道慈 通常

□5日目
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【ある日の朝】ふぅ…こんなモンか。あとはこのパンで挟んで、と…。ははっ、我ながら完璧な出来だぜ…少しタレが零れて食べづらさも感じそうだが…ふぅ…この口に収まらない感じが、ちょっとした贅沢感に……っと、椿、起きてたのか?年甲斐もなく、舞い上がったところを見せちまったな…。



サンドイッチ作ってたの?



前に約束したろ?サンドイッチを椿に作るってよ…。佐久間の野郎が気を利かせてくれやがったり、何だかんだ俺側の都合で朝が合わなかったりでよぉ…作る機会に恵まれなかったからな。今日は何もねぇ日だからよ…ここで作らねぇと約束、果たせねぇと思ったんだ。



ありがとう!美味しそうだね!



ん?何だ?食べる気にならねぇか?…まあ、確かに胃がもたれかねないボリュームかもしれねぇな…。さて…それじゃあ、顔洗って来な。歯も磨いてよ――ん、戻ったな?んじゃ、食おうぜ。八馬家直伝のチキンサラダサンドだ…ボリュームがすげぇが、満足感がちげぇ…一食で必要な栄養もすべて摂ることが出来る優れモンよ。――昔、よく俺のお袋が作ってくれてたんだ。



そうだったんだ…なら味わって食べないとね



ま、残したら食ってやるからよ。美味かったら美味いって言ってくれりゃ、素直に嬉しいがな。…お袋に会うのは難しいだろうからな…この、サンドイッチも、まあ…ちょっとした忘れ形見みてぇなモンだからよ。



そっか…道慈にとっては大事な物なんだね



まあ、生きてりゃ…親が飛んじまうこともあるよな…。っと、肉がやわらけぇウチに食わねぇとな。さ、食おうぜ。ん…んぐ…ははっ、我ながら完璧な出来だぜ…いや、俺の力じゃあねぇな…これがサンドイッチの秘めたポテンシャルってこったな…♡



美味しい!…でもこれを作ってくれたのは道慈だよ



まぁそうだけどな…。しかし、駄目だな…サンドイッチのことになると、我を忘れちまう…。でもよ、このタレがちょっとしみ込んで表面がふやけた感じとか、微妙に口に収まらなくて食べ方に悩む贅沢感とかよ…愛しくて堪らねぇんだよ…!分かってくれ、椿…。



熱意が凄いのはよくわかった



すまねぇ…ちょっと、抑えるぜ。さて…食べ終わったな…。恥ずかしいところを見せちまったな…正直、度々見ることになるかも知れねぇから、慣れてくれ…。(――ん?警視庁の方から連絡…?何だ…?)



ん?どうしたの?



ちょっとワリィな…。連絡が入った。――――そうか…。分かった。俺の方で対応出来ることは、今のところねぇか。分かった…引き続き組の方から経過を観察する。――椿戻ったぜ。



おかえり!大丈夫だった?



そうだな…一先ず、今日には影響しねぇ…。安心しろ。結論から言うと――華獣の頭の首が取られた…。現状、俺に出来ることはねぇから…様子見ってとこだな。だがまあ…椿ももし外を出歩くことがあれば、警戒くらいはしといた方が良いかもな…。



えっ…わかった、出かけるときは気をつけるね



分かってくれてありがとな…直近じゃ影響はしねぇだろうが…慌ただしくはなるかもな…。組の方に行ったときに、ピリピリした空気にはなるだろうな…。表立って激しい動きは起きないだろうが…まあ、その内、ニュースにはなるかも知れねぇな。取り敢えず今日は外に出ずにいるのが無難だろうと思うぜ。家でなんかするか…。



そうだね…何ができることあるかな?



この前、映画買ったろ?アレ観るのとかどうだよ。こういうのは、覚えてる内に観とかねぇと、埃被っちまうんだよな…。さて…プレーヤーあったっけか…っと、暫く使ってなかったが、どうにか動きそうだ…。さて…用は足しとけよ?飲み物用意したか?菓子はあっちだ――捲し立てちまったが…ふっ、こういうのは家で観るにも雰囲気を重視しねぇとだからな…。準備出来たら言えよ?



うん!ちょっと準備してくるね!



