君といた軌跡T

□episode 9
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「…おい、歩きにくいんだが;」

自分の腕をがっつりと掴み、ピッタリと身を寄せて歩くあやかを一瞥してゾロが呆れた声を洩らす。

『我慢して下さい』
「…お前、何にそんな怯えてんだよ?」
『全部…!!』

生い茂る巨大な草で、昼間なのに辺りは暗くてジメジメしてて不気味だし…
何よりあの獰猛な虎を血まみれにするほどの何かがこの島にはいて…
そいつが、いつ、どこで目の前に現れるかわからないのだから警戒心なんて解けるわけがない。

「…まぁ、別に構わねぇけど…」

口ぶりは素っ気ないが、ゾロは内心ドキドキしていた。

久しぶりに過ごすあやかとふたりきりの時間…。
あやかがこんな状態では甘い雰囲気にはなりそうもないが、こうしてくっついているだけでも嬉しくて。
あやかにバレないように、ゾロが緩みそうになる顔を懸命に堪えていたその時だ。

前方からガサガサッと何かが近づいてくる音が聞こえ、あやかが「きゃっ!」と声を上げてゾロの腕により一層しがみついた。

──くそっ…かわいいな。

涙目になって明らかに怯えるあやかの姿にだらしなく緩みそうなる頬をグッと引き締めてゾロが音の聞こえた茂みの方を確認すると、3本の大きな角を持った巨大な生物がじっとこちらの様子を伺うように佇んでいた。

「…なんだこりゃ、食えんのか?」
『これって…サイ?あれ、でもサイってこんなおっきかったっけ…?』

全長9メートル程のそれは、鼻に1本の鼻角と目の上に2本の上眼窩角があり、
後頭部から首の上にまで伸びたフリルに、口先は鳥のくちばしのように尖っている。

(まさか…)

まさかとは思うけど──

『恐…竜…?』
「あ?」

途端、恐怖に青ざめ手を震わせるあやか。
何でこの時代に恐竜が…とか、いろいろ疑問に思うことはあるけどそんなことよりも!!!
こいつがいるということは間違いなく…

(最恐肉食恐竜、ティラノサウルスがいるはず…!!!)

そりゃ密林の王者が血まみれになるわけだよ!!と、納得したあやかは
「ははっ…」と魂の抜けた表情で乾いた笑いを漏らした後、ガクッと頭を垂れて顔を両手で覆い、シクシクと静かに泣いた。

(リアル、ジュラ○ックパーク…!!!)

絶望に打ちひしがれるあやか。
こんなことなら、某映画を見て恐竜に襲われた時の対処法を学んでおけばよかった………

『──って、こんな状況想定外すぎるよ!!』
「…お前さっきからどうした?;」

あまりの恐怖に、ついに壊れたか?と本気で心配になるゾロ。
こんなに取り乱すあやかは滅多に見れないし、面白いから敢えて教えはしないが…さっきから心ん中で思っていることが全部ダダ漏れである。

このままあやかの百面相を見ているのも悪くはないが、せっかく獲物が目の前にいるのだ。
ここは狩っておくべき。

「あやか、下がってろ」
『…え?』
「狩る」

そう言ってゾロが刀を抜いてから恐竜を狩るまでのスピードは、本当に一瞬だった。
目の前の巨体がドサリと大きな音を立てて倒れる。

「…よし」
『いやいやいや、』

「よし」じゃないし。
なんなの、本当…。
何あっさりと一狩りいっちゃってんの。

(何か、もう…)

あまりにもあっさりゾロが狩っちゃうから、さっきまで恐かったのに拍子抜けしちゃって逆に可笑しくなってきた。

『ゾロ、頼もしすぎ…!!』
「あ?」

込み上げる笑いを堪えるように口元に手をあて、肩を震わせるあやかを怪訝な表情で見つめると、視線に気づいたあやかが目尻に溜まった涙を拭い、柔らかい眼差しでおれを見上げてきた。

『ゾロが一緒なら大丈夫だね』
「……!」

不意に向けられた可愛らしい笑顔に思わず胸がドキリと高鳴る。

一瞬、抱き締めたい衝動に駆られたゾロだが、伸ばしかけた手を固く握りしめると、安心が顔に笑みとなって浮かんでいるあやかの両頬をムニッと摘まんだ。

『…へ、はひ?(…え、何?)』
「…なんとなく」

自分だけドキドキさせらているのが癪だったのと、単なる照れ隠し。

特に抵抗もしてこないので柔らかなあやかの頬の感触を堪能していたゾロだが、触れているうちにだんだん欲が出てきたのか…
ゾロは触れていた手でそのまま撫でるようにしてあやかの頬を包み込むと、ちゅっと触れるだけのキスを唇に落とした。

『!?//』
「(不意討ちの)仕返しだ」
『なっ…』
(何の!?)

