道慈 通常

□道慈 出会い
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つ…椿といいます!



へぇ、椿か。可愛い名前してんだな。まずは椿に何の仕事をさせるかだな。えーっと…うちで出来る女の商売って言ったらソープ…デリヘル…おっぱぶキャバクラ…ってお前は可愛いからAVだな。…なんだ?何か言いたげな顔してんな。話しが早すぎたか?…いいぞ、関係ない事でもいい。なんでも俺に質問してみろ。



どれも経験したことないので他のでお願いします



甘えてんじゃねぇよ…誰でも最初は初めてなんだよ…第一、ここは女向けの仕事の斡旋場だ…。ここには色んなヤツが来る、家出・暇つぶし・夢の為の資金…まぁ、ただ単に金が欲しいってやつもいるけどな。世間的には余りいい目で見られねえが、働いてる子たちも悪いやつなんていねえよ。ウチはそういった意味でもちゃんと面接をしてるからな。



それが聞けてちょっと安心した



ああ、まぁ安心しろって…ま、悪い事にはならねぇと思ってくれれば良い。客も、あんまりに態度が悪けりゃ弾いて出禁にしてっからよ。ま…表の職業に比べりゃあ、馴染めなきゃストレスになることも多いだろうが…得られる稼ぎも悪くはねぇから、トントンってところだ。



なら、張り切って稼ごう!



ああ…お前ならすげぇ稼げると思うぜ。…質問はこのくらいか?さて、それじゃ、お前がウチで上手くやっていけるかどうか、俺が見定めてやるよ。ほら、顔近くによこしな…。…ふ〜ん…悪くねぇじゃねえか…。…何より綺麗な唇だ…。



そうですか?///



ああ、そうだ。って……クックック…なんだよ、その顔はよ。…どうした?俺の顔が近くて、変な気分にでもなってきたか?…でもまぁ…こんだけ近いと…そうなるのも変な話じゃねえよなぁ…?椿ちゃんよ…?



一旦離れてもらってもいいですか?///



…ふぅ…お前っていう人間が少し見えてきた。お前、面白ぇヤツだな。気に入ったからよ…お前は俺が直々に案内してやる。いつまで座ってんだ?どうせ、この辺りの土地勘もねぇだろうからよ、誰かには案内されねぇと帰ることも出来ねぇだろうが。ほらよ…いいから着いて来い。



ありがとうございます



暇じゃねぇが…これも仕事。俺が斡旋してやるからには店で悪いようにはされねえから安心しろ。困ったことがあれば俺を頼ると良い。…ほら、俺の名刺だ。大事に取っておけよ?お前が思っている以上にその名刺には力があるからな。困ったときにはその名刺を相手に見せるんだ。



わかりました!御守りとして持っておきます!



なるほどな…そうか。ふむ…考えたんだが…やっぱお前はこういう仕事しねぇほうがいいな…ん?……あいつら…!ここは俺たちのシマだぞ!?…チッ…こんなタイミングじゃなけりゃ…ん、ああ悪い…気にすんな…えっと何だっけ?ああ、そうだ。仕事の話だったな…とりあえず、今日は帰って考え直してこい。それでも、働きてぇとか何かあれば名刺に書いてあるとこに連絡してこい。いいな?



は…はい…でも大丈夫ですか?



――ああ、それと、ここら辺は、カタギが迷い込んでも手を出さねぇよう統治されてるんだがよ…治安が悪ぃとこもあるからな。真っ直ぐ帰るんだぞ?それじゃあな…。…チッ…(さっきの華獣組のヤツだった…どうしてこっちのシマに来てやがったんだ…なんか悪い予感がすんな…。…少しガサるか…)



わかりました!まっすぐ帰ります!



ん?あそこにいるのは…椿…か?おい…、俺の忠告…理解してなかったのか?今ここら辺は怪しい連中が動き回ってんだ…今ここら辺には近づかない方が身のためだぞ?悪いことは言わねえ、何か用があるならまた後日だ…回れ右して帰りな?つっても、ここから一人ってのも危険だな、街の出口まで送ってやる。――ついてこい。


ありがとうございます



道が分からないんだったら最初からそう言え。…礼はいい。お前はまだカタギの人間だ…コッチ側じゃねぇ。意味もなく裏に片足突っ込む理由なんざねぇ…そうだよな?細かい話は省くが…そうだな、例えるなら、お前の家の近所を見知らぬヤツが刃物持ってウロウロしてたとする…お前は少なからず危険を感じるだろ?――今、ここにはそういうヤツがいたって思っとけ。分かったな…?



わ…わかりました



おう、頭のいい子だ…ナデナデ…。まぁ、パッと見分けはつかねえから注意しようもねぇと思うがソイツらには近づかないのが……おいっ!椿ちょっとこっち来い!…シッ…動くな…もっと…俺のそばに来い…(小声で言うぞ?…お前…狙われてるよ?いいから…黙って俺のそばにいろ)



何で狙われてるんですか!?



