紫月通常

□出会い
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ある学校でクラスの委員長を務める貴女。そんな貴女には、所謂「腐れ縁」の同級生がいました。名を鴻森紫月(こうのもり しづき)――彼は昔からクラスの中で浮いており…貴女はそれを放っておけず、鬱陶しがられながらもついつい声を掛けたり世話を焼いてしまうのでした。先程まで珍しくクラスメイトと話していた彼の元へ近付くと、貴女の足元に1枚のプリントが…もしかして彼が探しているものはこれでしょうか?



――…(キーンコーンカーンコーン…)「なぁなぁ!……あ〜…っと…悪い、名前…なんだっけ…?」「おい、もう何年目だよ?(笑)確かに全然絡みないけどさ〜ほら、委員長がいつも呼んでんじゃん。”コウモリ”って」「ああ、そうだったわ。コウモリ、球技大会の希望種目まだ出してないらしいじゃん?明日の朝発表するから放課後までに持ってこい、って担任が言ってたぜ」……分かった。……名前、違うけど。「え?……んじゃ、伝えたから!(足早に去り)」……は〜…めんどくさ、サボるつもりだったんだけどな…。でも外の競技になったら困るし、書いとくか。……っていうか紙…どこやったっけ…?(ガサガサ…、ピラッ…)



もしかして…探してるのはこれ?



…あーそれそれ、サンキュ。(手を伸ばし)……ってか、あんたのせいで誤解されてるんだけど…。さっき話しかけてきたヤツ…俺の事、”コウモリ”って…。あんたがそう呼ぶから、他のやつにまで間違えられるんだけど…俺の名前はコウモリじゃなくて鴻森(こうのもり)。鴻森しづき、な…。……え…まさかマジで未だに覚えてないとか…ない、よな…?



もちろん彼の名前は覚えていますが…こうしてあだ名で呼ぶことで少しでも親しみやすいイメージが付けばいいと思い、ここ最近呼び方を変えてみたのでした。しかしどうやらこの作戦は失敗だったようです…。



いや…さすがに覚えてるよ?…ただあだ名の方がみんなと仲良くなれるかなって…



はぁ…最近になって変な呼び方するなって思ってたけど、そんなこと考えてたのかよ…?ほんと、相変わらずお節介…。別に俺が浮いてるのとか今に始まったことじゃないだろ。もうずっと…自分で望んでこうしてる。ひとりだろうがなんとも思ってないし、ほっといていいのに。……どうせ、打ち解けて仲良くなっても…普通のやつとは一緒に生きられないんだし。(ぼそりと呟き)



彼は度々このように意味深な呟きをする事があり……そういった発言を耳にする度、またそうやって中二病みたいな事ばっかり言って…!と思わず呆れてしまうのでした。



またそういうこと言う…やってみないとわからないでしょ?



本当お節介だよな…。……いや、まーいいや。(ふい、と顔を反らして)これ以上…詳しく言うわけにもいかないし――(ザワッ…)「え、行ったの!?」「やー…だって気になるじゃん?でもホント行かない方がいいよ…あの噂、マジかも…。(青ざめた顔を俯かせ)」「やばくない…?先生とかに言った方が…」――……?なんの話してんだアレ……ただごとじゃなさそうだけど。椿、知ってる?



え?知らない…なんのことだろう?



へぇ…流石のいいんちょでも知らないんだ?じゃあ俺が知ってる筈がないな。ま、別に関係ないか……「(にょきっ)…おやぁ鴻森氏、あの噂を存じ上げないのですね?他者との交流がない故に情報に疎い鴻森氏はともかく…委員長氏も知らないようですので、このワタクシが解説して差し上げても良いですが…デュフ…」……うわっ、オタ山…じゃなくて岡山…。いつからそこに…っていうかそれより、噂って…?



そこに現れたのは、喋り方に癖があるものの校内の情報通でもあるクラスメイトの岡山……通称オタ山。彼の言う噂とは、一体なんのことなのでしょうか…?



私も気になるから知りたいな



どうでもいいって思ってたけど…そこまで勿体ぶられると気になるよな。「いいでしょういいでしょう…(眼鏡をくい、と上げ)…どうやら最近、旧校舎で怪しい人影が目撃されているようですな。といっても…”人”と言って良いのかは定かではありませんが…。グフ…なんでも怪しげな笛の音が聞こえ、影が一瞬見えたかと思えば、足音もなく消え去るようですから…所謂、心霊的なモノではないかと言われているのですよ〜」……あー…なるほど、そういう…。(呆れたように目を細め)そんなん……え、もしかして…椿…結構信じてる…?



えっ…そんなことは…



やっぱり…気付いてないかもだけど、さっきから俺の袖掴んで離さないもんな。何…椿って心霊とか怪奇現象とか信じてんだ?はは…絶対大したことない偶然の出来事に尾鰭が付いて話がデカくなっただけだって。いつの時代もそうやって人間たちは怖がりつつも面白がって…んで全然関係ない所で勝手に怪我したり命落としたりして、ある事ない事広められてきたんだよな…。(ぶつぶつ…)椿も…怖いだけならまだしも、好奇心は程々にしとけよ……って…、聞いてるかー…?



よし…ちょっと怖いけど様子を見に行ってみよう



……もしかして、確かめようとしてんのか?…いや、怖いくせに無理すんなって…。まぁ何言っても無駄か…その正義感とかお節介な所、昔から俺以外にもガンガン発揮するよな…。はぁ…どうなっても知らないけど〜…?――…「あ…うん、そう…私が行ったのも放課後だったよ。噂通り、使われてない教室から変な音がして…」「ウソ、委員長…行くの?そりゃ確かにこのままじゃ学校に来るのすら怖いし、何かの勘違いだって分かれば皆安心すると思うけど……」――…【旧校舎】(ガタンッ…!キュッ…パタパタ……ガシッ!)