顔を真っ赤にしたあやかが、驚きと戸惑いの表情で口をパクパクさせている。
その様子があまりにも可愛いくて、ゾロはこみ上げてくる笑いをどうしても抑えられず、口の上に拳を作り、我慢しきれず吹き出してしまった。

「お前…金魚みてー…ックク…」
『!? …そーいうこと言う?こっちはドキドキしたのに…』

僅かに赤らんだ顔のまま、恥ずかしそうに怒るあやか。
そんな彼女にもの凄く愛おしさを感じたゾロは、あやかの左腕を掴んで自分の胸に引き寄せた。

『! …ど…うしたの?』
「別にどうもしねェよ……嫌か?」

そう尋ねると、背中に回されたあやかの腕にグッと力が入った。

『…嫌なわけない……言ったでしょ?』
「?」
『ゾロにぎゅってされるの好きって…』

少し照れ臭そうな表情で見上げてくるあやかにゾロの胸がキュンと疼く。
なんだって、こいつはこう…
毎回おれのツボをついてくるのか。

「…そういうこと言われると離したくなくなるんだが」
『うん…… っ!?』

「離さないで」。
そう告げようした瞬間、ゾロの肩越しに、少し離れた木の前に佇むナミの姿を見つけたあやかは勢いよくゾロから離れた。

「どうした?」
『あ、あそこに…ナミが…』

いつから居たのだろう…。
ふたりの世界に入っていて気付かなかったのだろうか。
何にしても一番厄介な人に見られてしまった。
ゾロも同じことを思ったのか、ひきつった顔のまま…至って普通に、何事もなかったようにナミに声を掛けた。

「…よ、よぉナミ…お前なんでこんなとこにいるんだ?」
「……」

しかし、ゾロが声を掛けても何の反応も見せないナミ。
不審に思ったゾロとあやかが恐る恐る側に歩み寄ると、その瞬間その姿が変化した。

「うわあぁぁ!!」
『きゃあああ!!』











『あ…っ!!』
「!」
「『あやか!!ゾロ!!』」
『何で、二人がここに…』

両手両足をろうで固められて連行された私たちが辿り着いた先には、本物のナミとゆうながいた。

あやか達が捕まる数分前…
船番をしていたナミ達は、些細なきっかけで巨人族のブロギーという男に出逢い、もてなしを受けていた。

そこで、この島で二人の巨人が誇りをかけて戦っていることを聞き、ウソップもゆうなもそんな彼らに脱帽し、尊敬の念を抱くことになるのだが…
そんな折、彼らの決闘の合図──真ん中山の火山の噴火。
ブロギーは決闘に向かい、ナミ達は船に戻ろうとしたのだが途中で恐竜に襲われ、一目散に逃げたウソップと離れた瞬間ゾロ達と同じ手口で捕まったらしい。

『…なるほどね』

今、ここにいるのはルフィ以外…あの時クロコダイルの話を聞いてしまった面子だ。
あやかがバロックワークスの抹殺リストに載っていた面々に納得したのもつかの間、そこから更に連れて行かれた先にはビビが捕らえられており、その目前には巨大な謎のセットが佇んでいた。

『!!』
「何なの、あれ!?」
「ようこそ、キミ達!私の"サービスセット"へ!!!」

その光景に驚く間もなく、3の数字を象った髪の男がMr.5の背後から声を高らかに上げて現れ、抵抗できぬまま、キャンドルセットにビビ、ゾロ、あやか、ゆうな、ナミの順にセットされてしまった。

『…なんだろう?上で回ってるあれ』
『こんな気分なんだろうな…ケーキにささったロウソクってのは』
「動けないし…足…」
「そりゃ動ける様にはしちゃくれねェだろうよ…なんたって敵だぜ」
「何か降って来た!!?」

