君といた軌跡T

□episode 14
1ページ/4ページ


***


【アルバーナ南東ゲート】


「イッキシッ!」

短足犬がくしゃみをすると、その口から野球ボールが吐き出され、弾丸のように打ち出された。

すると地面の穴からひょっこり出てきたデブのバッターMr.4が、金属バットをフルスイング。
キィンと甲高い音を上げてライナー性のボールがウソップの頭上を掠めた。

「!」
『遠くへ逃げなきゃダメだよ、ウソップ!!』

ボォン!!

爆発。

「ガヘ…!!ゲホ…」
「『ウソップ!!』」

慌ててウソップの元へ駆け寄った二人は、黒焦げになった彼の体を支えた。

ボールはルール無用の時限爆弾式ボールだった。
直撃を免れているものの、つい数分前に加勢に来たばかりのウソップはすでに傷だらけ。
アルバーナ郊外の荒地で、ウソップとチョッパーとまなはMr.4とミス・メリークリスマスのペアに襲われていた。

あらかじめ用意していたお揃いの民族衣装を着て、三手に分かれてバロックワークスを攪乱する作戦は見事に的中した。
別行動のビビとカルーを反乱軍のもとに走らせるために。

あとは各個撃破──するか、されるかの生き残り戦だった。

「オイ!!Mr.4!!Mr.4!!」
『出た!!モグラ人間!!!』
「ぎゃああああ!!モグラだ!!!(汗)」
「まだ変身してねーよ!!"バッ"!!この"バッ"!!!」

まなが言う通り、ミス・メリークリスマスは動物(ゾオン)系の『モグモグの実』を食べたモグラ人間。
そのペアであるMr.4は四トンのバットを振り回すホームランバッター。
そして彼のペットのラッスーは、口から時速二百キロのボールを撃ち出す豪腕ピッチャーだ。
ミス・メリークリスマスが言うには、ラッスーは『イヌイヌの実』を食べた"銃"らしい。

「『銃!!?』」
「"偉大なる航路"の新技術さ!!物でも悪魔の実は食えるんだ」
「バカ言えっ!!!元が銃なら何で動いてんだ!?"悪魔の実"に意志があるわけねェだろう!!」
「うっせーな!!これから死ぬおめェがそんなこと知ってどうなるってんだ!!そうだろ、Mr.4!!!」
「う〜〜〜ん〜〜〜〜〜〜」
「いいかい、おめーらもうこの場から逃げられやしねーんだ!!アタシらの縄張(テリトリー)に入っちまったんだからね!!!」

ミス・メリークリスマスのその台詞に、途端に戦意を失ったのか…ウソップがガクッと体を横たえた。

「チョッパー…まな…後は任せる…おれの死体は海へ流してくれないか…」
「加勢しに来たって言ったばかりだぞ!!?(汗)」
『Σちょっとは戦えよっ!!──って、ツッコんじゃったじゃん!!あたしボケ担当なのにっ!!』
「知らねェよっ!!だいたいな!!あんなわけわかんねぇ謎の生命体達と戦えるかァ!!おれァは人間なんだよ!!わかるか!!?」
「おれだって人間だ!!」
「バカ、おめェは化け物さ」
「お前だって鼻長いじゃんか!!」
『どっちもどっちだよ!!!』
「「バカは黙ってろ!!」」
『Σえぇ〜〜っ!?』
「アタシらを無視すんじゃねェよっ!!(怒)」
「『あ、忘れてた』」
「この"バッ"!!(怒)」

自分達を無視して言い合いを始めるウソップ達に痺れを切らしたミス・メリークリスマスは話に割って入るとモグラ人間へと姿を変え始めた。

「楽しんでいきな、縄張の名は"モグラ塚4番街"」











一方、アルバーナ南区ポルカ通り。
Mr.2と対峙していたサンジとゆうなは危機にあった。

「がっはっはは!!口程にもナ〜〜イっていうのは、まさにア〜ンタねい」
『サンジっ!!』

地面にひれ伏すサンジの頭をぐりぐりと踏み潰し高笑いをするMr.2。

麦わら一味の三強であるサンジが、こうも苦戦しているのには理由がある。
Mr.2は今、顔も声も身体も…サンジ愛しのゆうなに変身していた。
女に決して手を出さないサンジは当然やられるがまま。
ゆうなはといえば、別にMr.2が自分の容姿をしていようと構わず攻撃できるのだが、攻撃しようとすればサンジに全力で止められる為すっかり困り果てていた。

「コノ……オカマ野郎が…!!」

このまま黙ってやられる、おれだと思うな…!!
いくら外見がゆうなちゃんに似ていようとも中身はただのオカマ!!!

