君といた軌跡T

□episode 2
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***


ザザーッ……

『ん…』
(波の音…?)

『寒っ…私、何でこんなとこで…』

聞こえてくる波の音と微かな潮の匂い…。
夢から覚めた私が寝ぼけ眼のまま横たえていた体を起こすと、背後から「…よう」と低い声が聞こえてきた。

『!?』

振り返った私の視界に飛び込んできたのは、物凄く不機嫌そうなゾロの顔。

『っ、ゾロ…!?』

一瞬、驚いたものの…
私はすぐに昨晩の出来事を思い出した。

(そうだ…昨日の夜、泣き疲れてそのまま…)

思いがけず優しいゾロにすっかり甘えて、彼の胸の中で眠ってしまったこと。
思い返すと恥ずかしくなり、同時に物凄く申し訳なくなった。

『…ご迷惑をおかけしまして…;』
「ほんとにな」
『う…っ』
「おかげで見張りも──」
『ん?』
「いや…何でもねェ…」

昨日の自分の行動が頭を過り、ゾロは言葉を濁した。
ろくに見張りができなかったのは自業自得だ。
こいつに膝枕をしたことで妙に緊張しちまったおれは、昨晩まったく見張りに集中ができなかった。

言葉を詰まらせたおれを見て、あやかが何かブツブツ言いながら百面相してやがる。
自分が何かしたと思ってんだろうな…
しかめっ面したり、顔面蒼白させたり…かと思えば赤くなったり…コロコロ変わる表情を見てると飽きねェし、なんか…

「……可愛いな(ボソッ」
『え?』
「!? な、何でもねェ…」

自然と口から出た言葉に自分が驚いた。
…だが、本心だった。
おれはこいつを見て素直に「可愛い」と思ってしまった。

(何なんだ、おれ…)

初めて沸き上がった感情にゾロは戸惑いを隠せない。
──と、その時

『あやか!?』

バタンッ!と女部屋の扉が開いて、慌てた様子のゆうなが中から出てきた。
その声に、キッチンで朝食の準備をしていたサンジも、男部屋で寝ていたルフィとウソップも、同室のナミとまなも寝ぼけ眼のまま何事かとぞろぞろと甲板に集まる。

「なぁに?朝から騒がしいわね…」
『ナミ…!!あやかが部屋にいないんだ!!』
『…先に起きてるだけじゃないのぉ〜?』
「キッチンには?」
「いいや、来てねェ」
「朝風呂かトイレじゃねェのか?」
『あ──』
「…待て」
『!!』

何やらゆうながすごく心配をしているようなので、「私ならここに…」と見張り台から顔を覗かせようとすると、後ろからゾロに腕を引っ張られた。

『何…?』
「今、二人で出ると面倒だ」
『うっ…』
(確かに…)

二人で一夜を明かしました…なんて事がバレたら変な誤解を生みそうだ。

(騒ぎが収まってから、あとでゾロと別々にラウンジに入ろう…)

──そう思っていたけれど。

「ゾロ、あんたあやか見てない?」

この騒ぎでゾロ一人だけ蚊帳の外というわけにもいかず、当然声を掛けられる。
不寝番をしていたゾロならあやかが部屋から出てくるのを見ているはずだと。

「………知らね」
「本当に?」
「………;」

食い気味で言葉を被せてきたナミは気づいているようだ。
気付かれているのにこれ以上誤魔化すのは苦しい…

あやかは横目で視線を送ってきたゾロに小さく頷くと、ゆっくりと見張り台から顔を覗かせた。

『あやか!!』
「…やっぱりね」
「おー、ゾロと一緒だったのか」
『仲良しさんだねー』
「あやかちゃん…!!何故マリモなんかと…!!?」

驚きと安堵の表情を浮かべるゆうな。
やれやれと息を吐くナミ。
「見つかって良かった」とニコニコ顔のルフィと、
ニヤニヤ顔のまな。
そして、何やらショックを受けている様子のサンジ。