クラスメイトから更に詳しく話を聞いた貴女は、さっそくその日の放課後に……と思いきや、先生からの頼まれごとをしているうちに辺りはすっかり真っ暗になってしまいました。しかし善は急げということで、諦めることなく旧校舎へ…。恐る恐る歩を進めていると、突如背後から肩を掴まれ…!?



ギャアアア!?



あー…ごめん、まさかそんなにびっくりさせるとは…。ほら、俺だって。…や…確かに一回帰ったけど、忘れ物思い出して戻ってきたんだよ。そしたらまだ椿の靴があったから…もしかして、って思って……え…もしかして、今ので腰抜けた…?(じ…)……はぁ…やっぱりびびって動けなくなってる。あのなぁ…普通に危ないだろ、こんな時間に…自分が女だってこと自覚しろよ。力も弱いんだし…何かあったらどうすんだって。心霊現象じゃない、危険なことだってあるんだからな…?



危なくなれば逃げればいいかと思って…



ったく…脚も腰もふにゃふにゃじゃん。よくそんなんでひとりでここまで来たな…。んで…結局噂の「変な音」とやらはしたの?……ふぅん、特に何もなかったんだな。ま…もし仮に本当に霊の仕業だったとしても、毎回律儀に音鳴らしてくれるわけでもないだろうしな。……というか…今の椿の状態じゃ、これ以上散策するのも無理でしょ。ほら…帰るぞ。(椿に手を差し伸べて)



うん…ありがとう



ん、そのまま掴まってろよ。そんな脚震えてる状態で歩かれると、こっちがヒヤヒヤするからさ。…え…俺の手が熱い…?あー…そうか?気のせいじゃ……っていうか人のいつもの体温なんてよく覚えてんな…。確かに俺は平熱低い方だけど…。――…【帰り道】…俺んち着いたけど…どうせこっから近いし、椿の家まで送ってく。またどっかうろついて危険な目に遭われたら、今度は俺も責任問われそうだ…し……(ふらりと鴻森の身体がよろめいて)…あ…?



えっ…大丈夫!?



今…一瞬、世界が回転したんだけど…。あー…分かった、これ…熱…あんのかも…しん、な……。(ぐらっ…)――…ん…ぅ…、(もぞもぞ…ぱちっ)…あ…ここ…俺の、部屋…?(起き上がろうとし)…っ…は…なんでだ…身体、力入らな…。(ぽすん、とベッドに転がり)…って…そこにいんのは、椿…?……もしかして…椿が部屋まで連れて来てくれたのか…?



そうだよ…具合はどう?



別にそんなに心配しなくていいのに…、悪かったな。あ―…今謝ったのは、ここまで運ばせたこともだけど…。…さっき、女なんだからとか、力弱いんだしとか…色々言ったのも…ごめん。こうやって助けて貰った以上、俺も偉そうなこと言えないよな。…あと、ありがと。はは…椿のお節介にお礼言う日が来るなんて……、……ん…?なんか…部屋の外から匂い、する…?(くんくん…)



熱に浮かされ苦しそうにする彼を見守っているだけでは気が休まらず、キッチンを借りてお粥を作ってみた貴女。どうやら勘付いた様子の彼に、何か食べられそうか伺ってみることに…?



お粥作ってみたんだけど食べれそう?



お腹は…いつになく空いてる。え…お粥、って…俺の為に?マジか、助かる…。っていうか…人が作ってくれたご飯とかすごい新鮮。見て分かると思うけど…うち、この一軒家に住んでんの俺だけだからさ。あ…食べる前に、着替えだけしてもいい…?結構汗かいてるから、このままずっと制服着てんのもちょっと……。



いくら付き合いが長いとはいえ、着替えまで見守る訳にもいきません…彼が着替えている間にお粥を温め直して来ることにしましょう。



わかった…お粥温め直してくるからその間に着替えお願いね



…ん、気利かせてくれてさんきゅ。すぐに着替えるから。――…【数十分後】…ふぅ…ごちそーさま。ありがとな、美味かった。……いや、ほんとだって。俺が食べてる間、やたら自信なさげな顔してた気がするけど…お世辞とかじゃなくて、上手に出来てたよ。…ただ一個、気になってることがあるんだけど…(じ、と椿の手元を見つめ)…椿…指、怪我してない…?



実はあまり料理の経験がなかった貴女。味には問題なかったようですが、かなり手間取ってしまったことは事実で……更には、知らない内に指先に小さな傷まで出来てしまっていたのでした。



…え?…ほんとだ…ちょっと怪我してるみたい



ふ…お粥作る過程で指切るような作業あったか…?(呆れたように笑い)椿って…昔からたまにそういうところあるよな。結果は完璧なのに、その過程では結構おっちょこちょい発揮してたりさ。ホント、危なっかしいっていうか…。…それより…そのままだと良くないだろ、確か絆創膏がその辺にあるから…ちょっと待ってて。――…(くるくる、ぺた…)…ん、これでいいか?良かったな、血はあんまり出てなく、て…。………。(黙って椿の手を取ったまま指先を見つめ)



どうしたの?



(はっ…)……あ、ごめん…。今…ぼーっとしてた。流石にまだ本調子じゃないのかもな…でも椿のおかげで腹は満たされたし、あとは安静にして早く治すわ。…っと…もう時間も遅いし、椿もそろそろ帰った方がいいよ…な…、…あ……れ…?なんで俺…椿の手を離せない…んだ…?(ぐらっ…)…っ…!(ベッドに倒れ込む鴻森)



こんな状態で置いて帰れないよ!落ち着くまではそばにいる
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