「調子にのんじゃ──」

サンジは自分の頭を踏みつけるMr.2の足を押しのけると、Mr.2を睨みつけた。

「ねェぞォ♡」

ところが、やっぱりサンジはゆうなに変身したMr.2を見ると途端に瞳にハートマークに浮かべてしまうのだ。

「畜生!!ニセ者でもかわいい!!!(涙)」
『…バカなの?』
「がははは!!」

サンジの反応は嬉しいけれど、所詮あいつは偽物の私。
本物がここにいるのに偽物相手に何をそこまでデレデレしているのかと少し腹も立ってくる。

これじゃ埒があかない…

この状況をどうにか打破する為には奴の弱点を──

「ア〜〜ンタ達と遊んでると面白いけど…グズグズもしてらんナイのよね〜い。さっさと片付けさせて貰うわよ──う!!?」
『…!!』

その時、爪先立ちで回転し始めたMr.2を見つめていたゆうなは"あること"に気づいた。

『まさか…』

呟くように声を漏らしたゆうなは、Mr.2が自らを殺人回転ゴマと化してサンジに突っ込んでいった瞬間、球状に圧縮した空気をMr.2にぶつけた。

『圧縮空気弾(エアー・ブリット)!!!』
「っぎゃああ!!!」

乱回転する空気弾を身体に叩き込まれたMr.2は、螺旋状の傷を負いながら高速でふっ飛び、建物の2階の壁をぶち破る。

『…見切った。"マネマネの実"…』
「何を〜〜オウ!!?ナマイキなァ!!!ア〜〜ンタごときがあちしの能力の何を見切ったってぇ!!?」

1階の扉を開けて現れたMr.2は怒り心頭。
その身体はボロボロだった。

『…あんた、私の体のままじゃオカマ拳法使えないんでしょ』
「…!!」
『あんたがサンジに仕掛ける瞬間…あんたは必ずオカマに戻る』

ゆうなの言葉に、挙動不審になったMr.2はくるっと背中を向けた。

「え──??なにぜんぜん聞こえな──い」
『…図星か』

ゆうなは核心をついたのだった。
さっきの回転ゴマの技に入る直前、Mr.2は左手で自分の頬に触ってゆうなからオカマに戻っていた。

「だから何だっツ──ノようっ!!!」

逆ギレしたMr.2は、衣装の両肩から白鳥の首を象った飾りを外すと、アタッチメントのように爪先にそれを装着した。

『!!』
「これだけは言わして貰うけど、あんた達から見て右がオスで左がメスよう!!」
『死ぬほどどうでもいい』

あまりにくだらない報告にゆうながイラッとして言葉を返す。

「がっはっは!!まァいいわっ!!くらってみなサ〜〜イ!!!オカマ拳法"爆撃白鳥(ボンバルディエ)"!!!」
『…っ!?』
「ゆうなちゃん!!」

思いがけない遠距離からの前蹴りをくらったゆうなは反射的にのけぞった。

「が〜っはっは!!正解よ〜う!!避けて正解!!!」
「ゆうなちゃん、額から血が…!!」
『平気…ちょっとかすっただけ…』

──それにしても、

背後の壁に開けられたライフル弾で穿たれたような穴にゆうなが驚きを隠せないでいると、隣にいたサンジがゆうなの気持ちを代弁するように口を開いた。

「蹴りの跡が…?ヒビ1つ入ってねェ……!!」
「一点に凝縮された本物のパワーってヤツはムダな破壊をしないものよう!?あちしの蹴り一発がライフルの一発だと思えばいいわ」

舞台で躍動する至高の力。
尖端の嘴に鋼を仕込んだ、白鳥の長い首はしなる。
蹴りのリーチを倍にする雌雄の白鳥で…

「風穴開けたるわァ!!!」
『うっ…!?』

Mr.2が放った蹴りを##NAME2#は咄嗟に左腕で受けるも、爪先のスワンパーツが鞭のようにしなって横からゆうなのこめかみを叩いた。

『……っ!!』
「ゆうなちゃん!!」
『……』

打ちどころが悪かったのか、地面に横たえるゆうなの体をゆすっても反応が返ってこない。
どうやら意識を失ってしまっているらしい。

「てめェ…」

大切な女性を、自らの目の前で傷つけられたことにサンジは燃え上がるような怒りを覚える。

ぜってー許さねェ…!!

サンジは憤然とした面持ちで、「1(アン)!!2(ドウ)!!」と戦い踊るMr.2を睨みつけた。

皮肉なことに、ゆうなのおかげでオカマを倒す方法もわかった。
奴の変幻自在の蹴りにまともなガードは通用しない。
だから──

「"腰肉(ロンジュ)"!!」
「ぶぶェ!!」

だから、サンジは受けを捨てた。
腰骨の辺りを蹴られたMr.2は、たたらを踏んでたじろいだ。

「"後バラ肉(タンドロン)"!!」
「どりゃア!!!」

体勢を整える暇もなく、次いで襲ってくるサンジの足技にMr.2も応戦する。

肉を。骨を。
コックとバレリーナは意地をぶつけ削りあう。
衝撃で空気が鳴る。
飛び散るのは汗と血と激闘のリズム。

もつれ合いながら、サンジとMr.2はいったん大きく間合いをとった。
そして、

「"仔牛肉(ヴォー)ショット"!!!」
「"爆弾白鳥(ボンバルディエ)アラベスク"!!!」

終焉(フィナーレ)。
宙を舞った2人は、決着の技を天に放った。

ドガゴォン…!!!

2つの力が衝突する。
十字に蹴り脚を交錯させた2人は、すれ違い着地した。

「……ぐっ」

胸を押さえ、ポルカ通りの戦舞台に膝を落としたのはサンジ。
全身に蓄積したダメージについに耐えきれなくなり、くたりと力が抜けたように落ちた。

「ア……ア……ギャァアアアアアアアアアっ!!!」

そしてMr.2は、そのまま膝をつくことさえ許されず吹き飛ばされた。

壁を破って、瓦礫に埋もれたオカマのバレリーナはもう舞うことはない。

「また骨を…何本かイッたな、こりゃ」

苦痛に眉をしかめながら、左手でネクタイをゆるめ、右手でポケットを探る。
汚れたフィルターをくわえて優雅に一服をついたサンジは、未だ目覚めぬゆうなを姫抱きすると舞台の袖に消えるようにその場を立ち去った。



ポルカ通りの戦い。

    Mr.2
    vs
 サンジ・ゆうな


勝者───

サンジ・ゆうな。


 


 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