テニプリ短編

□キミの威力。
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「あ〜・・・。う〜・・・。」




さっきから、頭の上から聞こえる唸り声。
それを発してるのは、俺のベッドを我が物顔で独占する俺の彼女、光希だ。

俺の枕は光希の腕の中にあって。


あぁ、光希の香りが移ってるかも。そしたら、俺、今日寝れねぇじゃん・・・


なんて考えてる俺は、相当やべーよな。
なんとか意識を散らすため、漫画に目をやる。
やべ、台詞すら頭に入ってこねぇ。




「さっきから何唸ってんだよ」
「・・・髪、切りすぎた。へん」




漫画はもう読めない。だけど読んでるふり。
さっきの唸り声の理由は、どうやら髪型、らしい。
今日髪を切ってきたらしく、玄関のドアを開けて光希の姿を目にしたときは驚いた。

今までの雰囲気と、違ってて。
なんつーか、なんつーか。



・・・・かわいかった。



だけど当の本人は、その髪型をお気に召さねぇらしい。
・・・・かわいいのに。言えねぇけど。




「んなことねぇって」
「うそ」
「嘘って・・・お前なぁ・・・」




素直に『かわいい』と言えない俺は、そんなことを言った。
けど、言った瞬間否定が返ってきた。
おいおい、スピードは俺の専売特許だってーの。




「だいじょーぶだって。お前はショートも似合うって」
「・・・私、髪伸ばしたかった」
「・・・」
「・・・ちょっと梳いて貰おうと思ってただけだったのに・・・」




俺の枕に顔を埋めながら、いじけて言う光希。



やばいって、ホントに俺今日寝れねぇじゃん。



いつのまにか、ページの進まない漫画は放り出していた。
無意識、ってすげぇ。
いつのまにか、俺の五感は全部光希に向かっていた。
やっぱ、無意識、ってすげぇ。





「・・・ったのに・・・」
「ん?何?」





ぼそり、つぶやいた。
これが深司なら、わざわざ聞き返したりなんかぜってーしねぇな。


光希だから、一言も聞き逃したくねぇ。一瞬も見逃したくねぇ。





「・・・アキラのために、かわいくなろうと思ったのに・・・」





・・・っおい!
んなかわいいこと言うの、反則だろ!


不覚にも、顔が赤くなる。
頼むから、前髪。赤い俺の顔を隠しててくれ。



ぎしっ、と2人分の重さに軋むベッドの音がやけに大きく聴こえる。
俺は、目の前でいじけている、光希を抱きしめた。


・・・頼むから、心臓。少し大人しくしててくれよ。うるさくて、気付かれちまうだろ。







「・・・ったく、かわいすぎること言うなよな・・・・」







光希の耳に口を近づけて、そのまま囁く。
前に、光希は俺の声に弱いって言ってた。

俺だけ赤くなるのは悔しいから。他の奴らの前ではぜってー出せないような
思い切り甘い声を出してみる。

だけど、羞恥心から、また赤くなる。
・・・頼むから、こっち向くなよ、光希。





「光希はそのままで充分かわいいって。俺が言うんだからもう気にすんな。な?」
「う、うん・・・」





ちらりと盗み見た光希の耳は真っ赤だった。
2人して赤くなりながら抱き合ってるって、傍から見たらどうなんだろーな。
なんて思ったけど。

見てるやつなんていねーし。こんなかわいい光希を誰かにみせたくなんてねーしな。





光希の髪からは、洗髪料特有の匂いと、光希の匂いがした。







キミの威力。






(やっぱ、俺。光希には敵わねぇな)(あ〜あ、・・・・俺、寝不足決定かも。)

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