脇役男子N

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 その日、前代未聞の事態が起きた。



 いつも通り、放課後に夏太郎と歩夢は図書室に寄る所までは同じ。
 しかし今、このピリピリとした空気と困惑はなんなんだろうか。


「…………ぅ」

 歩夢はうつむいている。

「…………」
「……………」

 何してんの、この人達…。

 歩夢を挟んで睨み合う灯景と鬼塚を困惑しつつも、内心呆れながら夏太郎は見ていた。


 まさか、鬼塚と赤星が図書室に来るなんて。




 今日は図書当番という事もあって、歩夢はカウンターにつき夏太郎は本棚の図書を整理していた。
 その時

 ……あれ?この気配…。

 もしかして…、と夏太郎が感じた気配の方に視線をやり、振り返る。

「やっほっ。なつたろーくんっ」

 そこにいた気配の正体は赤星 璃綺斗だった。
 やはり、という気持ちとなんで、という気持ちが入り混じり、困惑の表情が赤星に向く。

 だってここは…。


「赤星、てめーもだ。頭を黒か茶にしてから出直してこいや」

 低く、唸る様な声で灯景が近づいて来る。

 そうだ、ここでは派手な髪色だけでも地毛でない限り不穏分子の対象となる。言い換えれば、図書室入室をパスする為の最低条件でもある。


「ええー、氷室サーン。オレ茶髪だよ?」

「半分金パだろうがっ!」

 ごもっとも。
 その茶髪もかなり明るい色だ。

 てめーも、って言ってたけど…。

 カウンターの方を見やれば、明らかに困惑している歩夢の姿とその近くで立っている鬼塚の姿。
 鬼塚が偶然こちらを向いてバチリと目が合った。ので夏太郎は小さく頭を下げた。

「ねぇー。本借りてちゃんと読んで返すなら、ここ利用することにになんでしょー。ねっなっちゃん」

 呼び方が、なつたろーくんからなっちゃんに変わった。違和感がないくらいに。

「あの…、先輩達は歩夢に会いに来たんですよね?」

「まぁあねー。でもそこの司書サンに宣戦布告が目的。もちろん紫織ちゃんが」

「……!」

 灯景が赤星を睨んだ後、鬼塚に視線を向け睨む。

 その場の空気は寒々しいものになっていく。

 しかし、それを茶化す様な赤星の笑み。

「で、それを待っている間オレはなっちゃんにオススメの本でも教えて貰おっかなぁーっ」

「えっ…」

 途端に肩を抱き寄せられる。

「本じゃなくても、いいけどね…」


 息を吹きかける様に耳元で囁かれる。
 夏太郎の肩が僅かに震えた。


「璃綺斗」


 それは鬼塚の諫(いさ)める様な声。


「止めろ。歩夢が心配する」

「えー…。歩夢ちゃーん大丈夫だよー?」

 歩夢の方を窺えば、口元に両手をあてて息の詰まった様な顔をしている。

 いや…、あれは……。

「いいから、放してやれ」
「へーい」


 解放され、小さく安堵の息を漏らした。



 
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