――よし、準備出来たみてぇだな。さて…じゃあ、電気も消して…っと。再生するぜ…。椿のチョイスだからな…なんとなく、映画を通してお前のことも知れるような気がして、楽しみだぜ…。お、始まったな…。



これ、楽しいから期待してて!



椿のオススメだから楽しみだ。――ぎゅ…♡おっと…。(思わず手ぇ握っちまったが…まあ、これも雰囲気か…)ははっ、これ…面白いじゃねぇか。久しく映画なんて観てなかったからよ…椿のお陰で楽しめたぜ…。椿は楽しめたか?



うん!凄く楽しかったよ!



そうか…楽しめたなら良かったぜ…♡しかし、面白かったな。制作陣の思想や、やりたかったことってのが見えてくる様な感じでよ…色々、考えさせられたぜ…って、こういう楽しみ方はちょっと違ぇか?純粋に面白かったのは間違いねぇぜ。椿はどんな観点で、今の映画を観たんだ?



私は純粋にストーリー重視で観るかな



なるほどな…。他人の観方ってのは、聞くと自分とは違ったモノが見えてきて面白ぇんだよな。椿の観方も興味深ぇと感じたしな。…何より、椿の知らない部分がまた少し見えた気がして嬉しかったぜ…。



なら、こういう話もこれからいっぱいしようね



っと、もうこんな時間か…。そろそろ昼飯食うか?まだ、朝に使った肉と野菜の残りがある筈だから、そこから何か作るか。逆に朝はがっつり食ったから、昼は軽めでも良いかもな?サラダにチキンでも乗っけるか。



そうだね、チキンサラダとスープとかでいいかな



よし、決まりだな。――さ、完成だ。サラダは手頃なのが良いよな。チキンも乗せりゃあ、満足度もたけぇ…。さて、ドレッシングはどうすっか。椿はどういうのを掛けたいとかあるか?



うーん…道慈に任せるよ



お任せか…ん、これなんか美味そうだな。んじゃ、それを掛けてっと…さ、食っちまおうぜ…。ん…サッパリした飯ってのも、良いモンだな。椿の選んだドレッシングもあってるし、センスあると思うぜ。



ほんと!?よかった!



今度、ドレッシング自由に作ってみるか。ふぅ…腹も満たしたが…。外にも出辛いとなると、何も無い日ってのはこう、どう過ごしたら良いのか分からなくなるな…。――いや、そういやぁ、あそこに、開けずに仕舞っていたブツが…。



なにかあるの?



数日前に実は、佐久間から椿と遊べるようにってことで貰ったんだけどよ。お…あったな。これ、人生ゲームだ…。俺、人生ゲームってやったことがなくてよぉ…いまいちどういうものなのか分かってねぇんだが…意外とリアルな感じに人生を追体験できる、革命的なゲームだとは聞いてるぜ。椿は詳しいか?



懐かしい…昔やったことがあるよ



説明書読みゃわかるか…。面白そうじゃねぇか…。ふむ…この人生ゲームとやら…辛口とか書いてあるが、これは罰ゲームに関係していると思って良いのか?正直、ワサビや辛子なんかは切らしていてよぉ…。



それは難易度の問題であって実際にそれを使うことはないよ?



…説明書を読む癖をつけねぇとな…。ふむ…マスの内容がちとキツめってぇ意味らしいな。あぶねぇ…辛子がなきゃレギュレーション違反になっちまうのかと、内心震えていたぜ…。――車?のミニチュアみてぇなのを使うんだろ?ピンクに青に黄色があるが椿は何色が良いんだ…



じゃあ青色にしよっかな



そうか、なら俺は…おっと、黒もあったな。――ここに人を乗せてと…じゃあ始めるか。…試しに俺がやってみても良いか?ん…ルーレットを…カラカラ、いきなり10が出たな、10っと…『深夜帰宅の独り飯、一回休み』……辛いつーか、苦ぇな。椿が一緒に食ってくれるから俺には関係ねぇな…。



確かに今は一人じゃないもんね



あぁ、俺には椿がいるからな。現実と重ねて考えねぇ方が良さそうだな…。しかしまあ、一人で食う飯は味気ねえからな…それでも一回休みは心が弱すぎねえか…?三歩進んで二歩下がるくらいの鈍足さじゃねぇか…。よっぽど応えたんだろうな…。――ほら、次は椿の番だぜ?ルーレット回せ、いくつだ?



