Song of the love to give you who are red

□知りたい。名前を呼ばれたい。
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講義を受けて私は足早に駅へと向かっていた。このあとスーパーに行くためだ。昨日はおごってもらったし泊めてもらったし…ご馳走しようと思ったからだ。夜ご飯を家で食べるかどうか確認しようと思ってケータイを取り出したとき気付いたのはいつのまにか赤司さんの連絡先が入っていたこと。まぁ、手間がはぶけてよかったのだが。
「うーん…なに作ろうかな?」
スーパーに来て悩んだのはそれ。というか朝からずっと悩んでいたかも。だって昨日あんなごちそうをいただいたのだ。料理は結構好きでいろいろ作ってきたが昨日のごちそう達には到底及ばないだろう。
「とりあえずなにが好きか聞いてみよう」と思いメールをしてみればすぐに「湯豆腐」とだけかえってきた。忙しい中ごめんなさい…。
豆腐をかごに入れて新鮮な野菜もいくつか…。それと私の好きなほっけも。あぶらがのっていてすごく美味しいの。
家にかえるっていうとおかしいかもしれないけど、再びお城のような赤司さんの家に今度は自分で鍵を開けて入る。なんだか変な感じ。鞄をソファーの上において一度買ってきたものを冷蔵庫に入れる。
まずはお米をといで炊飯器様に炊いていただく。おかずは…まず湯豆腐でしょ?んー、お豆腐が好きなのかな?じゃあ味噌汁も作ろう。それにほっけでしょ、あとはおひたしでいいかな?なんだかすごく和風になったけど体にもいいし昨日のごちそうは洋食だったからいいでしょ。
トントントンとリズミカルに包丁を扱えば楽しくなってきちゃって気付けば全て出来上がっていた。母直伝の作り方だからお袋の味というものがでるらしく友人にも結構人気なのだ、私の料理。気に入って貰えるといいけど。
「そういえば、夜ご飯食べるとはいってたけどいつ帰ってくるかは分かんないや」
すぐにあたためられるようにして私はソファーに寄りかかるとケータイをみる。今は7時半くらい。仕事は終わっただろうか。どうせなら今日も一緒に食べたい。しつこく送られてくるメールの通知が来ないように設定して、いつかはちゃんと話さないと、と考える。でも今はまだ話せない。話したくない。














「ん…」
「ただいま」
「あ…赤司さん、おかえりなさいです」
髪の上を赤司さんの手がすべるように動くのが心地よくて目を細める。
「夕飯を作ってくれたのか?」
「はい。あ、温めますね」
ぼんやりしながら立ち上がると眠気を覚ますように伸びをしてキッチンへむかう。赤司さんは上着を脱いでハンガーにかけているようだった。作ったものを温めなおして赤司さんの座るテーブルに持っていく。心なしか赤司さんは嬉しそうな顔で私も笑顔になった。
「まだ食べてなかったのか?」
「一緒に食べようと思って…いま何時ですか?」
キョロキョロと時計を探せば9時を指していた。赤司さんが上品に口に運んでいくのを見ながら私も箸をとった。
「いつもこれくらいなんですか?」
「いや、今日は少し遅くなったな。代わりに明日は何もない」
「あ、私も明日は休みです」
そういえば、ちゃんとした自己紹介とかしてなかったかも。でも私のことなんてもう全部わかってそうだよなぁ…。
私も赤司さんのこと知りたいなぁ。
「美味しかったよ、ありがとう」
「い、いえ!…あの!私、 桐島 鈴といって… 」









〈知りたい。名前を呼ばれたい。〉

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