紫月通常

□2日目
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【次の日の朝・教室】(ガララ…)……あ、れ…おはよ。(少し驚いたように目を丸くして)…学校来んの、やけに早いじゃん。…あー…俺は数日休んでたから、その分自習でもしとこうかなと思って早めに来たんだけど……椿はなんで?今日…なんかあったっけ。「(にゅっ…)フフ…もうすぐ球技大会ですから、皆さんその練習の為に集まっているようですな」……お、わっ…お前もいたんだ。って…そうか、球技大会…すっかり忘れてた。椿は……。「委員長氏は確か…バレーでのご参加でしたね?」



うん、私はバレーに出るよ



マジか…大変そー…(肩を竦めて)ま、頑張れ。……あれ、俺は結局何になったんだ…?そういえば休んでたからそれも知らないな…。「ああ、鴻森氏は……」(ガララッ…)「お、いたいた。もう具合は大丈夫なのかー?(まじまじと見つめ)ん〜…まだ顔色悪いんじゃないのか…?」…先生…いや、顔色はいつものことなんで体調は問題ないです…。「ほー、それなら良かった。とはいえまだ病み上がりだ、鴻森は球技大会の日は主に得点係とか先生の手伝い、してもらうからな!よろしく頼んだぞ!(にかっ!)」……え…。……もしかしてこれって逆に面倒なパターン…?



本当に大変そうなら手伝うよ?



はぁ…当日、気が重い…。色んな人と関わらないといけなさそうだし。これならまだ卓球のシングルスで初戦負けしといた方が楽だったな…。「おいおい、そんな事考えて卓球って書いてたのか?今年は皆気合入ってるからな、もしわざと負けてたら総スカン食らうところだったぞ!(ばしばしと背中を叩き)」……え、そんなに本気になるものだっけ…。というか…オタ山こそ何するんだよ?「フッフッフ…よくぞ聞いてくれましたな。ワタクシは今回……戦略担当です。(眼鏡がきらりと光り)」……いるか?ただの球技大会に、それ…。(怪訝そうに椿の顔を見て)



うーん…どうだろう?



なー、要は応援係みたいなもんだしそっちの方が楽そう…。「おっと、そういえばこれもまだお話していませんでしたな。実は今回、優勝したクラスには購買で使える商品券が授与されるのですよ。我々は育ち盛りの若者ですから…食糧獲得の為には躍起にもなる、ということですな」……へー…なるほどな。まぁ確かによく購買行くやつなら嬉しいか…俺にはあんま関係ないけど。



確かに紫月はあんまり行かないよね



そうそう、俺はあんま購買って使わないし…。「ああ、鴻森氏はいつもお弁当でしたな。しかもとてもとても美味しそうな…」…な…、なんでそんなとことまで見てるんだよ…。「ワタクシの観察眼を舐めないでくだされ…鴻森氏の親御様は随分なお料理上手なのでは?と思わされるお弁当でしたぞ。委員長氏もそうは思いませんか?」……っ…!(焦ったように椿に目配せをし)



そ…そうなんだ…あんまりお弁当とか見てなくて…



ほ…ほら、普通のヤツは俺の弁当とかそんな見てないって…。(ほっ…)…ってか…いつまでもこんなところで話してていいのかよ、戦略担当さん?「ム…そうですな、そろそろワタクシも朝練の様子を見に行くとしましょう。ではまた…ヌフフ…。(ススス…)」……はー…焦った…。(胸を撫で下ろし)椿、さっきは話合わせてくれてありがと。あいつ変な所で勘が鋭いし…クラスの中では椿以外で唯一絡むヤツだから、ひょんなことからバレそう…。お互い気を付けないとなー…。



そうだね…注意しておかないとね…



ん、改めてよろしく。つってもそれが椿の為にもなる訳だし、俺は別に苦ではないけど。まぁ…別に、弁当は自分で作ってるって話ぐらいだったら言ってもそんなに問題なさそうだけど…。……や、嘘。普通に恥ずかしいから、やっぱ内緒で。っていうか…さっきみたいに人に美味そうとか言われても、自分で作って自分で食べてるだけだと全然実感ないんだよな…。



えー…あんなにご飯美味しいのに



あー…椿がそう言ってくれるのは、そりゃ嬉しいけど…。(照れたように顔を反らし)…っと…椿もそろそろ練習行かないとか。頑張って。(ひらりと手を振り席に着く)――…【1週間後・球技大会当日】「やったー!決勝進出!」「うちらマジでいい感じじゃない!?」「優勝あり得るかも…!」――…すご…もしかして本当にあいつの戦略が効いてるのか…?(スコアボードをリセットしながら)……あ、椿…おつかれ。さっきの試合見てたけど、活躍してたじゃん。意外って言ったらアレだけど、実は結構運動神経良いんだ?