ヤツらと目を合わせるなっ!…ギュッ(椿の頭を抱き寄せる)お前の顔は見られない方がいい。俺と一緒にいた所を見られるとお前まで狙われちまうかもしれねぇからな………行ったようだな…。ん…?お前、何で顔が赤いんだ?



その…抱き締められたから…ドキドキしました///



ふ、可愛い反応してんじゃねえよ。ったく…、お前と居ると緊迫した状況なのに気が緩んじまって調子狂うわ。ま、とりあえずここまでで大丈夫だろ。ここを真っ直ぐ行ってあのゲートを出たら華獣組のヤツらも手は出せねえはずだ。今度、俺から連絡してやるからいい子で待ってろ?



ここまで送ってくれてありがとうございます!連絡待ってます!



連絡か分かった。ああ、分かったから早くいけ。――…椿のやつ…ああいう奴は俺みたいなやつと関わらない方が…ブォーン!!キキィー!!…なっ!?椿!!!…バタンッ…(突如現れた車が椿を連れ去っていく)…っく!…手紙が置き捨てられてる?……華獣組っ!……【車内】「女は預かった。返して欲しければ、指定の場所に一人で来い」…くっ!俺が付いていながら…!――



何事!?



――町外れの廃工場か…荒事には持ってこい、ってところか。…ガラガラ…おい…女は無事なんだろうな?お前らの手紙にあった通り一人で来てやったぞ…?「本当に女一人で釣られるたぁなぁ…。ほら、椿…とか言ったか?お優しい若頭様のご登場だ。鬼虎組も、この代になって随分と甘くなったもんだなぁ…」椿!無事か!?安心しろ…すぐ助けてやるからな…。



1人じゃ危ないですよ!



落ち着けって…俺は大丈夫だから…な?ひぃ…ふぅ…みぃ…4人だけか…?華獣組としての行動じゃねぇな?なら組の問題にもなり難い…か。――ああ、それとお前さっき、面白ぇこと言ってたなぁ…。――俺が優しい人だって…?ははっ…あはははは!お前何勘違いしてんだ?俺は泣く子も黙る鬼の八馬だぞ?お前ら全員覚悟はできてんだろうなぁ…?



…せめて邪魔にならないように逃げないと…



(――椿は人質のつもりだろうが、奴らの本懐は、俺の殺害による、鬼虎組の内部的な瓦解…。つまり、椿の殺害は奴らに何の得も無いと考えて良い。そして、組織立った動きではない以上…ふん、手柄をこいつらで占めちまおうって腹か…三下の考えそうな話だ…。)「威勢の良いこった…こっちにはテメェの女がいるんだぜ?下手に動けば命は…」――そうかよ。天下の鬼虎組が女一人に頓着すると思ったか?(銃を取り出し)パァンッ――



だから、私はあの人とは何の繋がりもないって言ったじゃないですか!?



「な!?こいつ…何の躊躇いもなく撃ちやが――っ!お前ら!怯むな!弾が入ってねぇ…威嚇だ!」――遅ぇよ…!(一瞬で間合いを詰め、拳銃のグリップで殴り倒す)「ぐあっ!」「うぐぁ!」おら!!ボサっとしてんなよ!?「ぐぅ…っ!」「がぁっ!」llll……ふぅ…ハッタリが利いて助かったぜ…華獣組も甘くなったモンだ。…椿、大丈夫だったか?怖い思いさせちまったな…。



大丈夫です…早く帰れって忠告してくれたのにごめんなさい!



よしよし…。もう安心だからな。――さあ、帰ろうぜ…もうこんな目に合うのはごめんだろ?この辺りはヤツらのシマに近い…さっきので分かったと思うけどよ…俺と一緒に歩くってのは″こういうこと“なんだよ。それによ…俺は――いや、何でもねぇ。忘れろ…。



…?…でもさっきのかっこよかったです!助けてくれてありがとうございます!



はは…素直だな…それで良い。………そんなにかっこいいか?俺の秘密…知られたら殺される…信じてないからじゃねぇ…お前を…巻き込みたくねーから言わねぇんだ…。――お前がどう思っているのかは分からねぇ…だが、いずれにせよ…これは生き死にの話に繋がっちまうんだ。――さて。この辺りまでくれば、もう安心だ。家までの道は分かるな?椿…お前はさっきのことを忘れて平和な日常に戻れ…良いな?



はいって言いたいけど、全てのことに意味はあるって信じてるから忘れることはできないと思う



はは…情が湧いちまったか?そりゃ吊橋効果ってやつだ。じゃあな。俺とお前は二度と会うことはねぇ。――もし、会うことがあるとすれば、そん時は今回みたいに逃がすことが出来るかは分からねぇ…。繋がりが濃くなればなるほど、カタギに戻るのは難しくなっちまう。顔が知れていっちまうんだ。――分かったな…?今日はゆっくり休め…じゃあな。…って、ん?あれは…。



また華獣組ですか!?



