長編 薄桜鬼
□一章
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ふと本の文字を流し見ていた瞳が止まる。
「沖田、総司さん……」
私は 周防 夢羽。
既に母親というものがいない私の家は基本的帰宅時間が自由なのでよく図書館に寄って本を読んでいる。
新選組が大好き、というか沖田総司という男の名を見るとどうしてか胸が高鳴る。
「この世にいない人にときめいてどうすんだ、私…。」
新しく入ったらしい新選組についての本を手に取ると本棚のすみにもたれ掛かった。一人になれるその場所で本を読むのが好きだった。
緩む頬を抑えきれずに本を開く。
「…は?」
間の抜けた声が少しだけ響く。
本のページをパラパラとめくるが何も書かれていない。
真っ白な本
期待していた分なんとも言えぬ脱力感に襲われる。
不良品にしては全ページ真っ白という不思議過ぎる本を開いたまま私は何と無く呟いた。
「沖田さん、貴方は…幸せでしたか?」
途端、目の前が白で染まる。
一瞬遅れて自分が本にのみこまれているのだと気づく。しかし驚くことができたのは少しの間だけで、いつの間にか私の意識は白から黒へと変わっていった。