君といた軌跡T

□episode 19
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透き通るような青みを帯びた空。
一面に広がる真っ白な雲。
その所々から覗く、いくつもの宮殿のような建物には空島の人達が住んでいるのだろう。

明らかに地上とは異なる、この幻想的な世界…。
誰もが空想でしかないと思っていた、この信じられない光景が広がるこの世界は──空想上のものではなく、今まさに現実として彼らの目の前に広がっていた。

「は〜〜〜っ!!ここは何なんだ!!冒険のにおいがプンプンすんぞ!!!」

眼前に広がる夢の世界に、いてもたってもいられなくなったルフィが船を飛び出すと、それに続いてまな、ウソップ、チョッパーが

『あっ!!ルフィ待って、あたしも〜!!!』
「うほー!!この島地面がフカフカだ!!」
「空島だ──!!」

と、声を上げながら空島へと足を下ろしていく。

『私も着替えてこよっと♪』

その背を見送ったあやかは、ゆうな、ナミ、ロビンと共に動きやすい服装に着替えるため一度女部屋へ。

「しかし、たまげたなこの風景にゃ……まるで夢だ」
「全くだ……それにあいつらのハシャギ様ときたら……ハハしょうがねぇな…」

ゾロの言葉を受け、幼い子どものようにキャッキャッとはしゃぎ回るルフィ達を見つめながら冷静な言葉を返していたサンジだが、彼もこういう未知なものに対しては心踊るものがあったのだろう…

「ひゃっほ〜〜う!!」と声を上げながら、興奮のままに空島の海へと飛び込んでいったサンジの様にゾロが「おめぇもだよ;」と呆れたように言葉を落としたその時だ。

『痛い痛いっ!!ごめん、ごめんっ!!』
「!?」

着替えを済ませたゆうなが、"突き上げる海流(ノックアップストリーム)"に乗るために連れてきたサウスバードにつつかれながらが甲板に姿を現した。

『……逃がすのすっかり忘れてた…;』

怒った様子で、そのまま空島の世界へと羽ばたいていくサウスバードの尾を見つめながら呟いたゆうなに、フカ雲に錨を刺す作業をしながらもその言葉が聞こえていたゾロが「人も住んでるみてぇだ、別に生きていけるだろ」と言葉を返す。

『…まぁ、それはそうだけど──』

言いながら振り返ったゆうなは、甲板にサンジの姿がないことに気付いて首を傾げた。

『あれ?サンジは?』
「あいつなら………あそこだ」

ゾロが指した先に視線を移すと、何やら草木の生い茂った場所に腰を下ろしているサンジの姿が見える。

ルフィ達のように楽しい気持ちを全面に出してはしゃいでいるわけじゃないけど、その背中から何となくサンジの気が浮き立っているのが伝わってきて微笑ましく思っていると、あやかがナミとロビンと会話しながら部屋から出てきた。

「…やっと来たか」
『ゾロ!!待っててくれたんだ』

先に降りているものだと思っていたからゾロが待っていてくれたことが嬉しくて。
パァっと目を輝かせたあやかが弾むような足取りでゾロの側に駆け寄ると、フッと笑みを溢したゾロが頭をポンポンと撫でてきた。

『? なぁに?』
「いや…犬みてェだなと思って…」
『……!! 犬って…』

ククッ…と押し殺した笑い声を洩らすゾロを、あやかが曖昧な顔で見つめる。
すると、それに気付いたゾロが「あー…言い方が悪かったか?」と呟いて、あやかの耳元に唇を寄せた。

「かわいいってことだ」
『……!!//』

ふっと微笑む表情に、あやかの胸がドキンと音を立てる。

『……ずるい』
「ん?」
『……反則…』

照れ臭いのか、頬に朱を注いだあやかが伏し目がちに呟く。
その可愛らしい反応にゾロが満足気な表情を浮かべていると、気付かぬうちに空島へと足を下ろしていたらしいゆうなが「お〜い」と船の下から声を投げてきた。

