIS操縦者が集まっている。そのため、そういった生徒を保護するためにも、IS学園には全寮制が取り入れられている。

「……先生、質問です」
「どうしましたか? 織斑くん」
「前聞いた話だと、一週間は自宅から通学してもらうって話でしたけど」

 その話はオレ達がIS学園への強制入学が決まった日に聞いたことだ。

「大方、テロ組織とかにオレ達が誘拐されるのを恐れたんだろう」
「そう言うわけで、政府特命もあって、寮に入れることを優先したらしいです」

 確かに、いちいち家と学園を往復するのも面倒だし、リスクがある。政府の選択は妥当といえるだろう。

「先生、もう一つ質問してもいいすか?」
「は、はい。何でも」
「何でオレと織斑は違う部屋なんでしょうか?」

 さっき横目で確認したが、織斑の部屋番号はオレの部屋番号と違っていた。

「そ、それは……」
「部屋割りに手違いが生じたんだ」

 山田先生が口ごもっていたら、後ろから織斑先生が答えた。彼女の出現で、心なしか教室内の空気が張りつめたような気がする。
 一方、織斑先生の返答を聞いて、山田先生が泣きそうな顔をしていた。あぁ、絶対この人だよ、手違い起こしたの。まぁ、何かしらやらかす人だとは思っていたよ。

「出来るだけ早急に部屋割りは変えるつもりだが、申請がいろいろと面倒でな。一ヶ月は我慢しろ」
「はぁ……」

 たかが部屋割りくらいでそう手間がかかるとは思わないが……あれか、ご都合主義か。

「じゃあ、私達は会議があるので、これで」
「寮の門限は守れよ、ガキ共」

 はいはい、わかってますよ。
 先生二人が教室を去って、張りつめていた空気が一気に緩んだ。織斑先生、マジラスボスですわ。

「赤島、部屋何番?」
「1013。織斑は1025だな」
「ああ。とりあえず、部屋に行ってみようぜ」
「だな」

 というわけで、男二人で寮の部屋に戻ることにした。





「にしても、女子と相部屋か。教育機関としてどうなんだ?」
「そうだな。特に織斑みたいなムッツリ野郎は理性を保つのが大変だろう」
「待て。俺はいつ、お前からムッツリ野郎の称号を与えられるような言動をしたのかな?」
「どんだけ相手が誘ってきたからって、襲ったらダメだぞ」
「いや、普通は襲わないから」
「ちなみに、オレは相手が誘ってきたら確実に襲うぞ。確信を持てる」
「今日一日見てきたけど、お前ってなかなかにクズだよな」
「よせ。照れるじゃねえか」
「褒めてねぇよ!」
「しかし、狭い部屋に二人きり。誰の邪魔も入らない。防音設備も万全――――襲うだろ」
「襲わないから! 絶対に!」
「本当か? 何があっても絶対に? 女子が裸で迫ってきても、手も足も出さないって自信が持てるか?」
「っ…………ああ! 絶対に襲わないさ!」

「なるほど……………………ホモか」

「うぉおい!! 何でそうなるんだよ!」
「いや、据え膳食わぬは男の恥っていうしさ。織斑にとっては女子は据え膳にすら入らないものなのかと」
「どんな解釈だよ!! 俺はノーマルだ!!」
「我慢しなくてもいい。本当の自分をさらけだせばいいんだよ、掘り斑くん」
「何ちょうどいい感じのあだ名をつけてんだ!」
「じゃあ、オレこっちだから」
「待て! 逃げるな!」

『織斑くん、まさかソッチ系だったなんて』
『それはそれで、アリ!』
『広がる! 妄想が無限に広がっていくわ!』

「せめて、せめて誤解を解いてからいけぇえ――――っ!!」




 荷物はすでに部屋に運び込まれていた。幸運なことに入学前に荷物は纏めてあったので、オレが持ってこようと思っていたものは全て揃っていた。

「よかった……DSとポケモン」

 これぞ、オレの必需品。ぶっちゃけ、《CT》の参考にこれを使っていたりする。普通に遊べるのもいい。
 しかし、シリーズが若干古いので、一緒に遊べる友達がいないのが難点だ。そのため、もっぱらLv100ポケモンを育成している。

「今日はギャラドスとフーディンとゴルバット、か。ま、ぼちぼちか」


 オレの《CT》には制限がある。
 一日にトレースできるポケモンは六種類まで。そして、強いポケモンを何度もトレースすると体力を激しく消耗する。
 オレはその体力の消費に合わせて、弱ポケモン→並ポケモン→強ポケモン→超ポケモンとランク付けしている。

 今回はギャラドスとフーディンが強ポケモン、ゴルバットが並ポケモンに分類される。オレの現在の限界ラインが強ポケモン四種類なので、そこそこの運動レベルにはなっただろう。
 オレはふかふかのベッドに体を投げ出して、いつもの体勢でDSを手に取った。

「電源いれて〜、っと」

 さて、今日は何を育てようかな。




「あ、それポケモン?」



 意外と近くから知らない声が聞こえて、オレはDSを取りこぼしかけた。

「うわっ、結構古いシリーズね〜」

 振り向くと、金髪碧眼の女子がDSを覗き込んでいた。
 全く見覚えがない。クラスに金髪はあのイギリスの人しかいなかった。ということは、他クラスの生徒か。

「赤島……聡くん、だっけ」
「えっと……誰?」

 ぶっきらぼうな態度しかとれない自分が恨めしい。

「私は二組のティナ・ハミルトン。よろしくね」
「…………あぁ、よろしく」

 ……外人、か。
 いや、別に文句を言う訳じゃないけど、出来ることなら日本人の子とルームメイトになりたかった。考え方の違いとかで喧嘩にならなければいいが……。


 …………正直、不安だ。


「まぁ、初対面で気まずくなるのはわかるわ」

 そう言って、彼女は自分のスーツケースをまさぐりだした。



「そういうときは――――とりあえずバトルよ」



 DSとポケモンのカセットを構えて微笑む彼女を見て思った。

 コイツとは気が合う、と。





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