君といた軌跡T
□episode 16
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静かな波の、ぽちゃぽちゃと舷側を叩く音がする…。
穏やかな海の上を進む1隻の船からは、珍しくいつもの喧噪が聞こえない。
「もう追ってこねぇな…海軍の奴ら…」
「んー」
『んー』
「んー」
「つき離したんだろ!?」
「んー」
『んー』
『んー』
「…あのな…なんだよ、その気のねぇ返事は…」
ゾロの呆れた言葉に、ゾロ以外の全員が2階手摺りの間から横並びに顔を出して、同時に「さみしー」とめそめそしながら呟いた。
ビビが来ないこと…
みんな、ある程度は覚悟していた。
だから、ビビから別れを告げられた時は彼女の決断もすんなり受け入れられた。
──けれど、時間が経てば経つほどに、ビビとカル―がもうこの船にはいないという事実が、みんなの心を悲しい気持ちに沈ませていた。
「そんなに別れたくなきゃ力づくで連れてくりゃよかったんだ」
めそめそ泣く彼らに、ただ一人、淡白なゾロが言い放つと、全員が顔に不満を滲ませる。
「うわぁ、野蛮人…」
そして、チョッパーを筆頭にゾロへの悪口が始まった。
「最低…」
と、ナミ。
『冷血人間…』
と、ゆうな。
「マリモ…」
と、サンジ。
『腹巻き…』
と、まな。
「三刀流」
と、ルフィ。
『かっこいい…』
と、あやか───
「Σ待てルフィ、三刀流は悪口じゃねぇぞ。あやかに至ってはホメ言葉だ!!」
悪口になっていない悪口を言うルフィとあやかに、ウソップが的確なツッコミを返す。
そのアホらしいやり取りを聞きながら、すっかり呆れ果てたゾロが「わかったよ、好きなだけ泣いてろ」と、そっぽを向いたところで
「やっと島を出たみたいね…ご苦労様」
「ああ」
不意に船室から出てきた女性の声に反射的に頷いたゾロ。
だが、すぐにその違和感に気づいたゾロが慌てて視線をそちらへと向けると──
「!!!?」
そこにいたのは、ミス・オールサンデーことニコ・ロビン。
予想もしなかった人物の登場に一味は声にならない叫び声を上げると同時に、それぞれがぞれぞれに騒がしい態度を見せる。
「組織の仇討ちか!!?相手になるぞ…」
刀に手をかけるゾロ。
「何であんたがここにいんのよ!!」
頭を抱えるナミ。
「キレーなお姉サマ〜〜〜♡」
「敵襲〜〜!!!敵襲〜〜〜っ!!!(汗)」
予想通りの反応をみせるサンジとウソップ。
そして、マストに隠れて叫びながらも「…誰?」と、ニコ・ロビンが誰なのかわかってない様子のチョッパー。
あやかとゆうなに至っては、警戒を強めているものの、特に動くこともなく傍観を決め込んでおり──
そして、一味の中で一番ニコ・ロビンと関わりを持っていたルフィとまなが、彼女が生きていたことに僅かに驚きの表情を見せる中…
「そういう物騒なもの私に向けないで──って、前にも言ったわよね?」
ニコ・ロビンは能力で咲かせた手でゾロの刀とナミの天候棒を払い落とすと、階段下に置かれていたデッキチェアに手を伸ばした。
『いつからこの船に?』
ゆうなが尋ねた。
「ずっとよ──下の部屋で読書したりシャワー浴びたり」
『……』
(ずっと──?)
…ってことは、ボンちゃんことMr.2と協力して海軍から逃げていた時も。
ビビと別れた、あの時も…ずっと?
