ブン太長編

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雨。雨。雨。



あー、雨が飴だったらいいのに。










季節は梅雨。いつも空はどんよりと重く、部活も外で思いっきりできない日が続いてる。
雨。別に嫌いじゃねーけど、やっぱり気が滅入っちまうぜ。


今日は学校は休み。ついでに部活も休み。

でも、やっぱ雨。




さっきまでは晴れてたのに、あっという間に雨雲が空を支配した。


あーあ。



で、ふと今日の曜日を思い出す。
・・・マンガの発売日じゃん!

俺は財布をひっつかみ、傘を手に徒歩5分の書店へと急いだ。
先週の続き、超気になってたんだよ!!










本屋に着くころ、雨はさらに勢いを増す。
1m先も見えねぇじゃん。なんだよこの大雨。


傘をさしてても容赦なく俺を濡らしていく雨。
くっそ、びしょびしょじゃねぇかよ!!


最後のほうは走りながら、書店の屋根の中に滑り込んだ。




「あれ?丸井君?」





聞き覚えの、ある声。
いやむしろ。
頭の中で何度も何度もリピートしていた声。

皆原の、声。





「皆原」






なんと、その本屋の屋根の下に、皆原は、いた。
その書店のロゴの入った袋を抱えてるところを見ると、
皆原もここでなんか買ったんだろう。






ちょっと、いや、かなり。



嬉しくなる。






「偶然だね。丸井君も本買いにきたの?」
「おう、皆原もか?」
「うん、ちょっとレシピを買いに、ね。」


袋から少しだけ本の頭をのぞかせる皆原。
その表紙にはうまそうな菓子の写真。


「うまそう。作ンの?」
「うん、リクエストもお受けしますよ?」
「まじで?!くれんの?」
「もちろん。そのために買ったもん」





え、
そのため?
その、ためって・・・


俺、のため?





「料理部で今度お茶会やるの。だからそれに出すお菓子作ろうと思って。試作品、って形になるけど、これに載ってるお菓子差し入れするね」





あ、なんだ。
違うのかよ。


俺、だけの、ためじゃないのか。






「楽しみにしてるぜ。皆原が作った菓子はうめぇから」
「そんな、お世辞言っても何もないよ?」
「お世辞じゃねぇって」


本当だっての。
皆原が、ってとこが重要なんだから、な。






「雨、やみそうにないね。」
「そうだな。・・・皆原、傘は?」


そう聞いたら、傘を手にしていない皆原は、
へへ、と笑いながら言った。


「晴れてる時に家出たから、持ってこなかった」
「・・・馬鹿か?」
「うっ・・・」



なんだよ、皆原、傘持ってきてねぇなんて。
梅雨なんだから、雨降ることくらいわかるだろぃ?
なのに置いてきたって・・・・。







・・・・かわいすぎ。










ああ、最近思考がおかしい。
皆原のこと、何しててもかわいく見える。
いや、実際何しててもかわいいんだけど。


自覚した、俺の誕生日から。
気がつけばいつも、目で追っている。






いつも、いつも。目で、追ってるんだ。









・・・あ、そうだ。


「皆原、ちょっと待ってろぃ!」
「へ?」



俺はダッシュで店内に入り、マンガをひっつかんで、ちゃっちゃと清算をすませる。


で、急いで皆原の隣に戻るまで、所要時間は約2分。




「ま、丸井君・・・?」


ぱちくりと目をまん丸にさせる皆原。
さっきより少しだけ弱くなった雨の中に、
晴れた空の色の傘を広げながら、



「送ってく。」




俺らの上だけ雨がやむ。





皆原は、本をぎゅっとにぎって、笑顔で言った。
「ありがとう!!」って。











なあ、雨。
さっき気が滅入るとか、ひどいこと言って悪かった。






あんたのおかげで、
左肩は濡れてるけど、








右側が、春の陽だまりみてぇにあったけぇんだ。



(091109)


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