君といた軌跡T

□episode 5
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「ん〜…何か忘れてる気がするんだよなぁ」

ある日のこと。
みんなで食事をしていると、不意にルフィがそう呟いた。

「…何かって?」
「わかんねェ」
「お前がわかんねェんじゃ、おれらは尚更わからねェよ」
「ん〜…なーんか物足りねェんだよなぁ」

そう言ってテーブルに項垂れるルフィを、煙草に火をつけたサンジが白い煙を吐きながら一瞥する。

「……何だ、なにか不満か?」
「ん〜…」
『あたしは特に不満はないけど…』
「まぁな。航海も順調だし、特に問題もねーし…」
『…まさか順調すぎるのが不満とか?』
「何言ってんの!航海が順調なのはいいことよ!?あやか達が仲間に加わったんだから、なるべく危険な冒険は避けなきゃ!!」
「! それだ!!」

ナミの言葉を受けて物足りない原因がわかったのか…
突然ルフィがパッと表情を明るくさせて立ち上がった。

「……な、何…?」
「おれは重要なことを忘れてた!!」
「…重要な事?」

ルフィ以外のメンバーが首を傾げる中、ルフィはズンズンと勢い良くあやか達の前に突き進んでいったかと思うと…ガシッ!と、まなの肩を掴んだ。

「まな!!」
『Σふェっ!?』
「あやか!!ゆうな!!」
『ん?』
『…何?』
「せっかくお前らが仲間になったってのに…おれとしたことが、まだお前らの歓迎の宴をしてねェ!!」
『は?』
『う、宴?』

まったく予期していなかった言葉が出てきたため、私達は思わずキョトンとルフィを見上げた。

何を悩んでいたかと思えば…
自分たちの宴をしていなかったことが物足りないなんて。
少し笑ってしまったと同時に嬉しくもなった。

「よーし!今夜は宴だ!!」
『えっ、今日!?』
「まぁ、1週間ほど過ぎちまったがそこは許してくれ!!」
『…いや、そうじゃなくて…;』

話の噛み合わない船長にゆうなが困り果てる隣で、ウソップとゾロがいつものことだと諦めの表情を滲ませる。
ウチの船長は、一度こうと決めたら意見を覆すことはほぼない。

「いいんじゃない?ちょうど、この近くに島もあるみたいだし…寄り道して食材とかの調達もしましょ」
「おう!これで、やっとお前らの歓迎会ができるな!!」

ニシシッと笑うルフィを見ているとこっちまで胸が弾んでくる。

…こうして、ルフィの突発的な提案により急遽あやか達の歓迎の宴を開くことにした一味は、早速新たな島へと船を転針させた。





***

『わぁ…!!』

船を進めること一時間弱…。
宴に必要な食材やお酒…その他備品の調達のために島にやってきた私達は、大通りに溢れ返るほどの露店や、様々な格好をした男の人たちが賑やかに行き交う光景を見て思わず言葉を失った。

『すごいね、あやか!!』
『…うんっ!!』
「さて、と…じゃあ、とりあえずこの街で食材や足りない物資とかを買い出しに行こうと思うんだけど…」

ナミが切り出すと、早く街を散策したくて先程から落ち着きのなかったルフィが、ズイッとナミの前に身を乗り出した。

「なぁ、ナミ!散策してもいいんだろ?」
「いいけど、ぜっったい!!問題起こさないでよね!!!」
「わかった!!」

ナミに強く釘をさされたルフィは大きく頷くと、隣で物珍しそうにキョロキョロと辺りを見回しているまなに視線を移した。

「まな、一緒に来るか?」
『!? うん!行く!!』

ルフィからの思わぬ誘いにまなは一瞬目を丸くさせたが、満面の笑みで頷くと、ルフィも満足そうに笑顔を向けた。

一方、その傍らで…

「おれは今晩の宴の食材の買い出しに行かねーとな…」

びっしりと文字が綴られたメモ用紙とにらめっこしているのはサンジ。
近くにいたあやかが、呟くサンジの声を耳にして後ろからひょこっと顔を出す。

『私、手伝おうか?』
「あやかちゃん…!!助かるぜ、買わなきゃいけねェもんが山ほどあるんだ」

「ほら」と、見せられたメモにはたくさんの種類と量の食材の名が書かれていた。

『こんなに買うの!?(汗)』
「ああ…なんたってウチの船長は底なしの大食らいだからな。これだけ買ってもすぐなくなるぜ」
『ふふっ…確かに』

いつものルフィの食事の様子を思い浮かべてサンジ君と笑い合っていると、不意に背後から「おい」と低い声がした。ゾロだ。

「買い出し行くのか?」
『うん、サンジ君ひとりだと大変そうだしね』

私が頷くと、ゾロは眉間に寄せた皺をさらに深くさせて渋い表情を見せる。

『どうかした?』
「…おれも行く」
『へ?』
「おれも一緒に行くって言ったんだ」
『えっ…』
「おうおう、マリモ君…そんなにおれとあやかちゃんがふたりになるのが気に食わねェか?」
「…ああ、気に食わねェ」
『!』

コックの冷やかし…
いつもだったら「うるせェ」とか言って適当に流すが、おれは正直に肯定の言葉を口にした。
あやかが面をくらったような顔で呆然とおれを見つめてくる…。
その視線から逃げるように、おれは顔を横に逸らした。

…自分でも、らしくねェと思う。
だが、あやかを好きだと自覚してからというもの…
おれは今までに感じた事のない感情に振り回され、自分でも驚くような行動が多くなった。

今だってそうだ。
コックと話している時のあやかがおれといる時より楽しそうに見えて、もしかしてこいつはコックが好きなんだろうかと思うと、すげー焦る気持ちが沸いてきて…その結果がこれだ。

「行くぞ」
『え?え…ちょっ、サンジ君は!?』

呆然としていたあやかの手を強引に掴み、サンジをその場に残して船を降りるゾロ。
その背を見送ったサンジは…

「…おいおい、ちゃんと買い出しできるんだろうな」

やれやれと首を振って、ため息をついた。




  
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