ネタ詰め

□愛という事。恋という事。
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 ぐじゅりと音を立てて、胸が悲鳴を上げるのを、私は聞いた。

 こういう時は、痛いという感情すら湧かないのだろう。
 ただただ、圧倒的な暴力のような、脳の奥を揺さぶるような。そんな感情が彼女を襲っっているのが見てとれた。

 ほろほろと零れた涙を見て、彼は驚いた顔をする。
「どうした」と問うその級友が、今はその隣を別の女で埋めている事を、彼女は知っていた。
 僅か三日ばかり前に、彼女は他に思い人ができたという事を伝えられて泣くのを必死にこらえて「おめでとう」と伝えたのだから。


 彼女は別に、悲劇のヒロインになりたかったわけではないし、くのいちといえども、そこまでして彼を引き留める事はないと思っていた。


 ―――思いたかったのだろう。


 私の知っている彼女は、いつも気高かった。
 まっすぐ前を見て、涙など似合わない。誇り高き女性だった。
 私の級友でもあるそいつと付き合い始めたという噂が出回った時、私は我が耳を疑った。けれども彼女が、幸せそうに笑うから。

 実際はどうだろうか。今、この場所で。彼と、その隣にいる可愛らしい町娘を見て、現に彼女の胸は悲鳴を上げていた。


 ぐじゅりという、膿んだ傷口を思い切り抉るかのような、そんな音が聞こえる程に。
 必死に笑顔を作ろうとして、くのいちのくせに失敗しているその表情が痛々しかった。

 こらえきれず、と云ったように零れる涙は、嫉妬と怒りに染まっている。
 それでも私はその涙を綺麗だと思う。

 彼を想い、彼を慕い、彼を想っているが故に自分の想いを殺そうとして、殺せなかった、不器用な彼女。
 あぁ、「私も、こんな風に愛してほしい」と思ってしまった。
 彼女は二人きりならばどんな顔をするのだろうか。いつもは真面目な彼女が、どんなふうに私を甘やかし、甘やかされてくれるのか。私はそれを考え、どうしようもなく「いいな」と思ってしまった。

 初恋すらもまだである私は、正直愛と恋と好きとの違いなんて分からないけれど。

 どうしようもなく、それは本能かもしれない。運命かもしれない。必然かもしれない。
 彼女が欲しいと、そう思った。




●愛という事。恋という事。●



++++++


 続く、かも?

 
 

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