『降りないのー?』
「ああ…今行く」

気付けば、甲板に残っているのはゾロとあやかだけになっていて。

ゾロはゆうなに短く返事をすると、あやかの手を取り、そのまま甲板から飛び降りた。

「本当に雲か!?これが」
『不思議な島だよね』

やっと辿り着いた夢の島。

『ここなら海軍も追って来ないし、羽を伸ばせそう』

久しぶりに味わう解放感。
あやかは日々の疲れを吹き飛ばすかのようにグッと背伸びをすると、思い思いにはしゃぐ仲間を見つめて微笑を溢した。

何やら、大きな木の実を手に楽しそうに騒いでいるルフィとウソップとまな。

そのすぐ側で、屋根付きの小さなデッキに設置されている雲で造形されたソファに腰をかけてくつろいでいるチョッパーとナミ。

サンジはたくさん摘み取った綺麗な花をゆうな、まな、ロビンと渡して今度はナミのもとへ。

「…あの様子じゃ、次はお前に来るんじゃねェか;」

そんなサンジを見てゾロが呆れたような声を洩らしたその時──ポロロロロン〜♪と、どこからか綺麗な音色が聴こえてきた。

「ん?何の音だ?」

硬くて食べられなかった木の実にかじりつきながら、ルフィが首を傾げる。

『綺麗な音…』

止まることなく流れてくる心地よい音色にあやかが耳を澄ませていると、「スー!!スー!!」とどこからか白色の毛をした小さな動物がやって来た。

「お!何だコリャ、きつねか?」
『かわいい』

足元にすり寄るその子を、力を入れすぎないようにぎゅっと優しく抱きしめると、キツネも嬉しそうにあやかに頬をすり寄せる。

「……」
(……いや…)

たしかにキツネも可愛いが、それより何より…

(お前がかわいい)

キツネを抱きしめて嬉しそうに笑うあやかを、ゾロが微笑ましく見つめていると

「おい、あそこに誰かいるぞ!!」

不意に、サンジが少し離れた距離にあった雲の上を指して声を上げた。

その声にウソップが「またゲリラか!?」と怖じ気づき、「笛!!笛は!?」とまなが慌てふためく中、キツネを抱え上げたあやかがサンジの指す先に視線を這わせると、雲の上で1人の少女が楽器を弾いているのが見えた。

『天…使…?』

あやかがポツリと声を溢すと、こちらに気付いた少女がニコッと笑みを浮かべて「へそ!!」と会釈をしてきた。

『…へそ?』
「へそって何だ…?」
「いや、へそはへそだろ…」

投げ掛けられた謎の言葉にまなが首を傾げ、ルフィが疑問を口にし、ウソップが間違った解釈をしていると、「青海からいらしたんですか?」と、少女がこちらに歩み寄ってきた。

「スー、こっちへおいで」
「スー!」
『あ…』

少女の声に、キツネはスルリとあやかの腕を抜けて少女のもとへと駆け寄っていく…。
どうやら、白いキツネは彼女のペットだったようだ。

「……下から飛んで来たんだ。お前ここに住んでんのか?」
「はい、住人です」

ルフィからの質問返しに頷くと、少女はニッコリと微笑んで

「私はコニス。何かお困りでしたら力にならせて下さい」

と、自己紹介をしてくれた。

親切なコニスの言葉にナミがちょうど良かったと、さっそく空島のことを尋ねようとして──それよりも先に、サンジが「ああ、それが君の視線で心に火傷を……」とコニスを口説き始める。

当然、すぐ側でその様を見ていたゆうなに、ものすごい冷めきった表情で「邪魔」と一言だけ浴びせられ、そのまま耳を引っ張られながらその場から退場していくのだが…。

そんなサンジのバカさ加減にナミが呆れたように溜め息を吐いたその時だ。

「おい、海から何か来るぞ!!」

視界に小さな人影を捉えたゾロが声を上げた。

「今度こそゲリラか!?(汗)」
「Σナメクジだ!!」

徐々に近づいてくる影を見て騒ぎ立てるウソップとルフィ。
だが、その正体はゲリラでもナメクジでもなく──

「あ、父です」

コニスの父親だった。

しかも、よくよく見るとコニスの父は何やら小さなボートのような形をした乗り物に乗っている。

「あれは何!?あの乗り物!!」
「あ…"ウェイバー"の事ですか?」

ナミの言葉を受けてコニスが答えると同時に、浜に戻ってきたコニス父が「はい、すいません。止まりますよ」と格好よく停船───しきれず、そのまま勢いよく木に激突していった。

『あ』
「あァ…;」
「みなさん…おケガはないですか…」
「Σおめェがどうだよ!!」

一番重傷である自分はさておき、よろめきながらも他人を気遣うコニス父にゾロが激しいツッコミを飛ばす一方で、
「ねェ、ルフィ。あんた"ああゆう"の海底から持って来なかった!?」と、ナミがルフィに詰め寄る。

ルフィが青海で拾ってきた、ナミがただのガラクタだと思っていた"それ"は、ノーランドの日誌で読んだ、"風がなくても走る船"───まさに今、コニス父が乗っていた"ウェイバー"だったのだ。

