君といた軌跡T

□episode 8
2ページ/4ページ





「いら゙っ…!ゴホン!!マーマーマーマーマ〜〜〜♪いっしゃい、私の名はイガラッポイ。ウイスキーピークの町長を務めております」

島に上陸すると、ウィスキーピーク町長のイガラッポイという男が出迎えてくれた。
なんとも特徴的な髪型をしたその人に目を奪われたルフィが、開口一番に「おっさん髪巻きすぎ」と突っ込んでいるが…正直そんなこたァどうでもいい。

気にするべきなのは海賊を歓迎するという住民達。
それがこの島の特色と言われれば、そこまでだが…どう考えても何かある。怪しすぎる。
当然、こいつらも勘づいてるはず…
そう思ってルフィたちを振り返ると

「「喜んでー!!」」
「……」

…バカなのか?

まぁ…百歩譲って、ルフィやまなはわかる。
あいつらは人を疑うことを知らねェ。
だがよ、

「このキャプテン・ウソップ様の武勇伝をたっぷり聞かせてやろう!!」
「きれいなお姉さま方〜♡」

お前らはこっち側じゃねェのか?
すっかりウキウキ気分で歓迎場となっているらしい酒場へと入っていく4バカにゾロが呆れた視線を送っていると、
町の男が「さぁ、あなた達も…」と言って、あやかの肩を抱いて歩き出した。

「……」
(…おい、)

何なんだ、あの野郎は。

自分以外の…しかも、誰とも知れねェ野郎があやかに触れているというのは凄まじく不快で。
ゾロはその腕を強引に引き剥がすと、男を睨み付けた。

「馴れ馴れしくこいつに触るな」
「え…あっ…す、すみません!!(汗)」

ゾロの射抜くような鋭い視線に怯えたのか、脱兎のごとく逃げて行く男。
その背を見送ったあやかが目を丸くしてゾロを見上げると、ゾロが「何だよ?」と少し不機嫌な様子のまま視線をあやかに移した。

『ちょっと…ビックリした…』
「あ?」
『ゾロにも独占欲?っていうか…そういうの、あったんだなと思って』 
「そりゃ、あるだろ」

あやかに対しては。

…今まではあやかの"仲間"でしかなかったから、こんな風に堂々と「触るな」と言えなかっただけだ。
その分、それとなく他の男クルーと関わる機会を減らして自分の傍にばかり置いたりもしていたが。

「…おれは、お前を誰にも譲る気はねェし
触らせる気もねェ」
『!』
「お前が思ってる以上に、おれは独占欲強ェから覚悟しとけよ?」

そう言って、彼特有のニヤリとした笑みを浮かべるゾロにあやかの顔がみるみる紅潮していく。

あの、無愛想なゾロの口からまさかこんな嬉しい言葉が聞けるとは思わなくて。
嬉しさとか、恥ずかしさとか、驚きとか…
とにかく色んな感情が混ざり合って、私は「…う、うん//」と頷くことしかできなかった。
しかも、ちょっとどもったし。

──その時、

「おーい、お前らも早く来いよ!!」

タイミングを見計らっていたかのように
先に会場に入ったルフィが酒場の入り口で私とゾロに向かって手招きをする。
ゾロは「ああ…」と返事をすると、口元に微笑みを滲ませて私の手をぎゅっと握った。

「行くか」











月が出た──…。

ウィスキーピークの歓迎の宴は、まだまだ続いていた。
豪華な料理にたくさんのお酒、それに美男美女が場を盛り上げてくれる。

「そこで、おれはクールにこう言ったんだ。『海王類どもめ、おれの仲間達に手を出すな!!!』」
「きゃー!かっこいい!!」

ウソップは酒を片手に今までの冒険話で島民と盛り上がっており、

「おかわり〜〜〜!!」
『あたしも〜〜!!』
「船長さんがメシ20杯たいらげたぁ!!(汗)」
「姉ちゃんも、これで16杯目だぞ!!(汗)」

ルフィとまなはひたすら飯をたいらげ、

「うおおっ!!こっちのにーちゃんは20人の娘を一斉に口説こうとしてるぞ!!」
『……』
(…なんだ、あのデレデレ顔は…)

サンジは女に囲まれ、ウハウハ状態。
──そして、

「おりゃー!!」
「うっぷ!!」
「ま゙いった」
「キャー!!ゾロさん、良い飲みっぷり!!素敵ー♡」
「今度は私に注がせてー!!」
『……』
(…ゾロも、キレイな人達に囲まれてるし…)

お酒を飲みながら、時折女の人と言葉を交わしているゾロ。
当然、その様子を見ているあやかはいい気がしない。
さっきゾロが、自分は独占欲強いと言ってたけど…私だって独占欲は強い方だ。
今だって本当はあのお姉さん達を蹴散らして「ゾロに触らないで!!」って言いたい。
けど──

「何見てるの?」

何故か、それぞれ気になる男たちの様子を見つめていた私とゆうなの周りにも島の男たちが集まっていた。

(おかげで身動き取れない…)

「そばにおれ達がいるのに、他の男のことを気にしてるなんて許せないなぁ」
『…別に気にしてなんかない』
「…おれ達、今晩はずーっと君達の物でいいんだからね」
『は、はぁ…;』

別に望んでないのだが。

「だから、ほら!!もっと盛り上がろうよ。ね?」
「そうだ!!このお酒すごく美味しいから一緒に乾杯しようよ」
『『……』』

差し出されたグラスを前に、私とゆうなは互いに顔を見合わせた。

『まぁ…』

ここでずっとサンジを気にしてたって、サンジは私なんて眼中にもないし。

『少しだけなら…』

ゾロばっかり楽しんで、私だけモヤモヤした気分でいるのも嫌だし。

((こうなりゃヤケだ…!!))

