蒼 通常

□出会い
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ある日貴女が街で買い物をしていると、強引なナンパ男性に捉まり明らかに困っている一人の「女の子」が…。初めは助けるかどうか迷っていましたが、そのどこかで見覚えのある声や顔に引き寄せられるように、気付けば貴女はその子の腕を掴んでいて…?



あの…だから、勘違いだと言ってるんですが…。「またまた!こーんな可愛い子がんなワケないじゃん!確かにちょっと声は低めだけど…そんなんで騙せると思ったのー?そんな所もかわい〜な〜♡」…駄目だ、話が通じない…。(無視すれば良かったかな、道教えてなんて言うからてっきり困ってるものだと…)…っ…?…えっと、お姉…さん…?なんでボクの腕を掴んで…。(はっ…)まさかあなたもこの方のお知り合い、とかですか…?(戸惑いながら)



このナンパの人は知らないです!私この子に用事があるのでもう行きますね!



えっと…(はっ…。もしかして、この方はボクを助けてくれようと…?)「何々?トモダチいたの?わ、そっちの子もかわい〜じゃん!」…あ、忘れてた。…って、うわっ…!?お姉さん、急にどうしたんですか…?一体どこに向かって…!――…はぁ…はぁ…、(息を落ち着けて)ふぅ……。…突然男性を一喝して、ボクの腕を引いて走り出した時はびっくりしましたけど…あの場から逃げられたので、良かったです。すごい勇気のある方ですね。



流石に困っていそうでしたし…逃げれて良かったです!



貴女が初めに抱いた、既視感…その理由がようやく分かりました。彼女…もとい彼は、今数々の話題の舞台に男の娘キャラとしても出演する新人役者、早乙女蒼(さおとめ あおい)だったのです…!そして貴女は……そんな彼の大ファンでした。※しかし突然ファンである事を伝えてしまうと、彼に警戒されてしまうかもしれません…ここはひとまず内緒にすることにしましょう!



本当に助かりました…困っていたので。…あ…もしかしたらさっきの男性との会話、聞こえてたかもしれませんが…。その…ボク、こんな格好ですけど、男…なんですよね。なので…もしあなたの行動が、女の子を助ける為のものだったとしたら…騙すような形になってしまってすみません。…ん…?ボクの顔、じっと見つめて…どうしたんですか?



会話も聞こえてましたし大丈夫ですよ!



な、なるほど…?何か失礼な事をしてしまったとかでないなら、いいんですが…。ああ…こういうことは、よくあるんです。まぁこの見た目じゃどう見ても…ですしね。ボクは女の子と違って、怖い思いとかはしないんですけど…ちょっと訳があって、ああいう時上手く追い払えなくて。でも、ありがとうございました。あの…本当に助かったので、お礼をさせてくれませんか?沢山走って貰って、喉も乾いてると思うので…せめてお茶だけでも。



え?…いいんですか?



ボクがどうしても、あなたにお礼をしないと気が済まないので。すぐ近くに、ボクも行ってみたかった喫茶店があるんです。とても静かで落ち着きそうな雰囲気なので…行ってみましょうか。――…【喫茶店】(カランカラン…)わぁ…外観も素敵だなと思ってましたが…内装はそれ以上ですね。ふふ…来れて良かったです。あ、こちらどうぞ。(ソファ席を指し)



ありがとうございます!



ふふ…気に入って貰えましたか?良かった。(メニューを開き)あ…クリームソーダがある…、これにしようかな。ボク、クリームソーダ好きなんです。…って…好きな食べ物の話する前に、そもそもまだ自己紹介もしていませんでしたね。ボクは、早乙女蒼(さおとめ あおい)って言います。……名前も女っぽいんですが、好きに呼んでください。えっと、あなたの名前は…?



私は椿って言います!



椿さん、ですね。ふふ…素敵な名前です。椿さん、改めて先ほどはありがとうございました。周りにも沢山人いましたけど…結構みんな見て見ぬ振りだったじゃないですか。だからあの場で困っている人を助ける事が出来る椿さんの勇気とか度胸って本当にすごいと思いますし、尊敬します。あ…一方的に喋ってしまってすみません…(少し恥ずかしそうにし)…椿さんは何頼むか決まりましたか?



そう言われるとちょっと恥ずかしいな///…私はココアにします!



それですね、それじゃあ一緒に頼んじゃいます。すみませーん…――…あ、来ましたね…はい、こっちが椿さんのぶんです。じゃあ…(手を合わせて)いただきます。(ぱくっ…)…んん…冷たい…けど、甘くてシュワシュワしてて美味しいです。(顔を綻ばせ)椿さんはどうですか?お口に合うと良いんですが…。(じっと見つめる早乙女)



うん!美味しいよ!



本当ですか?それなら良かった…このカフェにして正解ですね。――…ふぅ…、ご馳走様でした。初対面でこれ以上長々引き留めてしまうのも失礼ですし、ボクもこの後用事があって…そろそろお店、出ましょうか。なんだか少し…、名残惜しいけど。(ぼそ…)――…【カフェの前】…椿さん、今日は本当にありがとうございました。椿さんも帰りは気を付けてくださいね?可愛らしい方なんですから、ああいった男性に絡まれる事は十分に考えられますし…。



心配してくれてありがとうございます!もし何かあったら走って逃げます!



