Song of the love to give you who are red

□出逢いは小さな公園の夜。
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「ちょっと…どういうことなの」

慣れ親しんだその部屋には私と、彼と、知らない女。
私が先程荒々しく開けたドアはばんっと音をたてて壁にぶつかった。いつもいる部屋のはずなのにとても息苦しい。この状況を一言でいうなら浮気現場?いや、修羅場だろうか?
ふざけんな。

「いや、これは……」
「うるさい。言い訳とか聞きたくない。」
「先輩は悪くないんですっ!」
「あんたも黙って」

私の彼、いやもう彼なんて言いたくないな。あいつの腕のなかに収まった多分後輩であろう女は高い声をあげた。

「あなたがもっと先輩のこと考えてあげてたらよかったんじゃないですか!?」
「黙れっていってんのわかんないの?」
「っ…だからっ」
「うるさいな。私は今、そいつと話がしたいの」
「 鈴っ…! 」
「名前呼ばないで、気持ち悪い」

こいつのことを考えてあげてなかった?見てもいないのに勝手なこと言わないでほしい。こいつが二人で住もうと言ってこの部屋を借りたのだ。もちろん私はすぐにOKをして、いつも食事をつくって洗濯もして、でも二人の時間も欲しいからって夜中に一人でやったりして。考えてないのはこいつのほうでしょ。恋は人をおかしくさせる。だから今まで私はこいつのためにといろいろ尽くしてきた。そうすれば喜んでくれると思って、結婚したらこうなるのかな、なんて考えて…。
ああ、でも冷めてしまった。馬鹿な女だ私は。こんなやつに騙されていたのか。

「やっぱいいや。話すことすら馬鹿馬鹿しい。」
「待ってくれ!」
「甘ったれないで。彼女がいるのに他の女と寝る馬鹿なんて知らない。もうここには戻ってこないから。部屋はすきに使えば?そのキイキイうるさい女と一緒に」
「 鈴っ… 」
「……。」

くるりと踵をかえして部屋を出た。部屋の中からは二人の声が聞こえてきて目をつぶって走った。泣かない。泣いてなんかやらない。なのに、どうして涙が出るの?あんなやつもうどうでもいいのに。
なにがいけなかったのかなぁ…。


今日、本当は友人と食事だったんだ。でもその友人からドタキャンされてしゅんとしてたから部屋で待っているだろう彼に慰めてもらおうとして帰った。そしたらどうだ、あの部屋が見えてきたと思ったら彼と知らない女がキスをして部屋にはいっていった。そこから頭のなかがスッと冷えて気づいたら荒々しくドアを開けていた。
私、そんなにあいつのことすきだったのかな?わかんないや、もう。
なにも考えずに電車に乗ったけど行く宛もない。それでも明日は大学に行かなくちゃなんて考えてる。ホントにショックを受けたときって、全然関係ないことを考えたくなるんだね。
二つ三つ駅を通りすぎたらすぐに終点で回りのひとに急かされるようにして私も降りた。ここがどこなのかもよくわかっていないけれどとりあえずそとに出て歩いた。歩いて歩いて、どこに向かうわけでもなく。ふと足をとめたところは小さな公園で私はそこのベンチに座って丸くなった。白いシフォンスカートをはいていたけれど気にしないで膝小僧を抱え込むように丸くなった。オレンジだった空がいつのまにか暗くなって電灯がちらほらとついていく。どうやらまわりは住宅街らしく、家の光が外にもれていて暖かそうなそれが恋しくなった。「ただいま」っていって、「おかえり」っていってもらいたい。そう考えると自分が一人なんだってことが痛感できて胸が苦しくなった。

「そんなところで何をしているんだ?」
「えっ?」

また涙が出そうになるのを必死に我慢していると上から声が降ってきた。驚いて見上げると色白の肌にとてもよく映える赤髪の青年がたっていて、私にはその髪が羨ましいほど暖かそうに見えた。






〈出逢いは小さな公園の夜。〉

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