『『かんぱーい!!』』

女に囲まれるゾロやサンジにイライラしていたこともあり、私とゆうなもグラスについでもらったお酒を勢いよく飲み干す。
すると、当然「ほら、もう一杯どうぞ」となるわけで。
次々とお酒を飲み干す周りの人達につられて私達も飲み続けた結果──

『う〜ん…』
『お兄さーん、こっちのお酒も一緒に乾杯しよー♪』

完全に酔っ払った私は隣にいた男性の肩にコテッと凭れかかり、ほろ酔いのゆうなもいつものクールさがなくなって私の隣で男性達と楽しそうに話している。
──と、

「おい」

不意に頭上から聞きなれた声がして、見知らぬ男性の肩に凭れていた私が覚束ない身のこなしでゆっくり頭を上げると、ゾロが私の目の前で仁王立ちしていた。
…隣には、何故かサンジ君の姿も。

「ずいぶん酔っ払ってるみてェだな」

サンジの登場に目を丸くさせているゆうなの隣で、あやかは少し怒気を含んだ口調のゾロをトロンとした目で見つめた。

『ふふっ、飲み過ぎちゃったぁ〜』
「男に囲まれて調子に乗ったか?」
『それはゾロでしょ〜?』
「…あ?」
『キレーな女の人達にいっっぱい!!囲まれて…嬉しそうにしてた…』

俯き加減に視線を逸らして、少しだけ拗ねるように口を尖らせる。

(ああ…バカだなぁ、私)

ゾロは何にも悪くないのに。
ゾロはただ、大好きなお酒を楽しんでただけなのに。
勝手にヤキモチ妬いて、ヤケになってお酒を飲んだ挙げ句、本人に八つ当たりって…最悪だ。

「…なんだ」
『?』
「お前、女に囲まれてるおれに妬いてたのか」

ゾロの問いかけにあやかはチラリと視線だけを上げると、少し間をあけてからコクリと小さく頷いた。

そうと分かればゾロの怒りは当然和らぎ、
逆に目の前で申し訳なさそうに目を伏せているあやかが無性に可愛く思えてしまう。
ゾロは今すぐにでも抱きしめてやりたい衝動を抑えて、あやかの頭をガシガシっと少し乱暴に撫でた。

「…だからってヤケ酒はするな」
『ん…』
「ほら、部屋に戻るぞ」
『はぁい…』
「ったく、歩けもしねぇのか…」

私の腕をとったゾロが、そのまま私を酒場から連れ出す…。
その場には、サンジとゆうなだけが残された。

『えっと…、どう…したんだ?』

ゾロはわかるけど、何でサンジまで…
予想外の展開すぎてほろ酔いだった気分もすっかり醒めてしまった。

「あ…いや…」

サンジもサンジで、ここに来てしまったことを少し後悔していた。
ゆうなちゃんが他の男と…しかも酔っているとはいえ、あんなに仲良さそうに話しているところを見て、たくさんのレディ達を放ったらかしてまで駆けつけたのはいいが、

(よくよく考えりゃ…)

昼間の事故(キス)の一件から気まずいままだったことを忘れていた。

『……』
「……」

互いに何を話していいのかわからず、
視線を逸したまま沈黙が続く。

(たぶん…)

昼間のこと…気にしてるんだろうな。
かくいう私も、全く気にしてない…なんて言ったら嘘になるけど。
あれは単なる事故。
そう割り切るしかない。

『…あのさ』

このまま沈黙が続くのも嫌だし、
サンジと気まずいままなのはもっと嫌だから…
思い切って話を切り出すと、サンジの肩が僅かに揺れた気がした。

『昼間のことなら…私、気にしてないから』
「え…」
『あれは…単なる事故だから…
 初めてなら、まぁ…多少は気にしてただろうけど…別に初めてでもないし』
「え…!!」
『ん?』

会場いっぱいに聞こえるんじゃないかってくらい、驚いた声を上げるサンジ。
…幸い、場内は宴で盛り上がっているためほとんどの人がサンジの声には気づいていないが。

『…どうした?』
「いや…」
(初めてじゃ…ねェのか)

覚悟はしていたが、実際に本人の口から聞くと相当ダメージがでかい。

今まであまり考えた事がなかったが、自分と出会う前…こっちに来る前の、本来の世界にいた頃のゆうなちゃんの事をあまり詳しく聞いた事がない。

(……そうか)

付き合ってた奴が、いたのか…
サンジは考え出し始めると、さらに胸が痛くなりタメ息が漏れた。

『…サンジ?』
「ああ…悪い。何でもねェよ」
『……』

何でもない…って顔、してないんだけど。
自分を見つめるサンジの目が何だか切なくて、ゆうなはどうしていいか分からなくなってしまう。

「…そんな顔すんな」

隠せているつもりだったが表情(カオ)に出ていたのだろう…。
おれを見つめて困ったような表情をするゆうなちゃんに、何とか空気を変えなくてはと、サンジは近くのテーブルに置かれていたシャンパンを手にした。

「…飲もうぜ」
『…え、いいのか?あの娘たち放っておいて…』
「おれがいなくても勝手に盛り上がってるだろ」
『でも…』
「……嫌か?」
『え…』
「おれと一緒にいるの」
『! そ、そんなわけない!!』

思わず大きな声が出てしまい、ハッとしたゆうなは恥ずかしそうに口元を両手で覆った。
その仕草がまた可愛くて、サンジの胸がキュンと疼く。

(もう…)

過去の事でも、まだ関係が続いていたとしても関係ねェ…。
今、ゆうなちゃんの近くにいるのはおれだ。

「…可愛いな、ゆうなちゃんは」
『!?//』

おれが必ず…
君を振り向かせてみせる──。




  
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