もう…冗談じゃないんですよ?本当に気を付けてください。…それじゃあ、さよなら。(ポトッ…)…ん?あれ…椿さん、何か落として…。これは…パスケース?大変、追いかけないと…って…あれ、もう姿が…!?や…やっぱり早いなぁ、椿さん…。――…【翌日:繁華街】…さん、椿さん…!(椿の元に駆け寄る早乙女)はぁ…はぁ…ああ、よかった…合ってた…。もしかしなくても…これ、探してますよね。(パスケースを差し出し)あ…というかボクの事、分かりますか?



早乙女の写真を入れている大事なパスケースを失くしてしまい、昨日通った道を必死に探していた貴女。そこに話しかけてきたのは、聞き覚えのある声をした短髪の青年で…?



…え?…もしかして…早乙女さん?



分かってくれて良かったです。無事にパスケースも渡せたし…。あ、中身を見たりはしてないので安心してくださいね。それより…これも何かの縁ですし、これからある所に付き合ってもらえたりしませんか?今度はボクがパスケースを拾ったお礼を椿さんにしてもらう、っていう理由で…これはちょっと狡いですかね?



パスケースありがとうございます!今度は私がお礼をします!



そんな事ないですか?ふふ…良かった。そうでも言わないと、椿さんとお話出来ないかなと思って。ある所っていうのも…昨日と同じ喫茶店なんですけどね。お気に入りになってしまって…また椿さんと行きたいなって思ってたんです。――…【喫茶店】あ…今日は窓辺が空いてますね。天気もいいので、あそこにしましょうか。ボクはもう注文決まってるので…椿さんは何にしますか?



うーん…ならケーキにしようかな



椿さんも決まり…ですね。注文しちゃいます。――…この格好のボクは見慣れなくて違和感ですか?椿さん、じっとボクの事見てるから。昨日はちょっと…訳があって女装をしていただけなので、普段は基本こうなんですよ。でも…椿さんは、女装に偏見とかはないんですか?昨日もとても優しく接してくれたので、不思議だなと思って…。



偏見はないですよ?…それに女装とっても様になってましたし



なるほど…椿さんは素敵な方ですね。といっても…ボクは女装が趣味、って訳ではないんですが…。必要だったから、そうするしかなかったというか…。(表情を曇らせ)…あ、いや…なんでもないです。きっかけがどうであれ、今それが色々な事に繋がっている訳なので…それは感謝しないとですね。(誤魔化すように笑い)



そうなんですね



椿さんと出逢えたのも…その色々な事のうちの一つですし。繋がると言っても、決して良い事ばかりではないですが…。…あは…実は、前にボクを女性だと思った男性の方に付き纏われてしまった事があって。本当は男だと言っても頑なに信じてくれなかったんです。今はその付き纏いの件は解決しているんですが…それから男性に絡まれると、その時の事を思い出してしまったりして。…椿さんが助けてくれたあの時も……。



…そうだったんですね…



ふふ…もう大丈夫です。でも、本当に助かりました。いつか椿さんに、恩返し…できたらいいな。(ぽつりと呟いて)――…あ…もうこんな時間なんですね。外も暗くなり始めてる…。時が過ぎるのがあっという間に感じるくらい、椿さんと話すの楽しかったです。クリームソーダも飲めましたし…久しぶりに、素の自分が人前で少し出せた気がして…。あの…良かったらまた、こうしてお茶でもしませんか?椿さんが良かったら…なんですが。



いいですね!私もまたしたいです!



いいんですか?ふふ…勇気出して誘って良かったです。…それじゃあまた。(恥ずかしそうに顔を反らし)……楽しみにしています。――(手を振り見送って)……ああ…誘っちゃった…。久しぶりにこんなに緊張したな…本番直前も、板の上でも、ここまでドキドキしたことはないかも…。――…【数日後】…あ、椿さん…こっちです。ふふ…この姿のボクじゃ、やっぱり見つけにくかったですか?



そんなことないですよ!見た瞬間わかりましたよ!



こっちのボクにも見慣れてくださいね?あ…今日行くのは、こないだとは別の所なんです。今日は穴場の喫茶店に椿さんを連れて行きたくて。…ん、ここです。レトロでとってもいい雰囲気ですよね。ほら、入りましょう。(カランカラン…)――…(きょろきょろと店内を見回し)…あれ、今日はいないのかな…。



何を探しているんですか?



知り合いが来ている事があるんですが…今日はいなかったみたいです。ここにはふたり顔見知りがいて…一人は店員で、もう一人はお客さんなんですけど。お客さんの方は、喫茶店とかカフェ情報共有仲間…みたいな感じなんです。でもボクよりずっと年上で、確か旅館?の経営かなんかをされていて忙しい方なので、あまり予定が合わなくて。いつか椿さんにも紹介できたらいいなぁ…、って…勝手に想像しちゃってすみません…すっかり椿さんも仲間みたいな気分で…。(恥ずかしそうにはにかみ)



そう言ってもらえて嬉しいです!
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