ブン太長編

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「丸井君!」


入学式の次の日、私は鞄にガムを入れて登校した。
昨日の飴、ちゃんとお礼しなきゃね。


「ん?」


隣の席なので、座ったまま会話。


「昨日は飴ありがとう。おかげで勇気出た。」
「そか、よかった」
「で、そのお礼と言っては何なのですが、これ、好き?」


そういって鞄からグリーンのパッケージのガムを取り出す。

青リンゴのガム。昨日も食べてたし、もらった飴も青リンゴだったから、好きなのかなって思って。


「お!それ俺が一番好きなやつ!よくわかったな」
「いや、昨日も食べてたから好きなのかな、って思って。」
「さんきゅー!ちょうどガム補充すんの忘れててよ、今日どうしようか考えてたところだった」


そういってガムを受け取った丸井君の笑顔はやっぱりきらきらだ。


「丸井君って甘いもの好きなの?」
「おう!大好きだぜ!」


丸井君の笑顔ってホントに素敵だなーって思ってたら、先生が来た。

SHRが始まるから、前を向いた。

ちらりと横を見たら、丸井君が


「ホントにサンキュ!」


って小声で言っていた。




あー、丸井君は私の中学生活の救世主だな、なんて思った。
















「光希、次の移動教室遅れちゃうよー?」
「あ、蕾ちゃん待って!すぐ行く!!」


パタパタ、とスリッパの音を廊下に響かせて、蕾ちゃんに追いつく。


蕾ちゃんは、あの入学式の日に、勇気を出して話しかけた子だ。

すらっとしてて、かわいいというより綺麗って感じの美人さん。
だけどサバサバしてて、頼りがいのあるお姉さん、って感じの子。

なんか気が合って、
読んでる漫画とか、好きな歌手とか、甘いものが好きなこととか。

入学して1週間と3日。私たちは名前で呼び合うくらいになかよくなった。



これも、丸井君のおかげだなぁ、なんて思ったりする今日この頃。






「ね、光希は部活何か入る?」


さらり、と肩から綺麗な髪をこぼしながら、蕾ちゃんが首をかしげて聞いてきた。
ちょっとしたしぐさもかわいくて、羨ましいなぁ。


「うーん、料理部に入ろっかな、って思ってる」


お菓子作りとか好きだし、家でもたまに作ってるから、いいかなって。

運動が苦手な身としては運動部には入れないので。

将来の花嫁修業としてもいいんじゃないかと(って早すぎるかな?)


「料理部?!奇遇!私も料理部に入ろうって思ってたの!」
「ほんと?蕾ちゃんと一緒なら心強いよ!」

「じゃあ、今日の放課後見学行ってみようか!」
「そうだね!」
















「だいたい料理部の活動はこんな感じ。
自由に作るのもいいし、レシピを調べるてもいいし。
何ヶ月かに一回は部を開放してのお茶会もやるからね。
自分の料理の腕を存分に磨いていけるよう活動しましょう!
なにか質問のある人!
ないなら、今日は自由に見学してっていいよ」




放課後、家庭科室に蕾ちゃんと料理部の見学に行ってみた。
いろいろ活動についてとか、設備とか、先輩たちが作ってるのを見学したりとか。


「食べてみて」っていろんなお菓子(クッキーにマドレーヌ、ケーキにゼリー、プリンなどなど・・・)をくれた先輩もいたり。


デコレーション技術もすごくて、じぃっと見てたら、

「入部してくれたら、教えてあげるよー」

とにっこり素敵な笑みを浮かべてそういってくださった先輩もいた。


人間関係もよさそうだ。なにより先輩が優しい。




あと、たまにお菓子狙いで男子がきたりするよー、なんて教えてくれた先輩もいた。
それを狙ってる先輩もいるとかなんとか。



先輩も部長もいい人だし、活動も割と自由みたいだから、明日にも入部届けを出そうかな。

蕾ちゃんもきらきらした眼で見てたから、きっと入るんだろう。




「ね、光希。楽しそうだね、料理部。」
「だね。明日入部届けだそうかな」
「うん、私も」






それからもう少しだけ見学して、
入ったらどんなお菓子を作ろうか、なんて話を蕾ちゃんとしながら帰途についた。











入部してからの1週間は、調理器具の場所とか、手入れの仕方とか、直し方
(これがいろいろとあるから覚えるのが大変)を徹底的に覚えて、

食材の買い出しの方法とか、予算とか、部費のこととか、
そんなこまごまとしたことを教えてもらって、
ちょっとしたテスト
(包丁さばきとか泡立てとか料理の基礎知識とか)もあったりした。


