聖霊狩り
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━━何が「どうだ? こういう哀しい魂は、優しく労ってやるのがコツだと、そう教わっているだろうが」だ。
僕は感心するでもなく、ふんと鼻でせせら笑ってやる。
━━きつめの眼差しで、反抗的に……
「つけあがらせないよう、最初にがつんとやっておくのも効果的だと経験から学んだが」
「それも一理あるけどね。下手に怒らせて、面倒を増やすのも得策じゃないだろうに」
「貴重なご意見、参考にはしておくよ」
おどろおどろしい亡霊を話題にしている癖に、僕達の会話は至ってビジネスライクだ。
それもそのはず
僕の名は飛鳥井柊一(あすかいしゅういち)。
和装ドラキュラは多能雅行(おおのまさゆき)。
僕達はそういったさまよえる魂を鎮魂する職務を負って動いていた。
御霊、というものがある。
非業の死を遂げた怨霊が神として祀りあげられたものだ。
何故、怨霊を神に、と思うかもしれないが、無念の思いが強ければ強いほど、守り神となった場合の霊力も強いと昔から考えられていた。
例えば、大宰府に左遷されてかの地で没した菅原道真が天神さまとして崇められているのも、朝廷に敗れた平将門が関東の守り神になっているのも、御霊信仰の典型である。
御霊信仰は広く民間にも浸透しており、道真や将門ほどの有名人でなくとも、日本各地に御霊は存在している。
だが、もとは怨霊。
ひとたび怒らせれば、大規模な天変地異さえひき起こす危険な存在である。
そんな御霊が無意味に暴走しないよう管理しているのが僕ら、御霊部のメンバーだ。
その源は、奈良時代にまで遡る事ができる。
今でこそ、僕らは闇をもぐって極秘で活動しているが、昔と変わらずそのバックについているのはこの国そのものなのである。
「さて、柊一くん」
城址公園をさまよっていた御霊を鎮めた雅行は、嬉しそうに言った。
「そこで、君に新たな使命だが」
「また?」
僕は露骨に顔をしかめた。
「毎年思っていること何だけど、夏になると僕の仕事だけが妙に増えてない?」
「高校生はもう、夏休みに入ったんだろ。時間はあるはずだ、深くは考えずに働け働け」
「未成年をそんなにこき使わないでもらいたいな。絶対、労働基準法に違反してる」
「じゃあ、労働と思うな。これも修行の一環だ」
「なるほど、真夏にか弱い吸血鬼を働かせてくれるなってことか。長く太陽光線を浴びると老化が早くなるものな」
ああ言えば、こう言う。
どっちも負けていない。
年齢の開きが十歳近くあるにもかかわらず、僕らふたりは対等に喋っている。
御霊部ではあくまで能力が問題であり、年齢はさほど考慮されないのだ。
「全く、最後においしいところをかっさらうんだったら、最初からここの仕事、雅行がやればよかったんだよ」
━━言ってないけど、一応病弱何だよね、僕。
だから、真夏には余り外に出たくない。
というか、涼しいところで一日中過ごしていたい。
ま、言わなかった僕が悪いんだけど……
人間、言いたくないこと一つや二つ…あるだろ。
「いやいや、手を出すつもりはなかったんだがな。迎えに来たついでだよ、ついで」
「…で、次はどこへ行けって?」
「さあ。部長から聞いてくれ」
「役に立たないメッセンジャー」
軽口を叩き合いながら、僕らは肩を並べて歩き出した。
━━━━━僕達の背後に、鉄筋コンクリートの城は、数百年前よりはるかに小綺麗なたたずまいでひっそりとたたずんでいる……
(「相変わらず、顔に似合わず凄い御霊の仕方だな」)
(「よく言うけどさ、顔に似合わずって何? 至って普通の顔でしょ」)
(「そういうところも、相変わらずだ。はやく自分のことを自覚しないと…そのうち、足をすくわれるぞ?」)
(「…どういう意味」)
(「そのままの意味だ」)
(「それと、気味が悪いものを見ても、悲鳴をあげたり、後退りしたりしないようにな」)
(「……見たのか」)
(「バッチリな」)
(「…最悪だ……」)
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