あやか、ゆうな、ナミ、ゾロ、ビビが思い思いに言葉を紡ぐ中…突然、頭上で回るカボチャらしき形をしたものからろうの霧が降ってきた。
Mr.3の話によれば、この"ろうの霧"は次第に私たちを"ろう人形"に変えてしまうらしい。

「"美術"の名のもとに死んでくれたまえ!!」
「いやよ、そんなの!!何で私たちがあんたの美術作品になんなきゃいけないのよ!!!」
『……』
「…どうしたの?ゆうなさん」

Mr.3に言い返すナミの傍らで、顎に手を当てて何やら考え込む様子のゆうなにビビが尋ねると、ゆうなは「ん…」と返事をして、至極真剣な表情でビビを見た。

『死ぬのは嫌だけど、ろう人形と化した自分は見てみたい…気もする』
『あ、それちょっとわかる』
「言ってる場合かァ!!(汗)」

基本的に動じないゆうなと、変なとこで肝が据わってるあやか。
こんな状況でもマイペースな彼女達にナミは怒り、ビビは苦笑いを溢す。

…とはいえ、本当にろう人形にされるつもりはない。
固められた両足を見つめていたあやかは、加速したことで更に量を増したろうの霧を見上げて顔をしかめた。

このままじゃ体の中から"ろう人形"になるのも時間の問題。
だが、足掻こうにも手段がない。
ルフィ達が助けに来てくれるのを待つか…。
でも、それまでにろう人形と化しない確証もない。

このピンチをどう切り抜けるか思案するあやかの横で、ずっと無言で立ち尽くしていたゾロがおもむろにブロギーに視線を向けた。

「おっさん、まだ動けるだろ?」
「!」
「その両手両足ブッちぎりゃあ…死人よりは役に立つはずだ」
「!?」
「おれも動ける。足、斬り落としゃあな…一緒にこいつら潰さねェか?」
「『!!?』」

淡々と紡がれたゾロの言葉に、その場にいた全員が目を見開いて彼を見る。
…それほど、ゾロの提案は想定外の発想だった。
普通の人間ならそんな発想はしないだろうし、仮に思いついたとしても実行には移さないだろう。

「あ…足!?自分の足を!!?冗談やめてよ!!何言ってんの、こんな時に!!」
「こんな時だから言ってんだろ。お前らどうする?」
「どうするって…!!無駄よ!そんなことしてここを下りてもすぐ捕まっちゃうじゃない!!」
「そんなもんやってみねェでわかるかよ。
ここにいちゃどうせ死ぬんだ。
見苦しくあがいてみようじゃねェか……!!こんなカス相手に潔く死んでやる筋合いはねェ…そうだろう?」
「『……!!』」

迷いも恐怖心も微塵も感じさせず紡いだゾロを、ブロギーは豪快に笑い飛ばすと力強い言葉を漏らした。

「生意気な小僧だぜ…!!おれとしたことがもう『戦意』すら失っちまってたようだ…つき合うぜ、その心意気!!!」
「う…うそでしょ!?本気なの!?両足失って……どうやって戦うのよ!!!」
「さァな」
『…!』
「勝つつもりだ」

そう断言するゾロの表情には余裕すら浮かんでいる。
そんな彼を唖然と見つめていたあやか達は、何か覚悟を決めたように瞳を閉じると僅かに笑みを浮かべた。

『…足掻いてみるか』
『…何もしないよりは…ね』
「私も戦うわ!!」
「あんた達まで…!?」
「…よし、わかった」
「行くぞォ!!」
「何ができるものか、殺してやるガネ!!」
「ば……」
「『おりゃあああああ!!!』」
「『!?』」

ブロギーがナイフを外そうと手に力を込め、
ゾロが自分の足に刀を向けたその時──
盛大な爆音と共に叫び声が響き、何者かが現れた。

「お前らァ!!!ブッ飛ばしてやるからな〜〜〜〜…」

勢いよく飛び出してきた4つの影は、
そのままの勢いで敵の前を通りすぎ、密林の木々に突っ込んでいく。

「……なに!!?」

間一髪、ブロギーが両手両足を、
ゾロが両足を失う前に現れたのは──

「やるぞ、ウソップ!!まな!!鳥ィ!!!」
「『オォ!!!』」
「クエ──ッ!!」

怒り心頭のルフィ達だった。






 
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