できないからどうこう、というより、苦手なところを指導してもらえたりして、

・・・これはかなり花嫁修業になると思う。








私は先輩に言われて洗った布巾を干すために家庭科室を出た。

家庭科室の裏のほうに干すところがあるそうだ。これも教えてもらった。
こういう雑用は1年の仕事だよね。

ちなみに洗濯機もある。まずは清潔第一。そこは徹底しなくちゃね。



で、家庭科室を出てすぐ、家庭科室のほうへと歩いてくる丸井君を見つけた。

こっちにくるってことは・・・、
丸井君も料理部はいるのかな?甘いもの好きだって言ってたし・・・。


私は、話しかけてみることにした。



「丸井君?」
「うお!なんだ皆原か、びっくりしたぜぃ」


ちょっと目を丸くしてそういった。そんなに驚かせてしまったのだろうか・・・。


「どうしたの?料理部の見学?」


ちなみに今私はエプロンと三角巾を着用している(家庭科室では絶対必須!)

ちょっと子供っぽい柄だったかな。脱いでくればよかった。
なんだか急に恥ずかしくなってしまった。



「いや、甘い匂いがしたからよぉ、つい・・・。料理部なんてあるのか?」
「うん、私も料理部だよ。っといっても、入ったばっかりだけどね」
「へー、皆原は料理部かー」
「丸井君は?部活なにか入った?」
「おう、テニス部。まあ、まだ素振りしかやらせてもらえねーけどよ。ぜってぇレギュラーになってやるぜ!」



そう言って透明なラケットで素振りをしてみせる。
丸井君ならすぐレギュラーになれるんじゃないかな、って漠然と思った。運動部のことはよくわからないけど。



「そうなんだぁ、頑張ってね」
「おう!・・・でさぁ」


丸井君はちらちらと私の後ろ・・・家庭科室を覗きながら、


「お菓子作ってんだろぃ?それもらえたりできねぇの?」



・・・それが目当てでここまできたんだ。

丸井君とはまだ半月ぐらいしか一緒にいないけど、よほどの甘党だってことはわかった。


ホントにお菓子が好きなんだなぁ。


しかもすっごくおいしそうに食べるから(お弁当のあとにプリンを食べてるのをよく見る)
きっと丸井君に食べられるお菓子は幸せだろうなぁ、って思ったり。



「うーん、今作ってるのは先輩だからなんとも・・・。私たちはまだ作らせてもらってないから。」
「ちぇ、なーんだ。無理か」


小さい子みたいに口をすぼめて拗ねる丸井君を、かわいい、なんて思ってしまった。


ホントに残念そう。くるくると変わる表情。目が奪われる。


でも、笑顔のほうが好きだな、って思って。





私は無意識にこう言っていた。




「あのさ、私が作ったのでよければ、差し入れ、するけど・・・」
「まじで?!頼むぜ!」
「あ、でも、いつになるかは分かんないよ?」
「全然構わねーって!!」


そういう丸井君は、笑顔全開で。
私までつられて笑顔になっちゃって。


「あ、でも俺以外の奴にやるなよ!全部俺にくれ!」
「ふふふ、丸井君、ホントに甘いもの好きなんだね」
「ったりめーだろぃ?」



今度は声にだして二人で笑って。
ホントに、丸井君といると楽しいなぁ。
時間すら忘れてしまいそうだ。



「あ、いけない!私先輩にこれ頼まれたんだった!」


そういって、かごに入った布巾を指さす。


「あ、引き止めて悪かったな」
「ううん、最初に声かけたのは私だもん。じゃ、行ってくるね」
「おう!約束、忘れんなよー!」
「もちろん!丸井君も部活頑張ってね!」
「皆原もなー!」



約束、しちゃった。

最初は友達ができるかすら、とっても不安だったのに。






ホントに、丸井君は私の救世主だ。


(080928)


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