NOVEL-BL-

□診察室で溺れて。
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●●今日は日曜日。



俺はある1つの小さな病院の看護師としていつものように勤務していた。



日曜日は、9時から昼の12時まで病院の診察を受付、昼は一度締め、13時から再び受付を開始する。




― のだが、





『伊野尾くん、』




12時を回った診察室で、いつものように午前の片付けと午後の準備のために診察器具を弄っていたとき。


後ろの椅子から、声が聞こえた。




「何ですか?薮先生。」



『随分と冷たいな、相変わらず…伊野尾くんは。』





そう、この病院の主治医である薮先生だ。




「…そんなことないです。普通です。」


俺は先生に背を向けたまま、ぶっきらぼうに答えた。




『………そうか…?ならこっちを向いてくれよ…』


「……!」



椅子に座っていたはずの先生の声が、自分の耳許で聞こえる。


要するに、後ろから抱き締められているのだが。



これも、いつものことだ。



薮先生は、どういう性癖なのか知らないが、日曜日のこの時間にいつもこういった非日常的かつ理解に苦しむ行動をとる。


しかも、日曜日だけ担当の看護師が俺だけなのだ。


つまり、院内には俺と先生だけ。


おかしい、と抗議したところで聞く耳を持たれないことぐらい分かりきっている。


だから俺は、
薮先生が苦手だし、なるべく関わりたくない。



気が済んだら離れてくれるだろう、と
いつもこのセクハラ紛いの行動に黙って耐えている。


だが、この日は違った。




『なぁ……こっち向けって…。』


耳許で囁かれる言葉に、低い声に、ぞくっとする。



「…嫌です。」



絶対に嫌だ。
目も合わせたくない。



「…ていうか先生、はやく離れてください。邪魔です…………!?」



言い終わらないうちに、
腰元に違和感を感じた。



薮先生が、俺の腰回りをゆっくりと撫でていたのだ。



「…なにしてるんですか!やめてください…!」



『……うん…燃える、燃えるよ……伊野尾くん…。』



俺の言葉は聞こえていないのか、
いや、端から聞く気なんてないのだろう。


相変わらず俺の耳許でゆっくりと囁く。



その間もやはり薮先生の大きな手が俺の腰を厭らしく撫で回していた。



「やめ……っ」



ぐぐっとそのまま片手で腰を引き寄せられ、
空いている方の手で手を掴まれた。



『可愛い………。』




― ちゅ、




あろうことか、そのまま首筋に顔を埋め、唇を押し付けられた。



「……いや…、!」




抵抗しようにも、
手も腰も掴まれているため不可能だ。



そのうちも、
薮先生は俺の首筋、うなじ、そして鎖骨の後ろ側あたりに唇を這わせている。




「先生っ!やめてください…!」



自由の利く口で抵抗したが、
後ろから羽交い締めにされたまま、
医療器具のある位置から歩いて移動させられ、
患者用のベッドがある仕切りの中の壁に身体を押し付けられた。




『…伊野尾くん……ほら。』




突然、強い力で身体を回転させられ、目の前には薮先生の顔。つまり向かい合わせにさせられてしまった。



「……っ、」




そしてそのまま、唇を重ねられる感触。



固く結んだ唇も、薮先生が腰に施す愛撫のせいで緩んでしまう。

うっすらと開いた唇から、咥内へ先生の熱い舌が侵入してくる。




「……ん、ふ」




逃げ惑う舌を優しく、でも強引に絡みとられ、嫌でも淫らな水音と嬌声が漏れる。




『ちゅ……ん、ほら、伊野尾くん……もっと舌絡めて…』



「…ん……んは、……」




嫌なのに、頭が考えることを止めてしまったかのように思考が回らない。



つ…と唇同士が離れたかと思えば再び求められる。



先生に何度も何度も舌を絡ませられたり、
歯列を妖しくなぞられたり、
上唇と下唇を舌で犯されたり唇ごと侵入してきたり……


その、あまりにも過激なキスに全身から力と理性を奪われかけ、足ががくがくと悲鳴をあげ始めると、

指と指を絡ませ、
もう片方の手で先生が腰をしっかりと支えてくれた。



やがて、ちゅ……とまるで“ごちそうさま”とでもいうかのように唇が離れた。
名残惜しげに、一本の透明な糸を引いて。




「……はぁ……っ、せん、せ……、」



おかしい、
名前を呼ぶのに精一杯で、抵抗なんて到底できない。



『…伊野尾くん…やけに官能的な表情だねぇ……、誘惑しているのかな?』




とけそうな俺に、
口角をあげながら悪魔のような台詞をぶつけてくる先生。





「そんなこと……、ないですから…っ、」




と言いつつも、身体が意思に反していることぐらい自分でもわかる。

先生にすがるように抱きついているのだから。





『…まあ、君が何と言おうと、僕は止めないけどね。』




その言葉と共に、
身体が回転し、天井と薮先生が視界に入り、
背中には心地よいシーツを感じた。










――――
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