君といた軌跡T

□episode 3
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***


「な〜んも見えねェな」
『霧が見えるじゃん!!』

ミルクみたいな白いモヤの中で、ルフィとまながバカを言ってる声がする。

「アピス、軍艦島は本当にこの辺りなのか?」
「さぁ?」
「……っ、さぁってなぁ…お前;」
「おそらく、このあたりのはずなんだけど…」

ナミが呟く声がした。
海軍の軍艦をふりきってから数日──再び針路を東にとった〈ゴーイング・メリー号〉は、机上の計算では軍艦島の近海に達しているはずだった。
だが、この濃霧では島を見落としかねない…。

『ここまで真っ白だと、ちょっと不気味…』
「そうか?」
『ん…何か出てきそう』
『Σちょっ、やめてよあやか!そういうこと言うの(汗)』
「何だ、まな。お前幽霊とか苦手なのか?」
『大っきらい!!(汗)』
『そういうウソップは怖くないの?』
「そりゃ、もちろんキャプテン・ウソップ様に怖ェもんなんて──」
「! …おい、お前の後ろ…」
『……(ぽんっ)』
「Σぎゃあああああ!!!出た─────っ!!!!………って、ゆうなかよっ!!」
『……うるさいんだけど』
『ププーっ、ウケるー(笑)』

涙目のウソップを指してゲラゲラと笑うまなの傍らでゆうなが呆れている。

『ゾロもからかったりするんだね』
「…っ、たまたまだ」

ニッと笑い掛けてくるあやかにゾロは思わず言葉を詰まらせそうになった。
いつもと何も変わらない会話だというのにこいつがものすごく可愛く思えてしまう…
ドキドキとうるさい心臓を、ゾロが何とか落ち着けようと深く息を吐いたその時──

「おおっ、帆船だ!でっけーなぁ!!」

ルフィが声を上げた。
前方…霧のなかに黒い影が現れた。
船が進むにつれて、輪郭がしだいに露になると「お前な、デカイって言っても限度があるだろ」とサンジがたしなめた。

いくらなんでも高さ数百メートルもあるマストというのは、どんな怒級艦でもありえない。

「着いた!!」

アピスが歓声を上げた。
……そう。霧のなかに姿を現したのはまさに──帆を広げた帆船のようなシルエットの奇峰を頂く、軍艦島だった。






「ただいま、みんな!!」

軍艦島で唯一、船が接岸できる入り江に〈ゴーイング・メリー号〉を投錨させると、海賊襲来かと武器を手に港に集結していた島の男たちは、海賊旗を掲げた船から下りてきたアピスを見て、一様に戸惑った。

「アピス…?」
「お前、どうして海賊船から…?」

そこにルフィ達8人が続いて上陸すると、
途端に港にピリッと緊張がはしった。

『なんか不思議な感じだ…』
「地面が揺れてねェから?」
『! なんで分かるの?』
「船に乗って間もない人は久しぶりに陸地に下りると、みんなそう言うからな。おれもそうだったし…」
『サンジ君も?』
「ずっと地面が動いてるのが当たり前だったからな。はじめて船から下りたときは不思議な感じだったな」
『へェ〜…』

そうとも知らずに初めての上陸に心を踊らせているまなの隣で、麦わら帽子の男が何かを物色するような目付きで辺りを見回している。

金か、食料か、それとも──

「この島に肉食えるとこあるか?」
「……はィ?」

しかし、ルフィが口にしたのは予想を越えた突拍子のない質問で。
島の男たちは頭にハテナを浮かべた。

「な、何なんだ…こいつは…」
「あのね!海賊だけど、いい海賊なの!!」

アピスがルフィと島民の間に立って、これまでの事情をかいつまんで話す。
海軍に捕まり逃げ出してきた事。
海を漂流していたところをルフィ達に助けられた事…
一通り話し終えたアピスが「ねっ!」とルフィに同意を求めたその時──

「アピス!!!」

人垣の向こうから、アピスの名を呼ぶ声が上がった。
その声に気づいたアピスはパッと表情を明るくさせて、ゆっくりと杖をつきながら歩いてくる人のもとへと走り寄り抱きついた。

「ボクデンじいちゃんっ」
「ほほほ…無事で何よりじゃ」

そう言ってアピスを抱き止めたボクデンは、もう七〜八十はいってそうな白髪にヒゲの老人だ。

「紹介するね!私のおじいちゃん!!」
「アピスを助けて頂いて、礼を言いますじゃ。……いかがかな?ささやかながら歓迎の宴を開かせて頂きたいのじゃが…」
「お前ん家、焼き肉屋か?」
「焼き肉屋じゃないけど、ボクデンじいちゃんの作る豚まんはこの島で一番おいしいんだよ!」
「やったァ!行く行く、豚まん!!」
「…じゃ、行くか」

「豚まん」につられた船長によってアピスの家にお邪魔することになった一行は、アピスに連られて村外れの山裾にあるボクデンじぃの家に向かう。

長い坂を上ってようやくボクデンじぃの家に着くと、台所から食欲のそそる匂いが漂っていた。

『いい匂い…』

かまどにかけられた篭で豚まんが蒸されている。
だが、食べるにはまだ四〜五時間ほど待たないといけないらしく、すぐにも食べたかったらしいルフィとウソップとまなが「ええー!?」と声を上げてひっくり返った。

「それまでは居間でくつろいでなされ。茶の用意をしよう」

その言葉に甘え、ボクデンさんに案内された居間に着くと、ルフィ達は各々自分の場所を決めて居間の椅子や敷物の上に腰を落ち着けた。

「ねぇ、ボクデンさん」
「んん?」
「何故アピスは海軍に狙われたの?心当たりは」
「……ふむ。アピス、心当たりは?」

ボクデンがアピスに視線をやると、アピスは「全然」と首をふった。

「……本人がそう言うのでは、このじぃにも心当たりは全然じゃな」
「でも相手は海軍よ!!理由もなく子供を拐ったりはしない」
「アピスは本当に普通の娘じゃ。それにこの軍艦島には、海軍や海賊が狙うようなものは何もない。あるとすれば古い伝説くらいでのォ…」
『伝説…?』

まなが小首を傾げると、ボクデンは息をついてゆっくりと語り始めた。

この島の民が大昔、栄華を築きながら海底に沈んでしまったロストアイランドの末裔と言われていること。
そしてロストアイランドには千年竜という竜が棲んでおり、その竜の骨が〈竜骨〉といって不老不死の妙薬とされていることを。

「すっげー!てことは、絶対に負けねェっとことじゃん!すっげー!!」
「…なるほど。だが、そんな伝説じゃあ…欲ボケの海賊ならともかく、海軍が動く理由にはならねェな」
「そうだよ、そもそも何で海軍が?」
「そこんとこがよくわかんないのよねェ…」

海軍は世界政府の治安組織だ。
その存在意義は、世界会議に基づく現状の体制の維持と不満分子の掃討。
それ以外の目的で動くことは、まずないはず……
それなのになぜ海軍が、ただの島の娘を誘拐するのか。
まるで、アピスの存在には世界の治安を揺るがす秘密があるとでも言わんばかりである。

「その伝説の中に何かヒントでもあるんじゃねェのか?」
「ボクデンさん、その伝説についてもう少し詳しく教えてもらえる?」

ナミの催促にボクデンは「そうかそうか」と喜び、さらに語り始めた。
…だが数分後、ナミは自分の発言を後悔することとなる。



 
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