道慈 通常

□3日目
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【朝】ん?ああ…起きたか、椿。目が覚めて自分の家じゃなくてビックリしたか?まぁ無理もない。想像も出来ないことが起こりすぎただろうからな。とりあえず、目を覚ませるためにも顔を洗ってくるんだ。場所は分かるよな?



うん!いってきます!



覚えているか。あまりウロチョロしないようにな。……いつ動く、か。あまり早く動きすぎるのは得策ではない…。ああ、おかえり椿。しっかりと目を覚ましてきたか?朝食だが、今朝佐久間が気を効かせて持ってきてくれてな。俺が準備をしておくから、その間に着替えてくるんだ。いいな?



わかった!後で佐久間さんにもお礼を言わないと!



ああ…で……から……pi♪待たせて悪かったな、俺は今日外に出る用事がある。あの出来事からそこまで日にちは経っていない。佐久間には連絡を入れておくから、椿はまだ家にいるんだ。分かったな。心細いかもしれねぇが待てるな?



…わかった!気をつけてね!



まぁ、思ったよりも長くはねぇさ。pipi…ppi…ああ、佐久間。俺だ。今日も外に出る用事があるから、椿の世話を頼む。……ああ、出来るだけ早く来てくれると助かる。…頼むぞ、pi…。椿、ということだ。ところで、椿から見て佐久間の働きはどうだ?



気が利くし、凄くいいよ!



そうか…ならいいんだがピンポーン…意外と早いな。きっと佐久間だろう。…ガチャ「佐久間さん!おはようございます!椿さん、今日もいい天気っすね!」あまり大きな声を出すな。「へ、へい…すいません…」とにかく、俺は今から出る。椿をよろしく頼むぞ。「へい!」



佐久間さん!今日も宜しくお願いします



戸締りは厳重にな。バタン…「怒られちまいやした…うるさいっすかね、っとと、八馬さんに戸締り厳重にしておけって言われたんでしたね…自分、ちょっとチェックしてきますね!あ、椿さんはゆっくりしていていいですから!」………



元気があって私は好きだよ?…戸締まりありがとう!



【昼過ぎ】ガチャ…戻ったぞ。佐久間、ご苦労だったな。椿はどこにいる?呼んできてくれ。「へいっ!椿さーん!八馬さんが呼んでらっしゃいますよー!」椿、戻ったぞ。椿にとある方に会わせないといけなくてな。これから時間は大丈夫か?



大丈夫だよ!とある方って誰?



帰ってきてそうそう悪いな。その会わせたいというのは鬼虎組のトップ、つまり組長に挨拶をしなければいけなくてな。いくら若頭の俺でも組長に挨拶をさせないというのはマズいんだ。あまり変な格好をして行くのはよろしくないから精一杯身なりを良くするんだ。時間までまだ余裕はあるが、準備を始めてくれ。



組長…恥ずかしくないように精一杯身なりを整えてくる!



――ん、準備出来たか?お、立派なモンじゃねぇか。んじゃ、こっちだ。――【組長の部屋】コンコン…失礼します、組長。「おう、八馬かぁ…」はい…例の女を連れてきました。「ああ、ご苦労。…ふぅん…べっぴんさんやんけ。――って、こりゃ死語かぁ?」ええ、お褒め頂いて、この者も喜んでおられますよ。なあ、椿?



はい!ありがとうございます



「くはは!まあ、そう固くなるな。――ところで、八馬ぁ…。カタギの女がここで暮らすに当たってぇ…まあ、相応の身分つーモンがあると…俺ぁ、思うんだ…」はい…その通りでございます。「ちゃんと…仕事は紹介したのか?」ええ、勿論…。「その割には、のうのうと暮らしている様に見えるんだよなぁ…」――それに関してですが、経緯があります。「ほぉん…そうか。言ってみろ…」



何を話すの?



この女は――椿は、他の組にとっての外交カードになり得る存在です。奴らの中では、椿は俺を誘き寄せるための恰好のエサ…という認識でしょう。それ故に、余り目立たせる、ないし、放任する状況を避けたいというのが俺の考えです。「ほぉん…。それ、そいつの首はねるんじゃあ、解決しねぇのか?」…現代のサツは優秀ですよ?100%アシを残さない自信があるのなら、一つの手かも知れませんね。…それに、彼女自身に、今の状況に至った責任はありません…そんな人間を無下に扱うのは、鬼虎の名に泥を塗ることにゃあなりませんか?「ふん…言うじゃあねぇか。――なぁ、椿さんとやら」



は…はい!



