脇役男子N

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『質問その1』

 八城 燿の場合。


 入学式の次の日。朝の食堂で、燿は思い出した様に呟いた。

「そういや、あの不気味なヤツ何だったのか聞くの忘れた」
「それ、昨日俺聞いたよっ」

 太一郎が得意げに言った。

「おー、偉いぞ太一郎。やっぱ魔除けか?」

「んーと、確か…」


 昨日に遡る。




『質問その2』

 山田 太一郎の場合。


「なぁ…夏」

「なぁに?」



 昼の時間。太一郎が食堂から帰ってきた時の事。夏太朗も食事を終えたのかキッチンで食器を洗っていた。
 入学式の朝の時もそうだが、自炊派の様だ。

 太一郎がふと目を個室の扉方へやると、すぐにそれは目についた。

 あの赤い文字が書かれている板を。

 そしてずっと疑問に思っていた事を問う為、気がつけば声を掛けていた。

 振り返り、太一郎を見つめるその瞳は色素が薄くとても澄んでいる。

「どうしたの?」
「えっと……あれ、あのプレート?なんだけどさ…」

 視線があの、伝言板に注がれる。

「ああ。あれか。びっくりしたでしょ」
 苦笑を漏らして答える。ばつが悪そうな顔にも見えた。

「うん…なんで…?」

「理由はまぁ、二つくらいあるんだけど。
 自分で言うのもなんだけど、俺一応作家でさ」

「悠から聞いたよ」
「…よく知ってたね?」
 太一郎の言葉に少し目を丸くする。

「みんな知ってるわけじゃ、ねぇの?」

「知ってる人は知ってる、知らない人は知らないっていうか…、悠が知ってるとは思わなかったな」
 なんせ、昨年デビューしたばかりだ。

「話が逸れたね。それで俺、執筆の調子が悪いと機嫌悪くなってさ、話しかけられるのとかも嫌で、そういうの一応プライベートな時間や場所に留めてるんだけど」

「だからあれ付けてんだ」
 納得した様に頷く。
 人によってはツッコミ所があるだろうが、この二人、全く気にしてないらしい。

「あれだと誰も近づこうとしないもんな」
「うん。あんな赤文字なのは、もう一つの理由になるんだけど」

 確かに部屋に入ってほしくない、今は構ってほしくない等だけならもっと普通の物でいいはずだ。
 個室には鍵だってついている。

「これを飾るきっかけの話になるんだけど、結構長いよ?」

「夏が構わないなら聞かせてよ。気になるし」

「わかった」

 夏太朗はくすりと笑った。


 
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