じゃあ行くよ…あっ…6だ



その数だと…。っと…なんだ?『親に隠していた自作ポエムを見られた…1マス戻る』…ははっ…椿の自作ポエムか。お前にもそんな部分がなぁ…面白そうじゃねえか。俺も読んでみてぇな?



そんなものないから///



ははっ、ねぇのか…冗談だから安心しろ。俺は一回休みだからもう一回椿の番だな?一回の休みですげえ差を着けられちまう気がするぜ…ルーレットは…8だな、8マス目にはなんて書いてある?



えーっとね…これだね



ん、なるほどな…。ははっ、運が悪かったな。――それにしても、ありえないわけでもなさそうなあたり、妙にリアルな内容だよな…。次は俺の番か…カラカラ…『始末書のコピペがバレてしまう…。ニマス戻る』…そこまで不真面目じゃねえつもりだったが…。ほら、次、椿の番だぜ?少しは前向きな内容が出るといいんだが…



今度こそはいいのを出して見せる!



良いじゃねえか。次は俺だな…『始めて有給休暇が取得できる…5000円貰う』…なるほど。いつまでも下り坂ってワケでもなさそうだな。ネガティブな内容が多いのは辛口ってだけあるが…。いやしかし、5000円は安すぎねえか?



貰えないより貰えたほうが嬉しいでしょ



貰えるだけマシって…流石にこれはブラック企業って言われても仕方ねえな…って、こんな仕事してる俺が言えたことじゃねぇが…ルールさえ守られてりゃ、待遇は悪くねぇんだぜ?――【数時間後】やっと二人ともゴールか…山あり谷あり、意外と濃い人生だったな…楽しめたか?



うん!久しぶりにやったけど楽しかったよ



なら良かった…初めてこういうゲームをしたからな…。年甲斐もなく楽しめたぜ…まあしかしこの人生ゲームはガキにやらせるには現実的過ぎるな…。対処年齢は7歳以上だがもっと上げたほうが良いんじゃねえか?



確かに…意味がわかると大変だよね



ある意味、英才教育とも言えるかもな…。辛口ってだけあって夢も希望もねえ…大人の俺達には丁度良かったかもしれねえな。そろそろ日も落ちてきて良い時間だな?夕飯にするか。家にある材料で…カレーなら作れそうだな…。カレー、一緒に作らねぇか?



いいね!じゃあ今日はカレーにしよっか



よし…カレーが嫌いな人種はこの世にいねぇよな。…っとその前に俺は人生ゲームを片付けちまうからその間に椿は野菜を切っててくれるか?任せ切っちまうようでワリィが…すぐ片付くからよ。頼んだぜ。



いいよ!先に始めておくね



…片付け終わったぞ。そっちはどうだ。ん、良い感じに切れてんじゃねえか…じゃあ俺は先に肉を炒めておくぜ?切ったのも入れといてくれ…その間に鍋の方の湯も沸かしといてっと…。



ありがとう…手際いいね



スムーズだな。まあ一人だと億劫なことも二人でやると早えし楽だよな。よし、玉ねぎは透き通るまで炒めると良いらしいな…そこまで気にして作ったことはねえが、甘みが出るのか?。



そうだよ…生のままだと辛いしね



ああ、なんとかパッドってぇ筋から掴んだ情報だ。っと…丁度良いくらいに透明になってきたな。じゃがいも、ニンジンは…まだ少し固いが煮込めば柔らかくなっていくだろうから…鍋に移してしばらく煮込ませる…っと。そういえば米は炊いているか?



ちゃんと炊いてるから大丈夫だよ



手際が良いな。助かるぜ。煮込んでいる間…特にすることが無ぇな。惣菜類を足しても良いが…そこまでは良いか。少し休憩でもしておこうぜ。――椿も手伝ってくれたんだ、俺よりもしっかりと休んで貰わねぇとな。茶でも淹れるか…。



ありがとう



ちょっと待ってろ。――ほら、茶だぜ。料理も結構、体力使うよな…。一回一回はそうでもねぇが、毎日重なるとな…。仕事終わってカップ麺と弁当で済ますってヤツの気持ちも分かるんだ…。椿はよく手伝ってくれたと思うぜ…。



あれは私がやりたいからやってるに過ぎないよ
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