桜の旅路
□音の無い裏切り。
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「っごほ…!、げほっ…」
部屋で1人の空間では咳の音がよく響く。
こんなにも夏の日差しが強く光り輝いているというのに自分にはもう日の下に出る力すら無いのだろう。
「沖田さん、入りますね。」
「千鶴ちゃん…」
「今日も暑いですね…西瓜を切って来ました、よかったら」
「いらない。」
雪村が持って来た西瓜に見向きもせず、また庭の方へ視線を向けた。冷たい言葉で突き放すが雪村は負けじと、
「一口でもいいので食べて下さい。斎藤さんにも手伝ってもらったんですよ?」
「……一くんが?」
「はいっ。総司が喜ぶなら、と言って快く手伝ってくださいました!」
「ふぅん…」
「じゃあ私は失礼しますね。何かあったら呼んで下さいっ」
雪村は変わらぬ笑顔で微笑むと丁寧にお辞儀して部屋をでた。
痩せていく沖田の姿に心を痛めながら。治らない事を知りながらも治ります、治ります、と彼に言い続けるのは正直 辛かった。
沖田は横目に西瓜を見る。
(別に一くんが切ったから食べるわけじゃないけどさ。)
心の中で呟くと一口、二口と西瓜を食べ進めていく。
「総司ー!入るね!!」
はつらつとした声がすると思ったら勢いよく襖が開いた。意外や意外、藤堂平助であった。
いいよ、とも言っていないのにズカズカ入ってきて沖田の横に座った。
「西瓜じゃん!俺も食っていい?」
「どーぞ。どうせ1人じゃ食べきれないし」
「…、そっか。んじゃいただきまーす!!」
シャクシャク、と水々しい音を立てながら美味そうに食べている藤堂。沖田は1つ食べたところで手を止めた。
「ど?調子は??」
「平助が来たせいで余計に悪化した気がするよ」
「ええええっ!?」
「嘘だよ。」
「あ、なんだぁ。よかったー」
喜怒哀楽がハッキリしている藤堂を見ていると、何故だか少しだけ自分が生きている事を実感できた。何というか…彼は人間らしい人間だと沖田は考えた。
「平助はどうなのさ。」
「え、俺?」
「だって君…あれ飲んだんだろ…?」
「あー…あぁ」
明るかった藤堂の顔が少しだけ暗くなった。
藤堂は強さを求めて""を飲んだ。守るべき物を守る為に。
「ま、昼間 出れねぇくらいかな。別に全然 辛くねぇよ」
「へぇ……」
「……………」
(嘘が下手すぎて驚くね…)
おそらく昼の隊務に出れないのが苦なのだろう。理由は……原田との時間が少なくなった事か。昼は原田が忙しく働いているし、夜は原田に気を遣い休ませたいのもある。自分もそれなりに忙しいのだ。顔を合わせる機会が減るのはきっと寂しいのだ。
「僕らは寂しい者同士だね。」
「っへ?」
「平助、おいで。」
「なんだよ…?」
「僕、平助の事、別に嫌いじゃないんだよね。」
「はあ?……っちょ、…………」
唇が合わされた。
藤堂の大きな目が更に大きく開かれる。彼は深さを増す口づけを突き放そうとはしなかった。
じわりと舌から伝わる感覚は暫く感じていなかったものだったからだ。何も考えずに自らも舌を絡ませていた。
原田を裏切ることだとしても。
To be continued.