短編U
□助けて…
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「…じゃあ、頭に乗せる濡れた手拭い持ってきてくれる?」
(…これくらいなら出来るよね?)
不安そうに言うと幸村は顔を輝かせる。
「風邪を引いたときにやるものでござるな!?…いましがた待たれよ!」
幸村はお使いに行く子どものような笑顔で大声で言うとドタバタと出て行く。
(…せめて音量下げて大人しくできないのかな…あの子は)
時雨は頭痛が酷くなったように感じながら布団に潜った。
それから少しして、ドタバタと廊下を走る音が聞こえる。
「時雨殿!持ってきたでござる!」
幸村は勢いよく障子を開くと手拭いを時雨に渡す。
「ありが…アツッ!?」
お礼を言いながら受け取ろうとすると、予想外に熱い手拭いだった。
「何これ!?」
「…?…風邪を引いたときは温かくした方がいいと聞いた故に温かい手拭いを用意したのだが…」
キョトンとしながら言う幸村に時雨はため息をつく。
(温かくっていう意味が違う…)
「頭に乗せる手拭いは普通の井戸水でいいんだよ?」
「そ…そうでござったか…もう一度行ってくるでござる!」
幸村はショックを受けつつも手拭いを握りしめてまた部屋を出た。
(…やっぱり頼むんじゃなかったかも…)
時雨は不安にかられながらも幸村が無事に帰ってくることを祈った。