「お前さんは、この男をどう思ってる?この八馬って男はよぉ…どうにも堅くていけねぇ。こいつの頭と腕っぷしがありゃあ、何でも思う儘になるだろうによぉ…。何でも、忠義ってのを重んじてぇらしい。いつの時代だっての…。んで、まあ、そんな堅物でも、俺の大事な大事な部下…いや、家族みてぇなモンなんだわ…。椿さんよぉ…お前さんは、この不器用な頭でっかちをちゃんと信じてやれるのかい?」…!な…組長!?「テメェは黙ってろ」…はい。



私のために命張ってくれた彼のことは何があっても絶対に信じれます!



「…くはははは!良い答えじゃねぇか!「嫌いじゃあねぇ、面構えだ。――こいつよぉ…何か俺に隠し事してるみてぇでな…それが何かつーのは分からねぇんだが、どうも俺じゃあ力になれねぇらしい…。椿さんよぉ…もしアンタが、そんなこいつを支えてやれるってんなら…俺も、ここでの自由な生活を保障してやる。…それで、どうでぇ?」…組長。「だからテメェは黙ってろ」…はい。



支えてみせます!そうじゃなきゃ、女が廃る!



――どうだった?組長は?ああいう人間が組のトップに君臨している…。人望は厚い…まあ、カリスマってやつだろうな。……見ての通り、情に厚い人間さ。無法者の集まり故に、下手な法に縛られず、人情を押し通せる…だいぶ前に組長が言っていた言葉だ…。そして、椿も聞いただろうが、組長は俺が隠し事をしていることを見抜いた上で、寛容に接する……本当に、俺にはもう、善悪が分からねぇよ。



善悪は人の数だけあるからね…迷ってもいい…最終的に自分の信念を貫けたらそれでいいと思うよ?



まあ…長く続ける話でもねぇか。ちょっと、家に戻って話てぇことがあるんだ。良いか?(例の弾についてだ…昨晩、鑑識班から報告を受けてな…。見えてきたことが幾らかある…。その話をしようと思うんだが…)



わかった



おう、ありがとうな。んじゃ、取り敢えず戻るぜ――さて、着いたな…。盗聴の様子も…よし、ねぇな。――昨日の鑑識の結果なんだがよ、なんとよ…あのチャカをぶっ放した奴らの籍は、華獣組にはねぇそうだ…。



…え?…じゃあ、誰が何のためにあんなことしたの!?



ま、そう思うよな。パッと考えられる説は二つある。一つ――そもそもあいつ等は華獣組じゃあなかった…。二つ――アシを消す為に、あいつ等自身が消されちまったか…。椿はこれ、どう考える?



組織ってことを考えると後者の方があってる気がする…



まあ、予想の域は出ねぇよな。事は意外と厄介みてぇでな…。鑑識班が火器の出所を調べたところ…まあ、面倒くせぇ結果が浮上しちまったんだ…。予想してみるか?…ってのも流石に無理があるか。ヒントをやる。椿が華獣組に攫われた日、俺があの辺りを出歩いていたのはそもそもイレギュラーの筈なんだ…。とはいえ、偶然、俺を見つけての突発的な犯行かと言われれば…じゃあ、手紙なんていつ用意したんだって話になる。そもそも俺と、面接に来ただけの椿の関係性なんざ奴等には分からねぇ…。となると、それなりに俺の動向を知る機会のある奴等って話になる…どうだ?



…スパイみたいなのがいるってこと?



まあ、つまり…こういうこった。――鬼虎組に裏切り者がいるってこったな。奴等の使った火器の出所を辿ると、鬼虎組に辿り着いた。――まあ、さっきの組長みてぇな良い面ばかりじゃあねぇってこったな。――ある意味、映画やドラマ通りの印象なんじゃあねぇか?これは推測の域は出ねぇが…俺の失墜を狙った連中と、成果を上げてぇ華獣の三下が手を組んでた、ってところかもな。



…やっぱりそんなこともあるんだ…スパイは誰なんだろ



で、だ…。まだ確証のねぇ部分が多い。そこで、もう少し奴等にアシを遺して欲しいと思ってな…こっちとしては、少し、態と尻尾をチラつかせてぇと思う…。その…まあ、なんだ…具体的にはよ…。――椿、俺とデートしてくれ…!



…え?…デートでいいの?



ただ…勘違いすんじゃねぇぞ…?こ…これは俺がしたいからするんじゃなくて…捜査のためにするんだからな…?あんまり浮ついた気持ちでいると怪我しちまうぜ?さて…刺激的なデートになりそうだ…覚悟しておくんだな…



調査だとしてもちょっと楽しみだな!