――パァンッ!!…ぐっ!?(肩に銃弾を受ける)奴らは、華獣組の…さっきの連中か…!ここまで追ってきたのか!?しっかり気絶させといたと思ったんだがな…抜かったぜ…焦らずに処分を優先するべきだったか…。――逃げて行くか…。組織とは勝手に動いた挙句、何の拾いモンも無しってぇ訳にゃいかなかったんだろうな。くそ…!――なあ、椿…。



私、どうしたらいい!?手伝えることある!?



厄介なことになっちまったかも知れねぇ。お前は俺を釣る餌に十分足る存在だと奴等には映ることになる…。そして、連中はお前の住む地域を把握した…。分かるか?連中は俺を負傷させる以上の手土産を持ち帰ったってぇこった…椿…お前っつー取引用のカードだ。――はぁ…。くそ、出血がひでぇ…。すまねぇ…ちょっとお前の家に上げてくれねぇか?



いいよ!…早く横になって止血しないと!



すまねぇな…危険に巻き込んじまって。考えがあるからよ…人のいねぇ所で話してぇ。――ふぅ…ありがとうな…。ざっと見た感じ、連中の侵入の形跡も無さそうだからよ…盗聴の可能性も一先ず無さそうだな。…っ。わりぃ…簡単で良い、止血をしてぇ…救急セットみてぇのはあるか?一応、ハンカチで無理やり止めといたがよ…限界がある…。



ここにありますよ!止血の方法なら知ってるからやらせて!



ありがとよ…助けられちまったな。はぁ…くっ…。痛むが…見た目より傷は浅いみてぇだ。出血量からして動脈をやられたんだろうな…早めに処置出来て助かったぜ。ここまで来りゃあ、完全にカタギの世界だしな…これ以上、奴等が手を出すことも出来ねぇ筈だ…今度こそ、安心して構わねぇ。連中もサツ呼ばれて仲良くすんのは御免だろうしな。――さて、椿。『考え』についてだ。



何ですか?



――お前を改めて、鬼虎組へ迎え入れる。それはそれで危険かも知れねぇが…このままお前を放っておくのと、少なくとも俺の目の届く所に置いとけるのと…どっちがマシかっつー話だ。俺の傷を見てみろ…ナカにはああいう、公道でチャカ振り回すナリふり構わねぇ馬鹿もいるってぇこった…だが俺がいりゃあ守れる。分かるな?――俺にケジメ、ツけさせてくれ。



いいんですか?



――ありがとうな。肩の傷…まあ、目立たなくはなるだろうが、残っちまうかもな。――これが巻き込んじまったケジメってぇことにしといてくれ。この傷に誓って、お前を必ず守る。適当言ってるわけじゃあねぇぜ?鬼虎組の庇護もあるが、それ以外にも俺にはアテがある。



…アテ?



アテってのはよ…。こんな状況だ…椿には立場を知って貰う意味でも話すべきか…?いや…だが、言っちまえば…椿、お前は本当にコトが終わるまで、カタギに戻ることが出来ないかも知れねぇ…。く…っそ!こんな葛藤、初めてだぜ…?傷で弱ってるからじゃあねぇ――俺は椿にケジメ以上の情を感じちまってるらしい。はは…情けねぇ話だぜ…。



カタギに戻れなくても守ってくれるって信じてるから大丈夫ですよ!



あぁ、守って見せる。ありがとうな、椿。……いつ命(たま)取られるか分からないこの世界にいると、人を信じる方が難しい…お前だけは…信じさせてくれ。――決めたぜ、椿。俺は今からよ…二つ、お前に大事なことを話す。しっかり聞いてくれ。



なんですか?



冗談に思えるかも知れねぇがよ。これは二つとも真面目な話だ。これから、お前はこれまでの日常を手放し、裏の世界に足を踏み込んでいくことになる…覚悟を決めて、聞いてくれ…!



わかりました!



それじゃあよ…先ずは一つ目からだ。覚悟決めたか?…お前にだけは伝えておく…もっと寄れ…あのな…俺は…(今は潜入捜査中の…警察なんだ…)――この事は、鬼虎組や華獣組は疎か、その辺のカタギの連ちゅ……民間人にも口外禁止だ。(…鬼虎組以外のアテってのは、まあ…こういうこった)



…えっ!?そうだったんですか!?



ああ。…覚悟ってのはこういうこったな。(知っちまったら、もう俺が組を解体するまでは、カタギには戻せねぇ…分かるな?)――俺はお前を必ず守る。お前は俺を信じてついてくる。命懸けの二人三脚だ…笑えねぇ話だがな。――そしてもう一つ。これは…まあ、何だ…心して聞いてくれ…。お前からしたら得体の知れねぇ人間かも知れねぇがよ…俺の、素直な心意気だ。



聞きますよ!



なぁ…ちゃんと聞いてくれ…こんなヤクザな俺が人を好きになるなんて…お前からしたら迷惑でしかねーかもしれない…そんな事は俺だって分かってんだ…分かってる…でも…俺にはお前が必要なんだよ。お前の事を好きな気持ちをそのままに出来ねぇ…俺のそばにいろ。俺は…お前の事が…好きだ。何があろうとも俺が必ず守ってやるからな。――…以上だ。
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