君といた軌跡T

□episode 7
1ページ/5ページ






……翌日。
暖かな陽射しの下、シュッシュ…と、刀が力強く風を切る音がする。
真剣な眼差しで剣の練習に打ち込んでいるゾロを見つめていると、不意にゾロが動きを止めてこちらを振り返った。

「…何ぼーっと突っ立ってんだ。お前もやれよ」
『っ、はい!!』
「とりあえず、素振り100だ」

一応、女ということで回数は加減してくれているようだ。
ゾロの隣に立って、私は無心で刀を振るい始めた。

(……)

こうして鍛錬に勤しんでいると、現世を思い出して何だか懐かしい気分になる。
向こうでも…よくこうして父と並んで素振りをしていた。

これまで父に教わってきたこと…
これからゾロに教わること…
すべてを活かして、私は強くなる。
ゾロのように世界一とはいかなくとも──
せめて、彼に背中を預けてもらえるくらいには。

『…99…100!!』

ようやく素振りを終えると、ゾロは待っていたかのように刀を下ろして私と向き合った。

「…よし、じゃさっそく実戦だ」
『実戦?』
「強くなりてェなら経験を積むのが手っ取り早ェだろ。…心配すんな、最初は手加減してやる」
『……』
(…まぁ、確かにゾロの言う通りだよね)

『…わかった。お手柔らかにお願いします!!』







***


『つ、疲れた…』

初日からずいぶんハードなトレーニングで、さすがのあやかも疲労はピークに。
汗を流し、酷使した体の疲れを取るためにバスタオルを持ってバスルームへと向かう。
ガチャリと扉を開けると、中の灯りが点いていることに気付いた。

(この時間は誰も入ってないはずだけど…)

水の音もしないし、消し忘れかな?
そう思って脱衣所に入ると、目の前のシャワーカーテンは閉まっているもののやはりシャワーの音はしない。

だが、バスタオルを脱衣かごに入れようとして、あやかは動きを止めた。
もう1つのかごの中に見覚えのある緑の腹巻きが入っているではないか。
私が腹巻きを手に取ると同時に、シャワーが動き出す音がした。

『!!』
(ゾロが入ってるの!?)

水音に驚いた私か慌てて脱衣所を出ようとした時──きゅっと、シャワーの音が止んで脱衣所と浴室を区切っていたカーテンが開かれた。

『…!!』
「な…!?」
『きゃ……んぐっ!!』

振り返った私の目に飛び込んできたのは、シャワーカーテンから覗くゾロの裸(下はちゃんとタオルを巻いていた)。
思わず悲鳴を上げそうになると、ゾロが強い力で私を抱き寄せてその胸に顔を伏せさせた。
何も着ていないその肌に、私の顔がぴたりとくっつく。

「叫ぶな。あいつらが来るだろ」
『…は、はい…』
「だいたい、覗いた方が何で叫ぶんだよ」
『ごめんなさい…』

謝ってはいるものの、正直ゾロの肌に直に触れているこの状況に私の心臓の音が異様に亢進していてもう何が何だかわからない。
平常を装うので精一杯。

「お前、おれが入ってるのに気付かなかったのか?」
『灯りはついてたけど水音がしないから消し忘れかと思って…』
「それならそれで声くらい掛けるだろ」
『うっ…;』

…確かに。
そこまで頭が回らなかった自分を今となって恨む。
言葉を詰まらせる私を見つめて、ゾロは何やらニヤリと不敵な笑みを口角に浮かべたかと思うと、からかうような口調で「初めから覗くつもりだったのか?」と言ってきた。

『な…っ、そんなわけないでしょ!!』

変態扱いをされるとは心外だ。
ふん、という顔つきで「どうだか」と私を見下ろすゾロに何だかだんだん腹が立ってきた。
私だって言われっぱなしは性に合わない。
だから思わず

『ゾロの裸見たって何の得にもならないからっ』

と、反抗したら──
次の瞬間には、何故か身体を壁に押しつけられていた。

『…な、なに』
「人の風呂を覗いておいて随分な言い方だな」
『だ、だって…!!それは…売り言葉に買い言葉で…』
「…だとしても、許すわけにはいかねぇ」

あやかの華奢な両腕を押さえつけて、
額と額がくっつきそうなくらい顔を近づける。
みるみるうちに顔を紅潮させていくあやか。
その、おれを意識した女の表情を見ていると次第に欲が増してきて…

──もう限界だ。

あやかの気持ちが知りたくて。
早く自分のものにしたくて。
気付けば──

「…お前、おれの事どう思ってる?」

そんな事を口走っていた。

『え?』

あやかからすれば、まったく脈絡のない質問。
なんで急にそんなことを…?と、戸惑うあやかに、ゾロは「答えるまで離さねェ」と更なる追い討ちをかける。

『…!』
(そ、そんな…!!)

逃げる術をなくした私は心の中で自問自答を繰り返す。
正直に「好き」と伝えるべきか…
でも、こんな状況での告白もどうかと思うし…
いろいろ考えるけどキリがなくて。

『どう…思ってたらいいの?』

苦し紛れに返した質問。
ゾロは一瞬渋い表情をしたものの、すぐにいつもの勝ち気な笑みを浮かべて言った。

「おれと同じであればいい」
『それって、どういう──』

声が途切れると同時に、唇に柔らかい感触が触れた。

『…っ……ん』

鼻をかすめるゾロの香り。
もうゾロしか感じないくらい、体が甘く痺れる。

『っ、ふ…』

身をよじる私をゾロはきつく抱きしめて、まだだと言わんばかりに唇を押しつけてくる。
そして、ようやく唇を離したかと思えば、
ゾロはもう一度確かめるように私の唇を悪戯についばんで、すっと身体を離した。

頬が熱くて、鼓動が速い…。

恍惚したような目つきでゾロを見上げると、ゾロは満足げに微笑んだ。


「こういうことだ」









  
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