IS 〜Poke-Master〜
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――そんなこんなで、一週間が過ぎた。
『そんなこんなって何だ』とかつっこんだヤツは空気を読め。
いわゆるアレだ。時間短縮だ。以下割愛。
そんなこんなで、クラス代表決定戦とかいう、全く意味のないイベントが始まろうとしていたのだが……。
「赤島の専用機って、どんなやつなんだ?」
織斑から緊張感の欠片も感じられない質問を投げかけられた。
後数十分で始まるというのに、お気楽なものだ。
「あー……一言で表すなら――“赤島聡専用の機体”」
「? どういうことだ?」
「ま、お前にはわからんさ」
教える気もないしな。
「それよか、そっちはどうなんだ? ISの特訓したんだよな?」
「それは……」
「……………」
織斑は気まずそうな顔で隣を歩く人物――篠ノ之さんの顔を見た。その篠ノ之さんも気まずそうな顔をして、織斑と目を合わせようとしない。
「お前ら……」
「し、仕方ないだろう! 一夏のISがなかったのだから」
「訓練機借りろよ」
「……………」
「で、織斑のISは?」
「……まだ来てない」
そう。織斑のISは、代表決定戦当日、しかも直前になってもまだ来てないらしい。調整遅れすぎじゃね? オレのやつなんか速攻で送ってきたくせに。期待度の差か。
「言っとくけど、組み合わせの順番を変えるつもりはないからな。最悪訓練機でも出ろよ」
「…………」
試合の組み合わせは事前にくじ引きで決定していた。最初が織斑とイギリスさん。次がイギリスさんとオレ。最後がオレと織斑だ。
最後の試合(オレ対織斑)は正直サボりたい。意味がないにもほどがある。
さて、ここでこのクラス代表決定戦の内容を説明しよう。
簡単にいえば、一番勝ったらクラス代表。クラス代表になりたくないオレはどうすればよいのか。簡単だ。勝たなきゃいい。
しかし、ここで一つ問題が発生してしまった。
先日、イギリスさんの挑発に織斑が乗ってしてしまったが故に、こんな取り決めが成されてしまったのだ――――
――――――――――
「――それじゃあ、負けた方が何でも一つ、言うことを聞く。というのはどうだ?」
「織斑……! おまっ」
「上等ですわ! わたくしが勝ったら貴方達はわたくしの小間使い、いえ、奴隷にして差し上げますわ!」
「やれるもんならやってみろ!」
「……転校しよう」
――――――――――
ここでオレは悟った。あ、織斑ってアホの子なんだな、って。
二人の言葉がどこまで本気かはわからない。しかし、ここで負けるのは些かリスクが高すぎる。
正に前門の虎、後門の狼。
しかし、オレに逃げ場がないわけではない。
パンがないならお菓子を食べればいい。
門が通れないなら空を飛べばいい。
今こそ、オレの作戦を実行する時が来た。
こうして、様々な陰謀が混じり会うクラス代表決定戦は幕を開けた。
「よくもまあ、持ち上げてくれたものだな」
「うっ……」
呆れる織斑先生を前に、織斑が気まずそうに頭を垂れていた。
織斑とイタリア?さんの試合だが、結論からいえば、織斑の負けだった。
試合直前に届いた専用機――――白式。フォーマットとフィッティングも満足に出来ないまま試合に挑んだ織斑だが、案の定イタリアさんに弄ばれてしまう。しかし、絶体絶命というタイミングでフォーマット以下略が完了。一次移行を終えた白式の必殺技、“零落白夜”が発動する。そしてその強烈な一撃が決まろうかという時に――――勝負は決した。
「――まさかシールドエネルギーを攻撃力に変える技とはな」
たしか、ポケモンにも似たような技があったが、リスクが高い。とてもじゃないが頻繁に使うべきものではない。
「…………」
「なんだよ、箒」
「負け犬」
「ぐあ」
慈悲のない追撃。確かに、期待するような台詞を吐いておいて、この結果だからな。たしか――
「『俺は世界で最高の姉さんを持ったよ』」
「ぐふぅ」
「『俺も、俺の家族を守る』」
「こはぁっ」
「『とりあえずは、千冬――」
「やめろっ! 無駄にものまねが上手いから余計に傷つくんだよ!」
これこそ《CT》の力。ウソッキーの“ものまね”だ。
身悶える織斑の横で、織斑先生が顔を赤らめている。
「でも、あの時の織斑はそこそこかっこよかったぞ」
「え?」
誰かのために戦う。誰かを守るために剣をとる。それは簡単なようで、誰にでもできることではないだろう。それはかつての『オレ』ができなかったことでもある。
オレは少し昔のことを思い出していた。オレが『ココ』に来る前の、オレじゃない『オレ』だった時のことを。
「ま、オレは誰かを守ることなんか出来ないけど――――友達の敵くらいは討ってやるよ」
「赤島……」
「じゃ、行ってくるわ」
と、大見得張ってやってきたはいいものの……
(やっべー人多いよ。オレこんな中で戦うのかよマジこえーよ、織斑超リスペクトだわ。つかオレ空飛んでるよコレ。やっぱ何回飛んでもなれないわてか落ちたら確実に死ぬよなあ)
内心ビビりまくってた。
オルコットさんは既にフィールド中央にスタンバイしていた。先程織斑と戦ったばかりだというのにまだ余裕そうな顔をしていた。流石は代表候補生といったところか。
「待ってましたわ」
お馴染みの声にお馴染みのポーズ。しかしその裏には燃えるような闘争心を感じる。
「貴方のことですから、面倒臭がって来ないものかと思いました」
「……まぁ、織斑に敵討ち約束しちまったしな」
「随分強気ですこと――――勝負の前にした賭け、覚えてますわよね?」
言わずもがな、『負けたらなんでも一つ言うことを聞く』という賭けのことだろう。
「貴方が負けるのはもはや自明の理。ですから、今ここで謝るというのなら、賭けの話ぐらいは白紙に戻してあげないこともなくってよ」
なるほど。問答無用でタカビーお嬢様の奴隷になるくらいなら、さっさと謝ってしまうのもありかもしれない。だけど、
「関係ないな――――オレ負けないから」
オルコットさんが目をキュッと細める。――瞬間、オレのISから警戒音が鳴った。
「そう――――ではお別れですわ!」
オルコットさんがレーザーライフルを構える。
戦闘開始――――
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