意外でしょ?これでも運動神経はいいんだ



ほんと、ふつーに見直した。かっこよかったよ。あとそもそも、俺じゃ絶対あんな風に人の輪の中に入れないから…それも純粋にすごいなって思ったかな。……でも何より…椿がずっと楽しそうにやってたから、ただ見てるだけのこっちもなんか楽しかっ……(きゃー!)……え?歓声で聞こえなかった?……あー…別に、盛り上げ上手だったなって言っただけ。



…?そうなの?ありがとう



この調子で決勝も頑張って。見てるからさ。試合の続きは午後だったよな。ってことは…椿も今からお昼食べるところ?……あの、さ。良かったらお昼…一緒に食べない?…あー…いや、他のやつと約束してるとかだったら、全然いいんだけど。同じ競技の人たちと話すこともあるだろうし…。(そわ…)



それはないから大丈夫だよ



……大丈夫?ホントに?…なら良かった。…実は…(声を顰めて)…今日は弁当、ふたつ作ってきたんだよ。だから…、…って…何ぽかんとしてんだよ。別に俺がいっぱい食べたいとかそういう話じゃなくて…椿の分も作ってきた、って意味なんだけど?つっても…椿も自分のお昼ご飯、あるかもしんないけど…。



まさか作ってきてくれるとは思ってなかったから自分のもある…



いっぱい動いてるし、両方食べられるだろ…多分。――…【屋上】(カチャ…キィ…)…あれ…もしかして、屋上来るの初めて?まぁそっか、普通の生徒はそもそもここに入れるってことも知らないよな。俺は…前にどっかひとりになれる所ないか探してたら、先生がここで煙草吸ってるの見かけちゃって…内緒にする代わりに合鍵貰ったんだ。取引ってやつ。…まぁ…俺が一緒になって悪さするような友達もいないからくれたんだろうけど…。



そんな事あったんだ



ま、友達いないってのも意外と役に立つってことだな。……別に強がりとかじゃないから。本当の理由はどうであれ、人目に付かなくて済むから都合良いし…たまーに使わせて貰ってる。ほら、こっち…座りな。ご飯食べながら今日の事とか…色々聞かせてよ。――…(もぐ…ごくん)へぇ…すごいじゃん。椿、練習の時から更に上手くなるために大分頑張ったんだなー…よしよし。(椿の頭を一撫でして)……え、今俺変なことした…?いや、びっくりした…顔真っ赤になるから…。もしかして…褒められるの慣れてない?



こんな風に褒められることはなかったから…///



自分じゃ分かんないかもしれないけど…今、大分可愛い顔になってる。…確かに、椿って昔からずっと優等生ぽいっていうか…まぁ実際そうなんだけど、なんでも出来て当たり前みたいに思われるのかもな。本当はお粥作るだけで謎の切り傷作ったりするようなドジなところもあるのに…。…ふ、はは…ごめんごめん。馬鹿にしてる訳じゃなくて…そういう部分も知ってんのは俺だけなのかな、って思ったら…嬉しかっただけ。



それは秘密にしててください///



椿の意外な一面は、これからも俺だけが知ってればいいから…他の人には見せないでね。…うーん…頑張ってる椿に、なんかご褒美でもやりたいけど…すぐには思いつかないな。といっても、俺に出来る事なんて限られてるけどさ。…まぁ、何かしら考えておくから…午後も頑張って。椿が活躍するところ…ちゃーんと見てるから。…こんな事言われると緊張しちゃうか。



ちょっと緊張するけど見ててくれると嬉しいな///



ふは…じゃあこっそり見るわ。だから気にせず、自由にやりなよ。――…【決勝戦試合中】(バシッ…!)「いいぞー!頑張れ!」「ひぇ…さっきから接戦すぎ…でも勝てる勝てる…!」……みんなすげー集中してんなー…。「一進一退の攻防が続いていますねぇ…。こちらのバレーもですが、今隣のコートで行われているバスケもかなり白熱して…、…アアッ…!」……!椿、あぶなっ…!(椿に目掛けて飛んできたボールを既の所で弾き)「こ…鴻森氏…!中々の音がしましたが…だ、大丈夫でしたかな…?」



えっ…紫月!?大丈夫!?