「いったい、これどんな仕組みなの?」

ナミが尋ねると、コニスが「……まぁ、"ダイアル"をご存知ないのですか?」と少し驚きの混じった声で言った。

"ダイアル"とは空島に存在する特殊な貝で、ウェイバーは"風貝(ブレスダイアル)"という、風を蓄えることのできる特殊な装置を動力として動いているらしい。

この"貝(ダイアル)"と呼ばれる貝は空の生活とは切り離せないものらしく、他にも色々あるようだが…

「詳しいお話はお家でいたしましょう。ちょうど今、漁に出ていたのですが"白々海"きっての美味中の美味!!"スカイロブスター"が捕れましてね。"空の幸"をごちそうしましょう」
「いいのか!?行く行く!!」
「空島料理か、おれも手伝わせてくれ!!」

コニス父…もとい、パガヤさんからのお誘いにルフィはもちろん、サンジも二つ返事でのったところで

『ねぇねぇ!!その前に、ちょっとこれ乗ってみてもいいかな!?』

好奇心旺盛なまなが、ウェイバーを指して期待に満ちた目でパガヤに尋ねると、パガヤは優しい笑みを浮かべて頷いた。

「ええ、どうぞ」
「あっ、まなずりぃぞ!!おれも乗る!!」

ということで、本来は一人乗り用のウェイバーに2人で乗ることに。

どっちが運転するかで少々モメたが、平等なるジャンケンの結果──まなが運転、ルフィが後ろとなった。

「おい、まな!!次はこーたいだからな!!」
『わかってるよ!今、確認してるんだから話しかけないで!!……えーっと…アクセル?これ?踏めばいいんだね、これを…』

ブツブツと呟きながら、まなが恐る恐るとアクセルに足をかけると、ボンッ!!という音と共にウェイバーが急発進した。

『うぅわわああぁぁぁ…!!』
「おお!!走ったぞ!!」
「わあ、やったぁ!」

チョッパーの歓声を背に雲の海を走り出したまなのウェイバー。
だが、残念ながらまったくの素人である彼女がすぐに乗りこなせるほどウェイバーは簡単な代物ではないらしく…

『…大丈夫かな』
『…絶対コケる』

猛スピードで雲の海の上を走るまなとルフィを、あやかとゆうなが不安そうに見つめていると…予想通り、すぐさま激しい蛇行運転になったかと思えば、数秒と立たないうちに2人はウェイバーからはじかれて空の海へと落ちることとなってしまった。

「こけた」
「この上ない大転倒だな」

淡々と呟くウソップとゾロ。

予想を裏切らない結果にやれやれと息を吐きながらも、とりあえずルフィとまなを助けに雲の海に潜ろうとしたゾロだったが──

「……そういえば、能力者にこの海はどうなんだろう…」というゆうなの言葉と、
「そうか、普通の海とは違うからなァ。もしかして浮くかもしれねェ」
というサンジの言葉に「確かにな」と頷いて、彼らと同じく海に落とされたルフィとまなの動向をしばらく見つめてみる。

──が、

「……あぶ」

やはり、見た目は雲でも海は海らしい。

「沈んだ」
『ダメか』

ゆうな達の淡い期待も虚しく、雲の海へと沈んでいったルフィはその後すぐにゾロによって無事に救出され、何故か同じように溺れていたまなもサンジが引き上げてくれた。

『まな、しっかり!!』
『…何で、あんたまで溺れてんの;』
『空島コワイ…空島コワイ…』

呪文のように呟くまなの傍らで、
「初心者にアレをお貸ししてすいません!!」と、パガヤが慌てふためく。

どうやらウェイバーを乗りこなすには、波を予測できるくらい海を知っていて…なおかつ、10年ほど訓練しないといけないらしい。

そんなに根気が必要な乗り物ならまなが乗りこなせないのは当然だが、次の瞬間「お──い!!」と聞こえてきた声に、顔を海へと向けたまなは目が飛び出さんばかりに驚愕した。

『Σ乗っとる!!!』

まなの視線の先──そこには、ナミが自在にウェイバーを操る姿があった。

「何と…!!すごいですね、信じられません!!」
『Σ何で乗れるの!?』
「確かにコツが要るわね、これは。デリケートであんたにはムリよ、まな!!」
『!! むぅ…』
『ヨシヨシ』
『波を予測…か…』

面白くなさそうに膨れっ面をするまなをあやかが慰めるその隣で、ゆうなが何やら思案するように呟いた。

『……』
(波の予測はできないけど…)

能力で海を操れる私なら…もしかしたら乗りこなせるかもしれない。

そろそろパガヤさん家に行くと言うルフィに対し、「もう少し遊ぶから先に行ってて」と、よほどウェイバーを気に入ったらしいナミを残して、ひとまず先にパガヤ家へと向かい始めた仲間達。

ゆうなは、そんな彼らに自分も残るから先に行っといて欲しいと一言声を掛けると、海で楽しそうにウェイバーを操船するナミに向かって叫んだ。

「ナミ!!ちょっと交代!!」





 
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