番外編
□ドレスコードの花
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※イラスト投稿掲示板にて頂いたイラストに滾った勢いで書きました。本当にありがとうございます。
背後の扉から会場に入ってきたその二人は、歓談していた招待客の視線を集めた。
一人は五大王族である天蒼家の長男、天蒼楓だった。グレーのスリーピーススーツを身につけ、綺麗にセットされた銀色の髪を耳にかけている。
王族主催であるこのパーティに招待されるも当然という人物であった。
彼は入った瞬間注目されているのが分かったのか、その長いまつ毛を伏せて軽く会釈をする。その所作にほぅ、と招待客から感嘆のため息が漏れた。
楓と共に一歩後ろから現れた人物もまた、楓に倣って会釈する。
その伏せられた目が上がったとき、会場にざわめきが起こった。
その瞳が、深い紅だったからだ。
ヒソヒソと話し始める招待客の様子を横目で見ながら、楓は紅い目の少年に一言告げると歩き出した。
後ろに続くその少年のピアスが赤く光った。
******
数週間前。
「立食パーティー?」
「ああ、双廓家主催のな」
昼休みの食堂、いつも一緒に食べている三人がそれぞれ別に用があるとのことで、焔羅は一人でパスタを食べていた。ヒノはお行儀よく焔羅の肩にとまっている。
そこへ現れたのが楓だった。ハンバーグ定食を持った楓は話があるからと焔羅の前の席に座る。
そしてパーティーに招待されたという話を始めた。
「王族主催なら、まあ楓も招待されるよな」
「別に初めてのことじゃないんだが、今回はお前もどうかって話になってな」
「俺?なんで」
「今回は招待された人が一人で参加するのではなく、人生や仕事上のパートナーを連れてくることを推奨されている。友達でもいい。まあ、交流会みたいなものだ」
「つまり招待されたのは楓だけど、パートナーとして俺もどうかってことか?」
「そういうことだ」
異業種交流会みたいな物だろうか。と思いながらパスタを口に入れようとして、はたと気づく。
パートナー…………………?
「あのー、楓」
「ん?」
ハンバーグを飲み込んだ楓が口についたソースをナフキンでふいていた。舌で舐めないところが王族という感じである。
「パートナー、とは」
「パートナーはパートナーだろ」
なんでそんなこと聞くのか?という表情である。
焔羅は戸惑いつつ告げる。
「仕事上の?」
「……なんて言って欲しいんだ?」
あ、これは分かってて言ってるな?
楓の、焔羅をからかっているときの目だ。
むっとしてパスタを口に入れる。
「からかっただけかよ」
「そんなつもりはなかったんだがな。大切な人だと思ってるのは本当だし」
愛おしいものを愛でるような目で言われ、焔羅はその眼差しに射抜かれたように目が離せなくなった。
その固まった一瞬、ヒノが尾羽で焔羅の背中を擽る。それに驚いて肩に乗るヒノを見た。モチモチと胴体を肩に預けて綺麗な紅い目を細めている。イチャイチャするなら他所でやれ、とでも言いたそうだ。
その一連の流れを見て、楓がくすくすと笑った。
「それで、返事は?俺にエスコートさせてくれるか?」
「……うん、ついて行く」
あんまり華やかな場には慣れていないが、楓のお誘いとなれば満更でもないのである。
パーティーに参加することにはなったが、ドレスコードには詳しくないし所作や礼儀作法も、知識としては知っているが実践はしたことが無い。
パーティー用のスーツ一式を準備しつつ、あの時礼儀作法について聞いておけばよかったと後悔していた。
楓いわく今回はお堅いものではなく本当にただの交流会みたいな形だそうだが、焔羅は楓の隣に並ぶのであれば最低限のマナーは知っておきたいと考えた。
考えた、のだが。
「スーツ着て背筋伸ばしてニコニコしてりゃいいんだよ今回は。天蒼が隣にいるんだろ?全部なんとかしてくれるって」
「五大王族とは思えない発言出た」
天蒼家と同じく五大王族である錘馳家の三男、亮太は軽い調子でそう宣った。隣で聞いていた水希が呆れた声で呟いた。
パーティーの話があってから数日後、楓に用があって訪れた2-Aの教室で焔羅は亮太に声をかけられた。亮太も招待されていて、焔羅がパーティーに参加することを知って話しかけてきたのだ。
ちなみに楓は不在だった。
「どうせ招待客たちが興味あるのは主に王族、黒凪みたいに顔が知られてないのは静かにしてりゃ壁の花よ」
静かにしてれば、ねえ。
うーん、と焔羅は難しい顔をした。そういうわけにもいかないのである。
「楓の隣に立つわけですし」
「いやだから、その天蒼に丸投げすりゃいいんだって。なんか心配ごとでもあるのか?」
「……会場って魔道具の持ち込みは?」
「もちろん禁止だが……」
目下の課題はこれだ。魔道具が持ち込めないということは、変彩眼鏡がかけられないということだ。
悪い意味で目立つこの紅い目を晒していれば、壁の花になんてなれないのである。
「あーーなんか事情があんのか?」
亮太が心配そうに問いかけたその声と被るように、焔羅は背後を振り向いていた。
「エスコートさせてくれるんじゃなかったのか?」
「……楓」
「信頼されてないみたいで悲しいな」
焔羅はぐっと言葉に詰まった。その様子をみて亮太がカラカラと笑う。
「俺の隣にいてくれればそれでいい、分かったか?」
「……分かった」
そして冒頭へと戻るのである。
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