それぞれの反応にどう対応したらいいのかあやかが困っていると、ウソップが僅かに頬を赤く染めて、わなわなと震えながら「お、お前ら…」と声を漏らした。

「ん?」
「…もう、そんな関係に…?」
「Σんなわけあるか!!(汗)」
「でも、さっきあやかのこと"知らない"って隠そうとしたわよね?」
「う"…;」

ナミの鋭い追求にさすがのゾロもたじたじな様。
何もやましい事はしていないのだが、何故かゾロが責められている感じなのがいたたまれなくて、あやかが「あの…みんな何か誤解してるけど──」と口を開いたその時だ。

「おい」
『!』
「いちいち説明しなくていい」

どこか不機嫌そうにゾロが言った。

『でも、変に誤解されるの嫌でしょう?』
「別に……勝手に誤解させとけ」
『え…』

ゾロの返事に思わず目を丸くさせるあやか。
ゾロはそんなあやかにニッと意地の悪い笑みを向けたかと思うと、「──誤解されついでだ」と言って、次の瞬間あやかを自分の方へと引き寄せてそのまま彼女の身体を軽々と持ち上げた。

『きゃっ!!え!?何!!?』
「どうせ怖くて下りられねェだろ。おれが下ろしてやる」
『い、いいよ!!自分でおりる!!(汗)』
「黙ってろ、舌噛むぞ」
『!!』

ゾロが私を抱えたまま見張り台から飛び降りる。
そして、そのままトン…と優しく甲板に降ろされたかと思うと、ゾロのところにすぐさまサンジ君がつっかかりにやって来て、私のところにはゆうなが駆け寄って来て手をギュッと握られた。

『…ゆうな?』
『…あやかだけいなくなったのかと思った…』

昨日の事があったから余計な心配をかけてしまったみたいだ。

『ゆうな…ゴメンね。昨日眠れなくて…それで』

ゾロのところに──

『別に…いたからいい』
『うん』
『もー、ゆうなは心配症だなぁ』

照れくさそうに言うゆうなと優しく微笑むあやか
…の間にまながやれやれといった感じで入ると、ゆうなが目の全く笑っていない笑顔をまなに向けた。

『まなだったら心配してない』
『Σヒドっ!!少しはあたしにもその優しさを分けてよ!!!』
『…え?』
『だから優しさを…!!』
『…え?』

二人のいつものやり取りが始まる。
その見慣れた光景が何だか嬉しくてクスクスと笑みを溢しながら見つめていると、ルフィが「よし!!」と声を上げた。

「全員揃ったみてェだからメシにしようぜ!!サンジー腹へったー!!!」
「! …おお、今日の朝メシはサンドウィッチだ」
『え!?サンドウィッチ!?やったー♡』
「サンジ君のサンドウィッチは格別なのよねー」
「おれ、卵サンドー!!」
『…ハムきゅうり』
「……」

ルフィに声を掛けらたサンジはゾロとの口論を切り上げてラウンジへと歩いて行き、みんなもワイワイと騒ぎながらそれに続いていく。

私はみんなの注意が逸れたその隙に、最後尾を歩くゾロの背中の服をくいっと引っ張って呼び止めた。

「…?」
『……』
「どうした?」

尋ねると、あやかが恥ずかしそうに視線をそらす。
だが、何か言いたそうにしている彼女は少し間を置くと、視線はそのままにゆっくりと口を開いた。

『…あ、あの…』
「?」
『…昨日はありがとう』
「!」

最後にチラッと視線をゾロに向けて、頬を僅かに染めて照れくさそうな表情をするあやかにゾロの心臓がドキッと高鳴る。

「───っ」
(まただ…)

昨日から度々ある、この胸がぎゅっとなるような感覚は何なのか…
その正体を知りたくて、ゾロは自分の心臓辺りをグッと掴んで見てみる。

その行動を不思議に思ったあやかが「ゾロ?」と首を傾げると、ゾロはパッと顔を染めて決まりの悪そうな横顔を見せた。

『どうかしたの?』
「…何でもねェ」
『?』
「早く行かねェとメシなくなるぞ」
『あ、ちょっと待ってよ…!!(汗)』






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