『…全然、気付かなかった…』
「Σ何でちょっとヘコんでんのよ!!(怒)」
残念そうに肩を落とすゆうなにナミが苛立ちを含んだ声で返す。
その傍らで、ニコ・ロビンは持ち出してきたデッキチェアを甲板に広げるとルフィへと視線を向けた。
「モンキー・D・ルフィ」
「ん!?」
「──あなた、私に何をしたか…忘れてはいないわよね…?」
「?」
「な…ナニって、おいルフィてめェ!!キレーなお姉さんにナニしやがったんだオォ!!?」
意味深な彼女の台詞を、よからぬ方向に勘違いしているサンジは当然怒りの形相でルフィを責め立てるのだが、ルフィにはまったく見当のつかないことのようで──
「おい、お前!!ウソつくな!!おれはなんもしてねェぞ!?」
「いいえ、耐え難い仕打ちを受けました。責任…とってね」
「「!?」」
さらに誤解を招きそうな物言いに、サンジはもはや無言で、ただただ悔しそうにルフィの首をガクンガクンと揺らし…
まなもまた、「ルフィ…あたしが気絶してる間に一体何したの…」と怪訝な表情を滲ませる。
誰に誤解をされても、まなにだけは絶対に誤解されたくないルフィは「だから、なんもしてねェ!!」と、必死にまなに弁解しつつ…ニコ・ロビンの回りくどい言い方に「どうしろっていうんだよ」と尋ねると、彼女は笑みを浮かべて言い放った。
「私を仲間に入れて」
「『……!!』」
「は!?」
ニコ・ロビンの、唐突すぎる要求に全員が息を呑んだ。
彼女の言い分はこうだ。
地下殿で戦ったクロコダイルとの最終戦──生きる目的を失った彼女は、崩壊していく建物と共に命を捨てるつもりだった。
…けれど
「死を望む私をあなたは生かした…──それが、あなたの罪…」
「……」
「私には行く当ても帰る場所もないの。だからこの船において」
「何だ、そうか。そらしょうがねぇな……いいぞ」
「「ルフィ!!」」
つい先ほどまで敵だった女性の要求を、二つ返事で引き受けるルフィにナミ、ゾロ、ウソップの3人が一斉に異議を唱える。
けれど、「心配すんなって、こいつは悪い奴じゃねぇから!!」と笑って言われてしまえば、それ以上何も言い返せず…
とりあえず、敵だった相手を仲間にするのなら情報が必要ということでウソップの取り調べが始まった。
名前はニコ・ロビン。
現在28歳。
8歳で「考古学者」、そして賞金首になり──その後20年、ずっと政府から身を隠して生きてきた彼女は、色んな"悪党"に付き従う事で身を守ってきたと話す。
「お陰で裏で動くのは得意よ?お役に立てるはず」
「ほほう、自信満々だな…何が得意だ?」
「暗殺♡」
艶やかに微笑みながら言い放つと、ウソップがルフィへと「取り調べの結果、危険すぎる女と判明!」と泣き叫ぶ。
けれど、当のルフィはチョッパーとまなと共に、ロビンの「ハナハナの実」の能力によって甲板から生えている手とじゃれあっていて、全くと言っていいほど話を聞いていない。
一番の常識人であるナミも、初めこそ強気な態度をとっていたものの、ロビンがクロコダイルのところからくすねてきた宝石を見た途端にコロリと態度を変え、ゆうなに至ってはあまり興味がないのか、ロビンの参加になんの反応も示さない。
サンジはサンジで、最初(ハナ)からあてにしていないし──
「おれ達が砦ってわけだ」
「まったく、世話のやける一味だぜ」
ゾロの言葉に、ウソップが頼もしく頷く。
だが、その直後に「ウソップー」とまなに呼ばれて振り向いたウソップは、
『チョッパー』
言葉通り、頭から生えた2本の腕がまるでチョッパーの頭のようになっているのを見て大爆笑。
先程までの警戒心なんてすっかりなくなったように、ルフィ達と一緒になって笑い転げている。
「……(怒)」
その様を、ゾロが額に青筋を這わせて見ていると
『…ゾロはどう思う?』
と、あやかが側にやってきた。
「信用はできねェな」
最初に敵として出会ってる以上、やはり警戒してしまうのは当然。
「…お前はどうなんだ?」
ゾロが尋ねると、あやかは「うーん…」と視線を宙に這わせ、少し考えてから
『私は…ルフィが"悪い奴じゃない"っていうなら、それを信じてみようと思う』
「ハナハナの実」の能力で、相変わらずルフィ達をからかって遊んでいるロビンを遠目に見つめながらそう話すと、ふとロビンと目が合った。
「いいわね……いつもこんなに賑やか?」
騒がしいルフィ達から離れて、こちらに緩慢に歩み寄ってきたロビンが尋ねる。
「ん? ああ…」
『だいたい、いつもこんな感じ』
あやかとゾロが答えると、ロビンは「そ」と笑顔に。
…こうして、ビビとカルーという仲間と別れた彼らは、新たにロビンという仲間を迎えて航路を行くこととなった。