あー…まあ、何だ…。――とはいえ、デートはデートだ。気負い過ぎなくて良いんだぜ?素直に楽しんでくれて良い…俺も…まあ、何だ…普通に…いや結構…かなり楽しみだからよ…?///――さ、準備してくれ。終わったら出るぜ?///



うん!



――準備、出来たみてぇだな。じゃあ出るか。まあ、そうだな…昨日で分かったと思うが、俺の家は本当に何もねぇんだ。今後も椿を一人で置いちまうこともあるかも知れねぇからよ…何か、暇を潰せるようなブツを買いに行くことにしようぜ。



そうだね!



――【繁華街】さて、着いたな。しかし…一人でも時間を潰せるモノつーと、本か映画くらいしか思い浮かばねぇな…。後は軽く酒を煽るとか、な。ゲームなんかもあるか…?ふむ…無難に本から見ていくか…良いか?椿。



いいよ!



んじゃ、本屋を目指すか。――着いたな。さて…俺が読む本なんざ、気まぐれに近代文学をペラペラ捲るくらいだが、椿はどういうものが好きだったりする?おススメがあったら教えてくれよ…折角だから、椿の趣味を共有してぇんだ。



私はライトノベル小説が好きだからな…冒険物語とかが多いかな…



ふむ、これが椿のおススメか。冒険ものもたまには悪くねぇか。(ペラペラ…)ふむ…確かに、面白そうだな。後で必ず読ませてもらうからな…っと、椿の暇つぶしのブツを探しに来たんだったな…。とはいえ、俺の勧められる本が椿の好みに合うかは分からねぇけどよ…。――これなんてどうだ?朝起きたら、膝からカイワレ大根が生えていたっていう男の話なんだが…。



…どんな話!?



お?気に入ったか?しっかし、近代の作家ってのは…意外ととんでもねぇこと考えるよな…片腕を貸してくる女の話だったり、ガキ同士の戯れの末に小便飲む話だったりとか……なんか、俺の趣味が疑われそうだから、ここまでな。取り敢えずこの辺は買って、次は映画でも探しに行くか?



そうだね!…趣味のことは黙っておくよ…



...本当にある小説だからな?――っと、この辺りだな。椿に勧められた本は後で読むから、ここに仕舞っとくか…ゴソゴソ。意外と映画は観ねぇんだよな。本と違って、手隙で触りづらくてよ…。ははっ、これを機に任侠モンの映画でも漁ってみるのは悪くなさそうだな。椿は何か、観てぇモンってあるか?



アクション系か…コメディーも面白そうだよね…



どっちも面白そうじゃねぇか。これ、今度一緒に観ねぇか?何とか時間は工面するからよ…ワインにサンドイッチ、軽く摘まみながらよ。――って、何だか椿の暇つぶし用のブツって目的から外れちまうな…まあ、二人で歩けば、必然、各々が楽しむことが前提になっちまうのかもな…///まあ、これはこれで悪くねぇ、よな?///



うん!一人より二人で楽しめた方がいいよ!



ま…こうなると、椿の暇潰しを探すってのは難しいかもな。俺もつい、楽しくなっちまってよ…。素直に二人で楽しめるモン見るか…そうだな、服とかどうだよ?椿の服、今でも上等に思えるが、ちょっと値段気にしねぇで気に入ったモン買ってみてぇ、なんて思ったりしねぇか?新居祝いみてぇなモンだ。買ってやる。



…え?…いいの?



ダメなら言い出さねぇよ。ここだな…。女性用の服なんざ基本、見る機会がねぇから、余り分からねぇが…。お、これなんてどうだ?白基調で清楚な感じでよ…こっちの道とは対極にある様な感じで、俺の好みなんだが椿的にはどうだ?



それ、可愛い!…こういうのが好きなんだね!



気に入ったか?ははっ、なら良かったぜ…♡椿自身でも、自分の服選んでみてくれよ。今後もこういう機会があるかも知れねぇだろ?そん時の為にお前の好みも知りてぇと思ってな…好きな服持ってきてくれて良いからよ。な?



ありがとう!探してくるね!



――持ってきたな?んじゃ、試着して来いよ。勢いで買ってサイズ合わねぇなんてのも、あんま笑えねぇしな。――お、試着出来たか?…少し、裾を合わせて貰ったが良いか?でもそれくらいだな…ははっ、良い感じじゃねぇか!この女の横を歩く、って考えると、ははっ、悪い気がしねぇ。



そう言ってもらえてよかった
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