や、俺は全然大丈夫。(ひらひらと手を振り)それより…椿に当たんなくてよかっ……「えー!コウモリ結構反射神経いいんじゃん!」「実はスポーツできる系?能あるアレはアレをアレする的な……!?」…っ…、アレって…なんも分かってないじゃん…。(たじたじ…)「おやぁ…?鴻森氏、瞬く間に人気者の気配ですな!まるでラノベの主人公みたいですぞ」…や…こっちも何言ってるか全然分かんないんだけど…別に人気になっても嬉しくない、から…。(顔を赤らめ)…ああ、もう…俺を見てないで試合戻れって…!



ふふっ…紫月照れてる



椿もにやにやすんなよ…。(じと…)…はぁ…なんでこんなことに…。――…【試合後・教室】「やったー!優勝だー!」「賞品、きちゃあ〜!」「いやはや、一旦試合が止まった後どうなるかと思いましたが…どんどん突き放して最終的には圧勝でしたな。無事に購買の商品券も手に入って……おや、鴻森氏はいらないのですか?」…当たり前だろ、俺は参加してないし。俺の分は椿にでも…。「それがですね、委員長氏もいらないとおっしゃって辞退されたのですよ」……は?椿、なんで…そんなところまで俺に気回さなくても…。「そういえば先ほど試合前に、美味しいお弁当を食べたから力が出ると言ってましたからねぇ…委員長氏もお弁当派になったということではないですか?」……え…な、それって…。



あっ…それは…///



……まぁ…力になれたんなら、いいけどさ…。(ぼそ…)――…【帰り道】…ホントに良かったのか?あんなに率先して頑張ってたのに勿体ないって思っちゃうけどなー…貰えるもんは貰っとけばいいのに。っていうか…岡山が言ってたアレ…。もし椿の力になるなら、これからもたまに弁当作って来るけど…?(ちら…)



えっ…ほんと!?作って欲しい!



…ん、あんなんでいいなら…。また椿とふたりでお昼食べれるって事だし。――…あ、もう俺の家着いちゃったな。…えっと…、(視線を彷徨わせ)……ん?俺の手なんて見て、どうしたんだよ。…ああ…赤くなってる、って?そりゃ、あんだけ勢いよく飛んできたボール弾けば痕くらい付くよ。でも別にそこまで痛くないし…心配ない。



ダメだよ…ちゃんと冷やさないと後で痛くなるよ?



ええ…めんどくさ…。……あ、それならさ…椿に…冷やすの手伝ってもらおうかな。――…【鴻森の部屋】……んっ…、冷たい…けど、気持ちい…。固定してくれてありがと。赤くなってるの利き手だから、自分ひとりじゃ出来なかったかも。でも片手使えないから暫くなんも出来なくて暇…。……あ、そうだ。



どうしたの?



椿、今のうちにシャワーでも浴びて来れば?今日あんだけ動けば汗も結構かいただろうし…本当だったらすぐ家帰って、さっぱりしたかったでしょ?でも折角家寄ってくれたし、出来ればもうちょい話したいっていうか…だから俺が手冷やしてる間、良かったらうちのお風呂使いなよ。



え?いいの?



うん、好きに使って良いから…行っておいで。――…あ、おかえり。ふ…気持ち良かった?椿、大分すっきりした顔になってる。お風呂は気持ちいよなー…俺も熱いのは苦手だけど、入るのは別に嫌いじゃないし。ああ…俺の手の方ももう大丈夫そう。ほら、さっきより大分目立たなくなってるでしょ?(手を差し出して)



ほんとだ…でもまだ注意はしてね?



気を付ける。俺ひとりじゃ手当とか何もしてなかっただろうし、椿のおかげ…さんきゅ。…そういえば、お昼にちょっと話したこと…覚えてる?あー…その、ご褒美ってやつ。あれ、考えてみたけどやっぱりそんな大したことは思いつかなくてさ。でも…椿が嬉しそうだったから、こういうのはどうかなって思って…(座ったまま脚を開き)…椿、ここおいで。俺の脚の間。(ぽんぽん…)



えっ…う…うん///
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